ミスティノフのスポンサー
盛大に遅れてしまいました。
ノアはライン越えをしたら非常に過激になります。
この大陸で庸人至上主義を掲げている国家は時間と共に少しずつ増え続けているわけだが、実を言うとこれらの国家が合併されたり統合されたりといった過去は、五大神の天罰以降存在していなかったりする。
例えばこの大陸でかの思想の発祥となった国の隣国は軒並み発祥となった国との戦争の結果、かの思想を掲げるようになったわけだが、国名自体は変わっていなかったりする。その上、国の代表である人物の血筋なども途絶えることがないどころか引き続き国の代表でいたままだったりする。
変わったのは国の代表の下に着く者達だ。例えばとある王国の王子の教育係が軒並みかの思想を掲げる者達に挿げ替えられて洗脳じみた教育を行うなどして次代の代表をかの思想に染め上げているのだ。
そうして庸人至上主義を掲げる国は数を少しづつではあるが今日まで数を増やし続けている。
なぜ国を残す形で思想を増やそうとしているのか。その理由は少なくとも3つある。
1つはリスクの分散だ。
五大神から天罰を執行された大陸は侵略戦争によって自分達の思想を受け入れない国を滅ぼし、そして吸収し続けていた。
結果、大陸は統一されて大陸全体が1つの思想を掲げることになったわけだが、その思想を掲げる者は皆その大陸に集まって行ったとも言えるのだ。
大陸が統一されるまでに非常に多くの命が失われたようだからな。五大神としても看過できなかった内容だし、天罰を与える対象が一ヶ所に集まっているのならば行使も比較的容易だったのだろう。
同じ思想を掲げていたとしても自分達の行動の責任は各国に取らせるために、思想を同じくした国を統一せず残したままにしているのだろう。
1つは人員の節約だ。
どれだけ相手を戦争等で制圧できたとしても、統治が可能な人間には限りがある。
戦争に勝って国の運営権を得たとしても、統治できる人間がいなければ真に支配したとは言えないだろうからな。そして1つの国を統治できるというのは間違いなく優秀な人間なのである。
仮にそういった優秀な人間がいたとしても、信用のおける人材でなければいつ謀反を起こされるか分かったものではない。
裏切られるようなリスクがあるのならば、始めからその国を統治していた者やその血筋の人間を統治者として起用した方がリスクは減らせると考えているようだ。そしてそのための次代の人間に対する洗脳じみた教育である。
更に言えば、国民達の注目だけでなく不平や不満も引き継がれた人間に向けられるため、自分達がその国民達から反旗を翻される心配もないのである。
そして3つ目。
「国が多ければその分意見も多くなる……」
「流石ですね。ええ。セコイことに、彼等はそうやって発言力を高めているんです」
オルディナン大陸は、大陸中の代表達が集まり、大陸評議会と呼ばれる大規模な会議を定期的に行っている。
大陸評議会は自分達の考えた大陸共通の方針を決める場でもある。なにより、自分達で考えた自分達にとって都合の良い法案なども口に出せる機会なのだ。
そうして提出、提案された法案の可否は評議会に参加した各国の代表達による多数決によって決まる。
そう。国の数が多ければその分、多数決が可決されやすくなるのである。実際、この手法のおかげで可決された法案や方針もそこそこ存在しているのだ。
アーディリンの語るようにセコイというか小賢しいというか、自分達が不利であると理解しているうえでそれでも何とか優位に立ちたがろうとする悪辣さを感じずにはいられない。彼女が私の前で不愉快な表情を隠そうとしないのも頷けるな。
さて、こういった国が私に対して行う行為は、現在私が把握している情報だけでも既に私を不愉快にする行為ばかりである。
そこでひとつ、アーディリンに確認を取ってみることにした。
「こちらからも聞いていいかな?」
「はい!なんなりと!」
「あの思想を掲げている国の行動が私の不興を買うとして、その時私はどういった行動を取ると思う?」
私の不興を買った国は滅びる。魔大陸での私に対する評価は大体そんな感じであった。
オルディナン大陸ではどうだろうか?
ちなみに、魔大陸で下された私に対する評価は概ねその通りだ。私が強い不快感を抱いたらその国は滅びる。というか、私が滅ぼす。その点で容赦をするつもりはない。勿論、多少不愉快になった程度で滅ぼしはしないが、多分その許容範囲をあっさりと越えてくるだろう。
だから、私はこの旅行でいくつかの国を滅ぼすことになると思う。『広域探知』で確認した際に、あの連中が既に更生の余地がないほどに他種族を見下し支配しよう躍起になっていると分かっている以上、遠慮してやるつもりはない。
あの連中は私がこれまで人間の国家に対して益しかもたらしていない事実を良いことに、自分達が滅ぼされる心配はないと考えているようだ。
実際には"女神の剣"や"超人機関"といった世間一般に知られていないような、それでいて私にとって不快感を与えてくる相手は組織ごと容赦なく滅ぼしているので見当違いも甚だしいのだが。
まぁ、そんなことは殆どの人間が知る由もないので、仕方のない話ではある。
では、あの連中以外のオルディナン大陸の人間はどう思っているのだろうか?という疑問が出てきたのでアーディリンに確認してみたのである。
なお、この質問は別の国に訪問した際に一々聞くつもりはない。この場でアーディリンから聞くだけで終わりである。
「あ、あー……。何と言いますか……。非常に失礼なことを言うんですけど……」
「大丈夫。思ったことを素直に言ってもらえる?」
引きつった表情でかなり言いよどんでいる辺り、アーディリンは私がやると言ったらやるタイプだと理解しているのだろう。
だから彼女が言いよどみながらも口に出そうとしている台詞がどのような内容になるのか、なんとなく予想がついた。
「えーっと……。やっぱり、遠慮なくヤッちゃいます?」
「うん。遠慮なくヤッちゃう。事後報告も何だから、先に伝えておこう。多分だけど、今回の旅行でこの大陸の国がいくつか滅びる、いや滅ぼすよ」
「「「「「……」」」」」
そうだろうな。そう言う反応になるだろうな。
いくら良い印象を抱いていない国だとしても、こうもあっさりと滅ぼすと言ってのければ、大抵は大言壮語かただの脅しと受け取られてしまう場合が多いと思う。
だが、その発言を行ったのが実際に可能な者ならば話は変わって来るというものだ。
私の言葉を聞いたこの場にいる人間全員が顔を青ざめている。
静寂が続く中、場の空気を和ませようと気の利いた言葉でも出そうかと思ったのだが、その必要も無さそうだ。
「お、落ち着いてください!ちゃんと案内しますから!代表からもお通しするように言われていますから!」
「だったら早く案内してくれ!この目で無事を確認しない限り、落ち着くことなどできはせんのだ!」
全力疾走して行政館まで来てくれたおかげでそれほど時間は掛からなかったな。ミスティノフのスポンサーが到着したようだ。
そして彼等のやり取りはそれなり以上の大きな声て行われている。そのため、この場で沈黙していた者達にも普通にそのやり取りの内容が耳に入ってきている。
一番最初に反応したのは、ミスティノフだった。
「この声、アセンドーさん?」
「げっ。アイツ、ミスティーが戻ってきたって知って駆けつけてきやがったな……?」
全速力で行政館に駆けつけてきたのは、やはりミスティノフのスポンサー、アセンドー=シュドーキンだったようだ。
彼についての情報はほぼ新聞で把握している。シュセンドー商会という大商会の商会長であり、彼自身もやり手の商人だ。
大きな商会の商会長であり尚且つ太った人物ということでデヴィッケン=オシャントンを彷彿とさせるかもしれないが、私が収集した情報の限りでは彼は信頼のおける人物だと判断する。
無論、自分が儲かるために多少相手を出し抜くような手段を取ることもあるようだが、他者の人生を壊すような悪辣な手段を取るわけでは無い。同業者から多少の嫉妬を受けることはあっても強い恨みを抱かれることは少ないだろう。尤も、成功者であるため逆恨みに関してはどうしようもないだろうが。
ミスティノフの言葉に対し、デンケンが露骨に嫌な表情をしている。アセンドーとはあまり仲が良くないのだろうか?
ありえない話ではないだろうな。
なにせ相手はやり手の商人なのだから、様々な商品の輸出入に関してしてやられた経験があってもおかしくない。
それとも、単純にファンであるミスティノフのスポンサーになっているのが気に入らないのかもしれない。
事務員の1人がアセンドーを宥めている間に、この部屋の扉がノックされる。
「失礼します。アセンドー商会長がお目見えになりました。物凄い剣幕でミスティノフ様に会わせて欲しいと……」
「えぇ~っと……」
アーディリンがこちらを見て判断を伺っている。
今は私を応対している最中だからな。判断を私に委ねるつもりなのだろう。
私は彼の到着を待っていたのだ。答えなどひとつしかないな。
「私も彼に用があったからね。是非通してもらいたい」
「だ、そうよ。通してあげて」
「承知しました」
アーディリンがドア越しに許可を出してから1分もしない内に、部屋のドアが勢いよく開かれた。
許可が下りた途端、この部屋まで再び全速力で走ってきたからか、髪も服装も乱れたままだ。ついでに言うならば息も切らしている。
「ミぃいスティイイい!!!無事だったかぁあああ!!?」
「あ、はい。大丈夫です。ご無沙汰してます」
「本当に無事か!?どこもおかしなところはないか!?怪我はしていないか!?周りの連中から変なことをされたりしてないか!?」
アセンドーはミスティノフの姿を確認すると、飛び掛かるような勢いでミスティノフの目の前まで移動して彼の様子を全身隈なく確認しだした。この部屋に来た時点で息も絶え絶えと言った様子だというのに、非常に機敏な動きである。それだけ心配だったのだろう。
しかし、領域の主であるリリカレールに攫われたのだから居ても立っても居られないのかもしれないが、救助されたこともしっかりと伝わっている筈なのだが……。信用されていないのだろうか?
必死になって自分の隊長を気遣うアセンドーを優しく宥めるようにミスティノフが声を掛ける。特に戸惑った様子が見られない辺り、アセンドーの様子は今に始まったことではないのかもしれないな。
「僕なら大丈夫ですよ。なんてったって『黒龍の姫君』であるノア様が助けてくれましたから。そのうえ、リリーさんともすっごく仲良くなれたんですよ?」
「うおおおおおん!!!良かった!良かったあああああ!!!」
ミスティノフの声を聞いてようやく彼が無事に帰ってきたと判断したのだろう。心底安堵した様子で人目も憚らずに泣きわめきだした。
そんなアセンドーの様子を呆れた口調でデンケンが諫める。
「相変わらず大袈裟な野郎だなぁ。ミスティーが無事だったのはもっと前から分かってたことだろうが」
「黙れこのスケコマシが!私は自分の目で見たものしか信じないのだ!魔境の主にに攫われたという知らせを受けて、私がどれだけ心配したと思っているのだ!?」
「その情報、一緒に『姫君』様に救助されたって情報も一緒だったはずだよな?オメェ、まさか『姫君』様が信用ならねぇとでも言うつもりか?」
そこで私に話を振るのか?
ならば私の意見を言わせてもらうが、私からすれば信用が無いのは別に構わない。自分の目で見たものしか信じないという信条にしているのならそれも頷けるし、今のアセンドーの目にはミスティノフしか見えていないようだからな。
仮に彼の秘書やそれに類似した役職の者からミスティノフが私に救助されたという情報を聞かされたとしても耳に入っていなかったかもしれないし、新聞に書かれていた内容もミスティノフが攫われたという情報ぐらいしかまともに頭に入っていなかったのかもしれない。
大体、初対面の相手なのだから信頼されていなくても仕方のないことなのだ。それぐらいで機嫌が悪くなるほど私は狭量ではない。
ただ、ミスティノフの元に駆けつけた時点で私の目の前を通過しているので、そろそろ反応の1つも欲しいところではある。
ということでデンケンと口論をし始めたアセンドーに視線を向けると、ようやく彼は私の存在に気付いたようで非常に慌てた態度を取り出した。
「おぅあっ!!?あ、あああ貴女様はぁ!?な、ななな、なぜこのような場所にぃ!?いや、そもそもいつの間にここにぃ!?」
「貴方以外この場にいる全員、最初からずっとここにいたんですけど?ミスティーのこととなると、本当に周りが見えなくなるわね、アセンドー?今、物凄く大事な話をしていた最中なんですけど?」
「だ、代表!?」
この様子だと、アセンドーは本当にミスティノフ以外の者が目に入っていなかったようだな。私はおろか、アーディリンにまで気づかなかったとは……。
ここまで周りが見えなくなるというのに、彼、本当にやりての商人なのだろうか?それとも、ミスティノフが絡まなければ人が変わったように周囲に気を配れる人物になるとでも?
どうであれ、目的の人物に会うことはできたのだ。
アーディリンとの話の途中ではあるが、早速アセンドーに私の要望を伝えさせてもらうとしよう。
今回ノアが語った内容はよほどのことが無い限り実行されます。
次回は10月12日の0:00を予定しています。
予定通りに更新できるかは疑問ですが。




