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恋中さんと独占欲

 好奇の目は昼休みと共に消えた。

 結局、恋中さんが何を言ったのかは聞けなかったが、今のところ俺に実害は無い。この場合、知らない方が幸せということもあるかもしれない。


 さておき、良いことが起きた。

 恋中さんが俺以外と会話したことだ。


 もちろんフォローは必須だった。

 でも最初の一回を経験できたのは大きい。繰り返せば、そのうち一人でも平気になる。


 正直、少し寂しい。

 だけど俺が恋中さんと会話できる場所は、学校だけではない。むしろ学校では、KDPのため積極的に他の人と話して欲しい。


 女子限定で。


「……遺伝子こっわ」


「いんでんし?」


 今は授業が終わった後の帰り道。

 もはや当然のように隣を歩く恋中さんは、俺の独り言を聞いて首を傾けた。


「ごめん、なんでもない」


 ごまかすような笑みを浮かべて、何か雑談でもしようと話題を探す。


 瞬間、こつんと二人の肩が触れた。

 

 ……まただ。


 先程から五十メートルくらいの感覚で肩が触れ合う。


 俺が寄っているわけではない。

 恋中さんの距離が、なんか近い。


 その動きは、何というか、ふらふらしているように見えなくもない。


「恋中さん、もしかして体調悪い?」


「いえ、元気ですよ?」


「でも、なんかふらふらしてない?」


「ふらふら?」


「さっきから何回も肩が当たるから」


「…………」


 ストレートに伝えると恋中さんは俯いた。

 それから数秒後、ゆっくりと顔を上げる。


「わざとです」


「……わざと?」


 純粋な疑問を口に出す。

 そして次の瞬間、時間が止まった。


「……あの、恋中さん?」


 今度は当たるなんてレベルじゃない。

 肩が温かい。ガッツリ、接している。

 

 制服越しでも伝わる体温。

 俺は朝の出来事を思い出さないため、腹に力を込めて声を出した。


「やっぱり、体調悪かった?」


「違います」


 彼女は否定して、より強く体重を預けた。

 避ければ転ぶんじゃないかと思う程の密着具合で、俺は全身をガチガチに硬直させた。


「昼休み、四人でした」


「そうだね」


「二人、増えました」


「増えたね」


「二人分、君と会話する時間が減りました」


「……そっか」


「そっかじゃないです」


 これは、つまり、あれだ。

 一見すると可愛い嫉妬だけど、違う。


 彼女は不安なんだ。

 このまま俺が他の人とばかり会話をして、恋中さんの前からフェードアウトするかもしれないとか思っているのだろう。


「この後、ペアプロしよっか」


 俺はできるだけ自然な口調で提案する。

 

「まずはタイピングだけど、また練習に付き合って貰ってもいいなか?」


 恋中さんは、笑顔を見せた。

 

「もちろんです!」


 そして俺の手首を掴み、前を歩く。


「恋中さん、急がなくても大丈夫だよ」


 彼女は俺を無視して移動を続けた。

 

 ……まぁ、いっか。


 軽く息を吐いて、素直に引っ張られる。

 それから一旦は自室に戻って、荷物を置き手を洗った後で彼女の部屋に入った。


 同じ時間、他の生徒は部活をしている。

 だから、これを部活動と呼ぶつもりは無いけれど、この時間だけは、二人で過ごそう。


 彼女が、俺以外の友達を優先するまでは。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] >知らない方が幸せということもあるかもしれない。 そうかな?……そうかも? >「……遺伝子こっわ」 せやねw恋中さん的にはそれでよさそうだけど。 >一見すると可愛い嫉妬だけど、違う。 …
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