10:菊花の説明2
◆菊花の説明・2◆
「何処まで話しましたっけ? 確か、首吊りの高さの不自然さまででしたよね?」
「ああ」
ダヴィデが肯定する。
「その次は、爪が血で汚れている事に気付きました。ですが、その時点では高い位置にある首が良く見えなかったので、ロープを外そうとして自分の首を引っ掻いたのだろうと思っていましたが……」
菊花はそう言うと、ジェンマの首の傷に視線を向けた。
「それから、ジョバンニさんに窓を確認して貰った後、ファウスト様が、扉の陰に鍵が落ちている事を教えてくださいましたが、ファウスト様がいない間に、エイドリアン様に遺書を確認して貰った時には、其処には何もなかったんですよね」
「なっ」
偶然、菊花が目をやって何もないと確認した場所に鍵を落としていたと知ったファウストは、愕然とした顔になった。
菊花にとっては、茶番劇でしか無かった訳だ。
本当に、何故お前は、知らない振りで遠回りして犯人を指摘するんだ。
慎重なのか、性格が悪いのか。
「どうして、それをその時に言わなかったのかな?」
エドガルドが尋ねる。
「皆さんが庇うかと思いまして。なので、自分から馬脚を露してくれないかと、期待していました」
確かに、あの時点で菊花が先程まで無かったと言っても、ファウストが菊花の勘違いだとか言えば信じたかもしれない。
「そう言えば、ファウストに、クロリンダの遺体を降ろすように頼んでいたな。あれは、犯人だと思っていたからなのか?」
「そうですね。ファウスト様が吊るしたのでしょうから、自分で後始末して貰おうかと思ったんですが。後は、背の高いファウスト様に頼む事で、クロリンダ様の身長では届かないと言うヒントにする為ですね」
ダヴィデの確認に、菊花はそう答えた。
そう言えば、プライドが傷つかない様に、自分達で気付いて欲しかったとか言っていたな。
「それから、寝室に寝間着が無い事に気付いたのは、使用人の皆さんがクロリンダ様のご遺体を降ろしている間です」
「その後、降ろされたクロリンダの首に傷があるか、確認したんだね?」
「そうです。ロープ痕などもこの時に確認しましたね」
エドガルドの言葉を肯定した菊花に、ダヴィデが質問をする。
「じゃあ、この時には、クロリンダが犯人を引っ掻いた事は、解っていたんだろう? 何故、身体検査を後回しにしたんだ?」
「居もしない侵入者が犯人で、自分も被害者だとか言い逃れするかもしれないので、先ず、それを潰そうと思いました」
「そんな言い訳されても、誰も信じないと思うがな」
「まあ、念の為です。それに、何か証拠が見つからないかと思いましたので」
「フィオレさんやチェルソさん、側仕えの方々は気付いていたと思いますが、ジェンマさんの部屋には、クロリンダ様の寝間着どころか、生きていらっしゃれば今日着るであろう服も、出ていませんでしたね。その都度、鞄から出すタイプの人間である可能性もありますが、自分の分は出ていました。クロリンダ様が、亡くなっていると分かっていたから仕舞った。或いは、亡くなると分かっていたから出さなかった。どちらにしろ、怪しいですね」
私は、気付かなかったな。
侵入者なんていないだろうに無駄な事を。としか思っていなかった。
「それから、ジェンマさんの寝室を調べている時、ジェンマさんは、ゴミ箱を自分の体で隠すように立っていました。止血に使ったハンカチでも、捨ててあったんでしょう」
そんな怪しい行動を取っていたのか。
「ただ、二人が最初から共犯なのか、ファウスト様が勝手に事後共犯になったのかは、判りませんでしたが、クロリンダ様のご遺体を発見した時、ジェンマさんが驚愕の声を上げていた事を思い出して、最初から共犯の線は無いだろうと判断しました」
ああ。あの時、ダリラの顔色の悪さに気付いたのは、ジェンマが声を上げたからだったな。
「でも、ファウスト様がジェンマさんを庇うなんて思えなくて、もしかして、犯人を別人だと思っているのではないかと考えました」
菊花は、ファウストに目を遣った。
「昨夜、ファウスト様はダリラさんの隣に座って談笑していましたが、婚約者がいる身で未婚の異性に近付き過ぎるのは、マナー違反だそうですね。ファウスト様が知らない訳がありませんから、愛人にしたい等の下心からの事だと思いました」
菊花の言葉を聞いたダリラは、ファウストを軽蔑したように睨み付けた。
最低とでも言うかと思ったが、ファウストに話しかけたくないのか、何も言わなかった。
「その後、話の流れで、ファウスト様が怪しまれる発言をしてくださったので、もう誰も庇わないだろうと、犯人を明らかにする事にしたんです」
「もし、ファウストが上手く演技したら、どうしたんだ?」
「まあ、何時までも身体検査しない訳にはいかないですからね」
軽い傷なら、一週間程で治るからな。
この嵐が何時止むか判らないが、今、傷を明らかにしておけば、我々が証人になれる。
「犯人がダリラさんじゃないと知っても、ファウスト様が自白しない可能性もありましたが、その場合は、クロリンダ様のご遺族の判断に任せるしか無かったかもしれません」
「そこは、捜査関係者の判断と言うべきじゃないかな? 実際はそうだとしても」
エドガルドが、菊花に建前と言うものを教えた。
「そうですね。済みません」
一旦最終話まで書いてから手直ししたので、おかしい所があるかも知れません。