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2:最後の晩餐

◆夕食と招待客◆


 今回の招待客は、ほぼ全員が友人関係である為、ドレスコードは一番低いレストランでの外食向けのものでとダヴィデに指定されていた。


 一階の食堂に案内されると、其処には、友人四人と知らない女性が一人いた。

 招待主のダヴィデ。

 彼の従兄弟のエドガルド。

 私のはとこのクロリンダ。

 彼女の婚約者であるファウスト。


「此方は、最近仲良くなったダリラ嬢」

「お目にかかれて光栄です」


 紹介された彼女は、初対面の人間に緊張した様子だった。



 食事中の話題は、彼女と菊花の事が大半を占めていた。

 ダリラは子爵家の庶子で、正妻を病で亡くした子爵が以前の愛人を思い出し尋ねたところ、ダリラの母は病により死の間際にあった。

 子爵は、そこで初めて愛人に子がいる事を知り、ダリラが自身の妹に似ていた為我が子に間違いないと認知したのだそうだ。

 ダリラの母は間も無く息を引き取り、ダリラは子爵家に引き取られた。

 ダヴィデ達とは、クロリンダの友人を介して知り合ったと言う。


「ダリラ様。それは、マナー違反でしてよ」

「あ。済みません。ありがとうございます」


 テーブルマナーがまだ身に付いていないダリラにクロリンダが指摘すると、ダリラは教えてくれた事に礼を述べた。


「クロリンダ。皆の前で恥をかかせるものでは無いよ」


 クロリンダの婚約者であるファウストが、それもマナー違反だと窘める。


「それもそうね。ごめんなさいね。ダリラ様」

「いいえ。すみません。私の所為で」


 謝るダリラは、恐縮した様子でクロリンダとファウストを交互に見た。

 自分がテーブルマナーを間違った所為で、二人の仲が悪くなるのではないかと心配しているのだろうか?



 その後は、五人が菊花に異世界の事を尋ねた。




◆談話室◆


 食後、談話室に移動し、男性陣はワインを・女性陣は紅茶を飲みながら、菊花が歌う異世界の歌を聞いた。

 菊花は歌手では無いので、歌唱力は大した事は無い。

 しかし、不快な程では無いので問題は無かった。

 ただ、男性歌手向けの歌を女声で歌うのは、違和感が大きかったが。


「偉大なる王や英雄を讃える歌は、無いのか?」

「え~と……。あるかもしれませんが、ちょっと思い浮かびませんね」


 ダヴィデにリクエストされた菊花は、困ったようにそう答えた。


「私は、昔の曲はあまり知らないので」

「そう言えば、其方の国では身分制度は廃止されたのだったか」


 皇帝と皇族は廃されなかったらしいが、残された権力はそう多くないとか。

 だから、皇室を讃える歌を聞く機会も無くなったのだろう。


「あ。国歌を歌いましょうか? 昔作られた長寿を祝う詩が元になっていて、陛下の治世の長さを祝う事にも用いられていたそうです」

「では、それを頼む」

「はい」


 菊花が歌った祖国の国歌は、これまでのものとは異質だった。

 しかも、短い。


「え? もう終わり?」

「はい」


 代表のように驚きの声を上げたエドガルドに、菊花は肯定の言葉を返した。


「此方では、普通、陛下を讃える歌は、もっと長いのだが」

「私がいた世界でも、そうですよ。ただ、我が国には、長年、文字数が決められた短い詩を詠む文化がありまして」


 それは、中々難しそうだ。


「余程秀逸な詩なのでしょうね。陛下の治世を祝う為に用いられたり、国歌にまでなったのですもの。どのような方が詠んだのかしら?」

「残念ながら、誰が詠んだのかは伝わっていないそうです」

「あら。そうなの」


 詠んだ者は不明でも、流石に、平民と言う事はあるまい。

 幾ら菊花の故郷でも、昔ならば、教養のある平民は居なかっただろうし。



 その後は、男性陣で盤上遊戯を行った。

 最初にダヴィデとエドガルドが、次に私とファウストが対戦し、勝者である私とダヴィデの決戦の途中、観戦に飽きたのか、エドガルドはダリラとソファに座り何やら談笑を始めた。

 次に目を遣った時には、ファウストもそのソファに座っていた。

 婚約者がいるのに、近い。

 ダリラは気付いていないようだが、エドガルドは困ったように、クロリンダとファウストに何度も視線を向けている。


「良いんですか。アレ?」


 菊花が、侍女のフィオレに尋ねるのが聞こえた。


「マナー違反ですが、注意はし辛いですね」

「あ~。負けた! もうこんな時間じゃないか! 寝るぞ!」


 丁度決着が着いたので、私は、そう言って立ち上がった。

 時計は、11時を差している。


「そうだな」


 ダヴィデが下僕(げぼく)に片付けを命じるのを聞きながら、我々は談話室を出た。




 まさか、この時が生きた彼女を見た最後になるとは、思いも寄らなかった。

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