独白
「やっぱこれ友達の距離感じゃねぇからぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と、俺は湯船の中で叫んだ。
「げほっ、やっべ、飲んだ」
その直後に報いを受けて激しくせき込む。
たっぷり十秒以上かけて落ち着いた後、俺は長い溜息を吐きだした。
「……マジで、距離感、おかしいだろ」
今でもまだドキドキしている。
冷静に考えれば友達同士でやるようなことしかしていない。俺が変に意識しているだけなのかもしれない。
そもそも、なんでだ?
どうして俺は彼女を意識している?
女子と接した経験が無いわけではない。
普通に仲の良い相手は居たし、今日くらいのスキンシップなら珍しくなかった。
だから不思議で仕方がない。
どうして、たかが手に触れた程度で……。
「俺、面食いだったのか?」
これまでの相手と違うのは容姿くらいだ。
会話が面白い子には会ったことがある。尊敬できる子にも会ったことがある。
だけど、ここまで胸が騒いだ経験は、過去に無い。
「恋中さんは、どう思ってんのかな」
呟いた後、直ぐにKDPという単語が頭に浮かんだ。
「……友達としか見られてねぇよな」
今はまだ、耐えられる。
友達として接することができる。
だけど今後はどうだろうか?
俺は、友達として接し続けることができるだろうか?
「いっそのこと開き直るか?」
今の関係を客観的に見れば、イチャイチャしているようにしか思えない。
いいじゃないか。
友達とイチャイチャしてはダメという法律は存在しない。
「よし、そうしよう」
これから少なくとも三年間、恋中さんは隣の部屋に住んでいるわけで、今日以上に距離が近くなることもあるだろう。その度にドキドキしていたら心臓が持たない。
だから開き直る。
感覚をアップデートする。
あれが恋中さんとの普通なんだ。
今の俺にはイチャイチャしているようにしか感じられないけれど、そうじゃない。
普通なんだ。
俺はただ、友達と接しているだけ。
「あれは普通。あれは普通。あれは普通」
必死に自己暗示をした。
だって、このままでは勘違いしてしまいそうになる。
仮に勢いで告白をして、断られたりした日には地獄だ。
これから三年間、きっとほぼ毎日顔を合わせるのに、気まずくて仕方がない。
「あれは普通。普通。普通。普通!」
だから俺は必死に自己暗示をかけた。
恋中さん。
隣に住んでる同級生。
プログラミングが得意で、既に働いている。
しかし、あえて何の変哲もない高校を選んだ。
理由は、憧れ。
その瞬間は、いまいちピンと来なかった。
だけど今は少し理解できる。彼女はきっと心の底から友達に飢えているのだ。
俺を見る度、会話する度、すごく嬉しそうな顔をする。
その顔を見る度、俺は困ってしまう。
男女の友情は成立しないなんて言葉があるけれど、その理由が痛いくらい分かる。
「……恋中さんは、どう思ってんのかな」
呟いた声が浴室の中で反響する。
それから俺は目を閉じて、ぼんやりしていた。
しかし頭に浮かぶのは、彼女のことばかりだった。






