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11:嵐は去れども、疑惑は晴れず

◆天候回復◆


「明るくなって来たね」


 エドガルドの言葉に窓の外を見れば、確かに、夜のような暗さではなくなっていた。


「明日には、船が出せるかもしれませんね」

「しかし、一週間滞在の予定だからな。迎えはまだ来ないぞ」

「狼煙とか、呼ぶ合図は無いんですか?」


 私が菊花に、滞在日程を思い出させる為にそう言うと、菊花はダヴィデに、迎えを呼べないかと尋ねた。

 クロリンダの遺体が腐敗するからだろう。


「合図は無いが、小舟ならある。明日、波の様子を見て、下僕に迎えを呼んで来て貰おう」

「小舟? 何処に有るんですか?」

「桟橋の近くに小屋があっただろう? 彼処だよ」

「なるほど。では、ジェンマさんは、地下室にでも閉じ込めて、ファウスト様は、ご友人の皆様で見張っていて戴けますか? ジェンマさんを恨んで殺害するかもしれませんし、自害するかもしれません。或いは、ダリラさんと無理心中するかもしれませんし、攫って逃亡するかもしれませんので」

「そんな事はしない!」




 ファウストは否定したが菊花は信用しなかったし、我々もジェンマ殺害はやりかねないと思ったので、全員で一晩見張った。

 ファウストから、ジェンマの為に死刑になりたくないと嘆かれたが、幾ら友人でも、自分の命や一族の人生を賭けてまで、ファウストを助けようとする事は出来ない。

 だから、誰も慰められなかった。


 恋人を庇って彼女の罪を軽減しようとした私には、事後共犯になってダリラを庇おうとしたファウストを責める資格は無いし、実は犯人はダリラでは無かったからと言って、慰める言葉も無い。

 ダリラに確認すれば、誤解だと直ぐに判った事だし、確認出来なかった理由も無い。

 正体不明の事後共犯者など、恐怖の存在だろうに。

 愛する女性を恐怖させるものではない。

 そう説教してしまいそうだったので、口を噤むしかなかった。




◆迎えの船◆


 翌日。

 地元の捜査官による事情聴取等を終え、ジェンマとファウストを連行した船が戻って来て、漸く我々も帰る事となった。

 この頃には、波は穏やかになっていた。


「ファウスト様が罰を受けない可能性って、あるんですか?」


 船上で、夕日を浴びながら菊花が私に尋ねた。


 クロリンダは、王家の血族だ。

 当然その父親もだ。

 逆ならば有り得ただろうが、権力の劣る側が黒を白にする事は出来ない。


「罰を受ける前に命を落とせば、結果的に罰を受ける事は無いだろうな」

「主犯にされる可能性は?」


 ジェンマは、クロリンダをトイレで殺害したと自供したらしい。

 ファウストは、クロリンダに話があって捜していたら見付けたそうだが、まさか、女性用トイレに入るとはな。

 私ならば、ダヴィデのメイドに見てくるよう言うが。


 ファウストが女子トイレに入ったと聞いた菊花とダリラは、性犯罪目的だったのではないかと疑っていた。


 因みに、ファウストは、自身の近侍に先に休むよう命じて、部屋を出たらしい。

 彼は、誰かと逢引でもするのかと思ったが、暫くは起きていたと言う。

 だが、強い眠気を感じた為に、寝床に入ったそうだ。


 この証言から邪推すれば、普段から逢引をしていて相手はジェンマ・クロリンダを殺害は計画的犯行で最初から共犯なので近侍に睡眠薬を盛ったと、そう言う事に出来てしまう。


「その可能性は高いが、そうはならんと信じたい」


 私は、ファウストがジェンマを弄んでいないと信じている。

 しかし、捜査関係者にもクロリンダの父親にも、ファウストを信じる理由は無い。

 だが、私には何も出来ない。

 公正な捜査をしてくれると、信じるしかないのだ。


「菊花はどう思う?」

「そうですね。近侍に聞かせられない話とやらが考え付かないので、殺すつもりだったのだと疑っています」

「……ファウストは、ダリラの事でクロリンダを責めたと、父親に報告されたくなかったと証言したらしい」

「クロリンダ様が自身の父親に報告して、ファウスト様の父親に抗議するでしょうに」


 確かに、実際そのような事があれば、そうしただろう。

 そうなれば、隠そうとした分、ファウストの父親の怒りは大きくなっただろうな。


「その証言が嘘では無かったならば、ファウスト様は……、お勉強が足りないのでは?」


 頭が悪いと言いたいのだな。

 菊花がそう思うのも、無理は無い。


 その証言が本当ならば、近侍は内密にしてくれないのに、クロリンダはそうしてくれると思っていた事になる。

 長年の付き合いで、クロリンダがファウストに逆らわない性格ではないと解っている筈なのに。


 だから、怪しまれてしまう可能性が高い。

 殺すつもりだったのだろうと。


「自殺に見せかけるにしても、何故、寝室だったのでしょうね? ジェンマさんが起きて来るかもしれなかったのに」


 確かに!

 どういう事だ?

 やはり、最初から、共犯だったのか?

 いや。違う。

 ジェンマを愛していての共犯なら、首を引っ掻かれた事を知っていた筈。

 ならば、万が一疑われた時の為に、自分にも引っかき傷を作っておくのではないか?


 ジェンマを利用しての主犯ならば、ジェンマを怪しむように仕向ける筈。

 或いは、口止めの為に、自殺に見せかけて殺すだろう。


「恐らく、侍女の存在を忘れていたのだろう」

「……そう思って貰えると良いですね」

「……そうだな」

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