指名依頼と魔術師ギルドの者達
エリィも大分ノアのやらかす事に慣れてきました。
「はぁ・・・。ノアさんって、一日に一回は何かをやらかさないと気が済まない方なんですか?」
「そうは言うけれどエリィ、あの連中を変えていくにはあれぐらいやらないと多分変わってかないと思うよ?」
「それはそうかもしれませんけど・・・。事前に私達に教えてくれるとか、出来なかったんですか?」
まぁ、そうなるよな・・・。こんな事になるなら昨晩ユージェンと話をしていた時に今回の事を言っておけばよかった。今後気を付けよう。
「此方で勝手に話を進めてしまった事は謝るよ。後でギルドマスターにも謝っておく。彼にはちょっと相談したい事もあるしね。今はとりあえず、私に来ているであろう指名依頼の受注手続きをしてもらって良いかな?」
「分かりました・・・。ええ、指名依頼が三件入っていますね。これらはすべて受注で構いませんか?」
「ああ、それで頼むよ。」
「はい・・・。・・・受注手続き、完了しました。今日は他には依頼を受けなくていいんですか?」
「このまま依頼を受け続けたら自分の時間が取れなくなるし、あまりにも目立つだろうからね。そもそも、こうまで積極的に依頼を片付けたのは指名依頼を受注できるようにするためだったのだから、今後はもう少しペースを落とすさ。街を案内してくれた子供達と遊ぶ約束もしているしね。」
「ええ、まぁ、大量に依頼を斡旋してしまったのは私ですからね・・・、目立つ事になってしまったのもノアさんだけの責任ではないんですよね・・・。ところでノアさん、その、あまりこの街に滞在しないというのは、本当ですか?」
ああ、そうか。エリィとはそういった話をしたことが無かったな。エリィとしては昨晩ユージェンが望んでいたような、この街を拠点にして"楽園"で活躍を続ける冒険者になってもらう事を望んでいたのだろう。モートンやユージェンには昨日私の目的や行動方針を話していたから、それでエリィも知ったんだろうな。
エリィの質問に首を縦に振って私の考えを説明しよう。
「初日にも言ったけれど、私が冒険者になった理由はギルド証という身分証を求めたからだよ。この国に来たのも私の家から一番近かったからだし、目的は観光と読書だったからね。正直に白状してしまうと、ランクダウンの制度が無かったら登録だけして後はまるで冒険者として活動しない事も考えていたよ。」
「ええぇ・・・。それじゃあ、やっぱりこの国だけじゃなくて他の国にも行っちゃったりするんですか?」
「行っちゃったりするねぇ。いろんな国、街、人の文化を知ってみたいからね。多分、魔族のいる地域にも足を運ぶことになると思うよ。」
「そうですかぁ・・・。残念です・・・。ああ、何時までも引き留めてちゃダメですよね。では、行ってらっしゃい。」
今回受注した依頼は全て街中で行えるうえに危険のない依頼だからな。服装に対して何か言及してくるということは無かった。エリィとしても文句は無かったのだろう。
それでは、早速指名依頼を片付けて行こうじゃないか。まずは図書館で本の複製を行うとしよう。
「やあ、エレノア、おはよう。早速だけど、指名依頼を受けてきたよ。はい、ギルド証。」
「おはよう、ノアさん。今日はまた可愛らしい服装ね。・・・ええ、確認したわ。それじゃあ、複製してもらいたい本のある場所に行きましょうか。案内するわ。」
特に寄り道をすることも無く図書館に入りエレノアに挨拶をしてからギルド証を提示する。
エレノアが席を立ち、図書館内を移動して行く。他の職員が受付に着いているので防犯的な心配はいらないだろう。黙ってエレノアについて行こう。ここまでは至ってスムーズだな。
「そうだ。ノアさん、悪いのだけれど、本を複製した魔術を見てみたいって魔術師ギルドから要望があるの。部屋についても彼等が来るまでは待っていてもらって良いかしら。」
「勿論。その話は既に昨晩ギルドマスターから聞いているよ。それと、その際にギルドマスターに伝えたけれど、使用可能な者が限定されていてね。魔術の説明をするつもりが無い事を頭に入れておいて欲しい。」
「ええ、話は伺っています。見学を望んだ魔術師ギルドの方々も了承してくれています。っと、此処ですね。それでは、此方の部屋でお待ちしていてください。」
エレノアに案内された部屋は私が宿泊している部屋二つ分はある、そこそこ広い部屋だった。部屋には長机が二つと椅子が六つ。普段はこの部屋は読書を行うための個室なのだろうか。
机の大きさから、大量の本を置けるスペースが確保できることだし、大量の本を一度に読むのなら、こういう場所は適しているかもしれない。それに、防音処置もしっかりと施されているようだ。蔵書されている場所よりも静かに読書が出来そうだ。
それなら、見学したい魔術師達が来るまで私もここで読書を楽しむとしようか。複製はしたがまだ未読の本は結構な数残っているのだ。
本を読み始めてから30分ほど経過しただろうか。何人かが早歩きでここまで来ている気配がする。
どうやら見学をしたいという魔術師達が来たようだ。
部屋のドアが開かれると、エレノアを含めて全部で11人が入ってきた。何人かは本や紙束を抱えている事から、入れないことは無いが、少々狭くなるな。
「ノアさん、お待たせしたわね。ここにいる人達が今回の複製依頼で立ち会う人達よ。」
「貴女が噂の竜人か。色々と規格外だと聞いているよ。図書館の館長を務めている。今日はよろしく頼むよ。」
「此方こそよろしく。早速だけれど、欲しい本と用紙を用意してもらって良いかな?複製自体は直ぐに終わるよ。」
握手を求められたのでそれに応じた後、複製してもらいたい本を提示してもらう事にした。
本の内容は、"楽園"で採取できる素材の図鑑、"楽園浅部"に生息している魔物・魔獣の図鑑、それから高ランクの冒険者が好んで使う魔術の魔術書が五冊。後は娯楽小説、か。一冊だけ凄い場違い感があるな。
だが、私にとってはどれも興味深い内容のものだ。私もこの機会に写させてもらえないか確認を取るか。
「どれも面白そうな本だね。複製は一冊ずつで良いのかな?それと、紙は自分で用意するから、私の分も複製させてもらって良いかな?」
「本一冊複製するのにまるで手間が掛からない言い方だね・・・。いや、エレノアの妹さんからあっという間に四冊の本を複製してしまったと聞いたし、出来てしまうんだろうね・・・。っと、済まない。複製はそれぞれ四冊ずつ頼めるかな?それと、貴女の分の複製も問題無いよ。好きに写してしまってくれて構わないとも。」
許可が下りたので、遠慮なく複製させてもらうとしよう。四冊ずつというならば、一つの本を私の分も纏めて五冊複製するか。
『複写』を五つ同時に発動させて一気に複製を終わらせる。
あっ、しまった!ゴドファンスが自分達でも魔術の同時発動それにかかりっきりになってようやく五つ同時が限界だって言っていた事が頭から完全に抜けていた!
ゴドファンス達でさえそれなのだ。人間達からしたら魔術の五つ同時発動は未知の領域なんてものじゃないんじゃないだろうか。
ぎこちない動きで周囲を見てみる。
「「「っ!?!?っ!!?!っ??!?」」」
「どういうこと??えっ?ええっ??!」
「これは、無理だ。あまりにも複雑な構築陣に加えて魔力消費量が多すぎる。こんな魔術一冊複製しただけで干からびるぞ!?」
「この人、魔力量自体が桁外れすぎる!それに同時に五つって、彼女は本当に人間なのかっ!?」
「ノアさん・・・自重、するんじゃなかったんですか?」
やってしまったあぁぁ~。つい依頼を手早く片付けようとしてやらかしてしまった。両手で頭を抱えてその場で屈み込みたくなる。これはもう、誤魔化しがきかないよなぁ。
あああぁ・・・エレノアの責めるような視線がとても痛い・・・。
こ、こうなったら最早自棄である!彼等には黙っていてもらおう。
「あー、その、私が今やった事なんだが、周りには黙っていてくれるとありがたい。それと、この街ではもう依頼を受ける予定は無いから、その点も了承して欲しい。無いとは信じたいが、もしも私に依頼を強要するつもりがあるのなら・・・。」
「だ、だだ、大丈夫だ!いえっ、大丈夫です!決して口外しませんともっ!そうだなっ!諸君!」
図書館館長が他の職員や魔術師達に話を振れば、皆一様に激しく首を縦に振り続けている。
良かった。いや、脅迫じみた要求の仕方となってしまったのは宜しくはないが、ひとまずは私の事で妙な噂が立つことは無さそうだ。
「貴女の事情は冒険者ギルドマスターから伺っていますからっ!はいっ!本日受注した指名依頼を終わらせた後はどうぞ、ご自由にこの街をお過ごしくださいっ!」
「・・・それは良かった。恩に着るよ。」
ううむ、またしてもやりすぎてしまったのだろうか。館長の態度が露骨に遜る様な口調に変わってしまった。魔術を使用中だったせいでどうしても私の魔力が周囲に伝わってしまっていただろうし、館長以外の様子もあまり館長と変わりがない。
そういえば見学に来ている魔術師達はこの後の『我地也』の説明にも参加するのだろうか。まぁ、それはこの依頼を終わらせれば否が応でも分かる事か。
知られてしまった以上は仕方が無いのだ。残りの本も同様にサクッと複製してしまおう。
図書館が依頼していた本の複製と、自分の分の複製が終わり、解散する事となった。複製作業は五分も掛かっていない。
「それではノアさん、ギルド証を返却しますね。それにしても、ノアさんの底がまるで見えないわね・・・。魔力量は尋常じゃないし、同時に複数の魔術は使いだすし・・・。エリィからはなるべく自重するって聞いたんですが、自重する気、あります?」
「面目ない・・・。出来る事があるとつい、行動してしまってね。自分のことながら、もう少し後先考えられるようにならないと、今後も同じことをやらかしてしまうだろうね・・・。」
「それは、大変そうね・・・。王都の方には欲の強い貴族もいるでしょうし、気を付けて下さいね?これから次の指名依頼ですか?」
「ああ、彼等も一緒だよ。」
そう言って私の後ろに控えている魔術師達を示す。
次に対応するのは魔術師ギルドからの依頼だ。彼等に魔術の説明に参加するのかを聞いたところ、全員参加するとの事だったので、このまま依頼を行う場所、魔術師ギルドまで足を運ぶことにしたのだ。
ちなみに、ユージェンも参加するらしい。ついでだから、依頼を片付けた後に冒険者達の事で相談に乗ってもらうために時間を取ってもらえるか確認しておこう。
魔術師ギルドへと移動している最中に驚くべき真実を知ることが出来た。矮人であるユージェンが魔術関連に詳しい理由だ。
なんと彼、既婚者だった。しかもその伴侶が魔術師ギルドの長。つまりギルドマスターだったのだ。夫婦でギルドマスターを務めるとは、とんでもないことでは無いのだろうか。
魔術師ギルドの職員達もユージェンの正体自体を知る者は冒険者達と同じく少ないが、魔術師ギルドのギルドマスターと冒険者ギルドのギルドマスターが夫婦であることは非常に有名なのだとか。
魔術師ギルドの職員曰く、どちらも元は"一等星"の冒険者であり、一行メンバーだったそうだ。妻である魔術師の方がユージェンに対して一目ぼれしたらしく、冒険者時代はかなり過激なアプローチを繰り返していたらしい。
一行を組んでから割と早い段階で恋仲になったらしく、今でも夫婦仲は良好なようだ。というか、妻である魔術師が事あるごとにユージェンとの生活の惚気話を吹聴しているんだとか。
幸せそうで何よりだ。
そうこうしている内に魔術師ギルドに到着したようだ。魔術師ギルドは街の南西の位置にあり、大通りからギルドの場所までは迷路のように入り組んだ道を進んでいく必要があった。
高さはおよそ25メートル。私の家の周りにある樹木の高さと同じぐらいか。階層が上がるにつれて面積が狭くなっていく塔のような外見をしている、と思ったら[魔術師ギルド、通称魔術の塔へようこそ]、と歓迎されてしまった。つまり世間一般から見てもこの建築物は塔として判断されているという事だ。
『我地也』の実施、説明は最上階、ギルドマスターの執務室で行うらしい。
執務室を開けると、頬を赤らめながらユージェンを抱擁している妖精人の女性がいた。
抱擁と表現したが、身長差があるせいでユージェンの顔が妖精人の私よりも二回りほど大きな胸に埋まってしまっている。あれ、呼吸は出来ているんだろうか?
しかも妖精人の両腕はユージェンの体を両腕ごとガッチリと掴んでいて開放する気配がない。表情は愛情と情欲に満ちているため、悪感情を持っているわけでは無いようだ。
「アレは・・・大丈夫なのかい?」
ユージェンを指さして案内してくれた魔術師を見てみれば、特に気にすることも無く歩み出して私が説明をしやすいような配置に部屋の内装を動かし始めてくれている。
別の魔術師が部屋の端にあるソファーに案内してくれるとともにお茶と御茶菓子を用意してくれた。
「アレは放っておいてくれていいですよ。いつもの事なんで。」
「仕事中に会う事が滅多にないから機会があると決まってああしてるんです。」
「アレで大分マシになったんですよ?ギルマスになった当初なんて仕事ほっぽり出して冒険者ギルドに突っ込んでいきましたからね。」
「結婚してウン十年経つっていうのに、未だに惚気話が尽きないんですよねぇ。」
手の空いた魔術師達がここに集まって自分達のギルドマスターの事を語り出した。彼等は数十年も続く同じような内容の会話ややり取りに辟易してきているのかもしれないな。
どう反応して良いかも分からないからとりあえず出されたお茶とお菓子を口にするとしよう。どちらも初めて口にするものだ。どんな味がするのだろうな。一応、本を読んだ際にどのようなものかは知識として頭には入っているが、それ故に実際の味が気になるところだ。
お菓子の味は、小麦粉と動物の乳、それから卵を砂糖で味付けしたクッキーという名前のお菓子だな。噛むと表面はザクザクと音を立てるも、内側はしっとりとしていて柔らかい。この料理もまた一口で二つの食感を楽しませてくれる料理というわけだ。
なかなかに強い甘味と乳と卵の滑らかさが加わる事で、ただ甘いだけの物よりも美味く感じる。
本で読んだ知識では砂糖を使用した甘い食べ物は他の料理よりも少々値が張るとの事だったが、味の質はそこまで感動するものでは無いな。
いや、確かに美味い事は美味いのだ。ただ、甘味という事ならば"楽園"から採ってきた果実の方が遥かに美味い。最初に甘味であれだけの感動をしたせいか、お菓子にはあまり感動を得ることが出来なかった。少し残念だ。
お茶の方はどうだろうか。紅茶と呼ばれる品種で、本で読んだ内容では苦味と渋みのある飲み物だという話だが・・・。
おおっ!確かに苦く、そして渋い。だが、それだけではない。苦みや渋みの中にしっかりとした旨味を感じる事が出来るのだ。この苦みと渋みが口の中でいっぱいになってしまった甘味を流してくれることで、再びクッキーの味を楽しむことが出来そうだ。
そもそもの話、香りが良い。放たれる湯気に乗って私の鼻孔を刺激するお茶の香りは、不思議と気分を落ち着かせてくれるものがある。
この飲み物は決してシードルのように一気飲みするようなものでは無いな。少しずつ口にして一口一口をじっくりと味わう方が良いだろう。
なるほど。お菓子とお茶。甘味と苦味。良い物じゃないか。これを口にすることが出来ただけでもここに来た甲斐があったという物だな。
「旦那さんが傍にいない時は四六時中惚気話を聞かせて来るし・・・!」
「この部屋に入ると旦那さんがいなくても砂糖で出来てんのかってくらい甘ったるいんですよ。空気が。」
「旦那さんがいるとさらにそこにハチミツを塗りたくったような甘い雰囲気が醸し出されますね。周囲の事なんてお構いなしにイチャつくんですよ。ウチのギルマスが。」
「残業多くて彼氏作る暇もないアタシ達に見せつけてるんですよ・・・!」
「はぁ・・・、俺もなぁ、彼女欲しいよなぁ・・・。自分の趣味を理解してくれて拘束しないような可愛い女の子・・・。」
「君達どちらも相手がいないのなら、恋人とやらになればいいのでは?」
紅茶とクッキーを味わいながら適当な気持ちでそんなセリフを放ったのだが、失敗だった。
どちらもこれまで私が見た事が無い形に顔を歪ませて[有り得ない]、という意思を私に伝えてきたのだ。
それだけだったのならばまだ良い。この二人、お互いに交際する気が無いと理解していたわけでは無かったようで、結構な声量で口論を始めてしまったのだ。耳を傾けてみると、お互いにお互いの不満点をぶつけあっているのだが、内容が段々と幼稚なものになってきている。君達、一応大人だよな?客人の前でそのやり取りはどうかと思う。
相変わらずユージェンを抱きしめて放そうとしない妖精人、黙々と部屋の配置換えを行う職員、口論からいよいよ取っ組み合いにまで発展しようとしている一組の男女、そしてそんな場所で紅茶とクッキーを黙って食している私。
自分で言うのも何だが、ハッキリ言ってこの状況を一言で言い表すなら、混沌である。はぁ、お茶が美味い。
「ノア様、順応が早いですね。それで正解ですよ。ギルマス達もそうですけど、あの二人も大体何時もあんな感じですから。」
「順応したというよりも関わるのをやめただけだよ。精神的に疲れてしまうのは間違いないだろうからね。気持ちを落ち着かせてくれる美味いお茶もある事だし。」
「気に入ってくれているようでなによりです。クッキーは市販の物ですけど、紅茶は私が入れたんですよ?」
「貴女が入れてくれたお茶が初めてなのだけれど、やはり入れる人によって味が変わってしまうものなのかい?」
「ええ、それはもう。その道のプロがいるぐらいですから。プロと素人じゃ味が雲泥の差だって言われるぐらいなんですよ?」
それは興味深いな。彼女の入れる紅茶の味は美味いと感じられる。ならば、その道のプロが入れたお茶はどれほどの味になるのか、是非味わってみたいものだな。
クッキーを口に入れて噛みしめ、飲み込んだ後にお茶を口の中に入れると。うん、やはりこの組み合わせはとても良い。
私は、酒よりもお茶の方が気に入ったようだ。
「うへへへ・・・いい・・・素敵・・・。」
「ん?どうかしたのかい?」
「ふぉぁあっ!?あっ、いえっ、そのっ、すみません。クッキーと紅茶を楽しむノア様がホント堂に入っていて服装も相まってどこかのお姫様か御令嬢に見えちゃったんですよねぇ・・・。えへへへ・・・。そういうのって、私凄く憧れてるんですよぉ・・・。」
おおぅ・・・。何というか、魔術師ギルドの職員というのは皆クセのある者達なんだなぁ・・・。とても印象に残る。
お茶を入れてくれたこの職員はこのままにして良いのだろうか。このままにしておくと彼女は彼女で暴走してしまいそうだ。ますます状況が混沌と化してきた。
どうしようかと悩んでいた時だ、私にとって待ち望んでいた声が掛かってきた。
「ノア様。大変お待たせいたしました。例の魔術の実施と説明をしていただいてよろしいでしょうか。皆様方も、そろそろ自分達の世界から帰って来て下さい。」
どうやらこの混沌とした環境から、ようやく抜け出すことが出来るようだ。
現在のカオスな状況、ただの呼びかけで収まる筈がありません。




