スーレーンの代表
スーレーンの首都に到着です。代表に会いましょう。
ワークモスの入り口でリガロウにいったん止まってもらえば、この子に引かせていた竜車も当然移動を止める。牽引は私の魔力ロープによって行っていたため、停止した際の感性操作もお手の物である。
竜車から降りてきたデンケン達に声を掛けておくとしよう。ついでだ。竜車の乗り心地についても聞かせてもらうとしよう。
「お疲れ様。ワークモスに到着したよ。竜車の乗り心地はどうだったかな?」
「とんでもねぇ速度で移動してるってのに全然揺れねぇし音も漏れねぇし入ってこねぇしで正直一言で言い表せるような性能じゃなかったぜ。マジでとんでもねぇモン作ったなぁ!」
「椅子がとってもフカフカでとっても気持ちよかったです!ちょっとだけ眠っちゃいそうになってしまいました!」
「なんていうか…俺達まで一緒に乗せてもらって良かったのかって気持ちが強くて……」
「とは言え、そのおかげでこうして全員一緒にワークモスまで到着できたんだから、感謝しかないよな?」
「うむ。非常に高性能かつ機能性にも優れている故、裕福な者がこの車両を見たら絶対に欲しがるだろうな」
だろうな。その点はヒローの龍社の時点で懸念されていたことだ。当然、今回の旅行でもこの竜車を羨む者は確実に現れるだろう。場合によっては製作依頼を出されたりこの竜車を譲ってほしいと言い出す者もあらわれる可能性も十分にある。
製作依頼の方はともかく、今あるこの車両を譲ってくれという要望には応えるつもりはないな。現在私達が使用しているのだから、それを欲しがるというのは、つまるところ私達の行動の疎外となる。
私の行動を阻害しようとする者が今更頻繁に現れるとは思わないが、それでも自分勝手な人間はいるだろう。そんな時に手早く対応できるようにいくつか竜車を制作しておくとしよう。
勿論、無償で譲る気など無いし相応の対価は要求する。というか、無駄に高品質な素材をふんだんに使用して法外な価格設定にしようと検討している。ちなみにだが、現在使用している竜車も実際に購入しようとしたのならば法外な価格になっているだろう。
材料費だけでなく技術料に加え、デンケンやミスティノフが実際に利用したという実績。もっと言うなら私が一から作り上げた竜車だ。私に対する人間達の評価からして相当高額になるのは間違いない。スーレーンの代表もしくはミスティノフのスポンサーにでも査定してもらうとしよう。
竜車の感想も聞けたことだし、早速デンケンにスーレーン代表の元まで案内してもらうとしよう。新聞で私達の同行は確認している筈だから、今日この時間辺りに私達がワークモスに到着しているのは向こうも把握している筈だ。
「デンケン、約束通りこの国の代表に会いに行くよ。案内を頼める?」
「勿論だぜ『姫君』様。そのために俺も同行させてくれたんだろうしな!お望みとあればすぐさま案内してやるぜ!なにせ代表は『姫君』様の大ファンだからな!仮に予定が立て込んでても全部後回しにして会いたがるだろうぜ」
それもどうかと思うのだが、話が早く進むのなら助かる。もしも先約や先客がいたのなら悪いが、こちらの都合を優先させてもらうとしよう。
それにしても、私に会ってほしい理由が大ファンで会いたがっていたからと来たか。年若い少年少女の発言ならばまだしも、大人も大人な人物の発言だった場合、少しばかり小言を言う必要があるか?流石に自分の要望を優先して代表としての仕事を後回しにするのは良くないだろう。まぁ、私に対する応対も代表としての仕事と言えばそれまでだが。
「なぁに、心配はいらねぇさ!確かにちょいと我儘なところはあるが、その我儘を通すために義理も通す奴だからな!今日までに必死になって自分のやるべき仕事は終わらせてあるだろうよ。後は、『姫君』様を出迎えるだけって状態じゃねぇか?」
なるほど。スーレーンの代表、仕事に関してはかなり優秀な人物のようだな。
実を言うと、私もこの1週間で一通りスーレーンの新聞を読み漁るなどして情報収集をしていたのだが、代表については名前以外は良く分かっていないのだ。
どうも意図的に自身の姿や周囲の状況を隠しているようで、私と会った際に驚かせようという意思が読み取れた。
『広域探知』によって確認してしまえばそれまでなのだが、折角だから相手の思惑に乗ってみようと思うのだ。出会った際にどのような種族、年齢、種族で外見はどうなっているのか、確認させてもらうとしよう。
さて、先頭をデンケンに立たせて代表の元まで移動しているのだが、やはりというか何と言うか、街の住民からの視線が凄まじいことになっているな。
そもそもこの場にいるメンバーが錚々たる顔ぶれなのだから、周囲の反応も当然なのである。
先頭を歩くデンケンは勿論、リガロウの背に乗った私も当然目立つ。ミスティノフも国どころか大陸を代表するレベルのシンガーだし"ヴィステラモーニャ"達も私達と比べたら評判は落ちるかもしれないが、それでも注目され慕われている高ランク冒険者であることには変わりないのだ。
「ちっと煩わしいかもしれんが、我慢してくれよ?っつーのは、流石に今更か?」
「今更だね。何度私が外線やらパレードを経験していると思ってるのかな?それと比べれば、今の状況はずっと静かなものだよ」
「でも、皆姫様だけじゃなくて周りの人間達のことも羨望の眼差しで見てますね!」
「ハハハ…。こんな視線を浴びるの、それこそ魔境の奥地から帰って来た時ぐらいだったんだがなぁ……」
「ミスティーはこういうの、意外と平気だったりするよな」
"ヴィステラモーニャ"達は熟練の高ランク冒険者ではあるが、周囲から称えられるような経験はあまりないらしい。
ガーシャがミスティノフが注目を浴びていることに平然としている様子を見て意外そうにしているが、これは意外でも何でもない。
なにせミスティノフは大陸全土で人気を集めているシンガーなのだ。彼が歌を披露する時というのは大勢の人が集まる時である。その時に彼が集める視線に比べれば、それこそこの程度の状況は何でもない時とまるで変わらないのだろう。
「僕だって最初からこんなんじゃなかったですよ?ですがまぁ、この状況よりも凄いことを何度も経験しているので……」
「つまり慣れた、ということさ。私の知り合いも教えてくれたよ。[慣れてしまえば、どうということはない]ってね。いい機会だから、貴方達も周囲から注目されることに慣れておいた方が良いだろうね。今後はさらに注目を浴びることになる筈だよ?」
"ヴィステラモーニャ"達の年齢は揃いも揃って20代前半なのだ。冒険者として7~8年は経過しているだろうが、肉体はまだまだ衰えるどころか成長していくだろうからな。今後は更に力を付けて有名になっていくだろう。ニスマ王国の"ダイバーシティ"達と同じである。
ならば、少しでも早い内からこういった経験はしておくべきだろう。今後も積極的に注目を浴びに行ってもらいたいものだ。
なお、リガロウはともかくウチの子達に関して何かを語り合っている住民は一人もいなかった。
理由は分かっている。いつも通り、直に見る皆のことが怖いからである。
この際だからハッキリと言ってしまうが、人間達はウチの子達に対して明確に怯えの感情を表している。これが初めてではないからな。いい加減、認めざるを得ないだろう。
それに、初めてではないからこそ今の状況にも耐えられているのだ。正直、アクレイン王国でウチの子達があまり歓迎された態度を取られなかったことについては納得しながらも不満が残っていたからな。納得と満足はまるで別の感情なのである。
勿論、満足がいかなかったからと言って癇癪を起して暴れるつもりはない。期待もしなくなったというだけの話である。
そもそも、ウチの子達はただでさえ危険地帯だとされている"楽園"の住民。それも人類にとっては未開も未開の地から来ているのだ。怯えてスルーするなという方が無理があるだろう。ウチの子達もその点に関してはもう納得してくれている。……単純に人間の反応に興味がないというのも理由の1つなのだが。
人間達からのウチの子達の評価を頭の片隅で考えていること20分。スーレーンの現代表であるアーディリンのいる建物、行政館に到着した。国全体の行政を管理する場所なだけあってかなりの大きさと広さだな。
今更の話だがスーレーンは私がこれまで訪れた国と違い、王や皇帝が支配する君主制ではない。政治は国民達からの投票で抜擢された複数の政治家達が建前上は対等の状況で議論を行って進行していく。
建前上と言ったのは政治家達も人間である以上、経済的な理由だったり人脈の都合だったりと、どうしても上下関係や優劣が発生してしまうのだ。そのため、完全に対等な関係というわけにはいかないのが現状だ。
そんな状況の中、デンケン曰くアーディリンは政治家達どころか国民の声にも耳を傾け、代表としての仕事を良くこなしていると評価している。だからこそ、多少の我儘でも叶えたくなってしまうのだろう。
行政館の出入り口である両扉には既に門番らしき人物が2人待機しており、私達の姿を目にした直後、2人で左右の両扉を開いてこのまま扉を通って良いという反応を見せてくれた。彼等の態度から、ウチの子達も一緒に入って問題無いようだ。遠慮なく入らせてもらうとしよう。勿論、リガロウからは降りるが。
ゴドファンスに縮小化を覚えてもらって正解だったな。本来の大きさだったら物理的には入れなかったため、彼だけ行政館の外で待機する羽目になるところだった。
事務員からアーディリンが待機している部屋を教えられ、その部屋の扉を開けた途端、甲高い少女の声が私の耳に入って来た。
「うほぉおおおおおっ!!?!ほ、ほほほ、ほんものだぁあああああっ!!!本物の『姫君』様だぁあああああ!!!写真で見るよりずっとキラキラしてるぅううううう!!!いやぁあああああ!!!綺麗ぇーーー!!!」
「貴女がアーディリン?初めまして。私はノア。今回の旅行でこの大陸全土を見て回らせてもらうよ?」
「ひゃあああああ!!!声!!声も綺麗ぇーーー!!!」
私達、というよりも私を出迎えたのは、先月20才になったばかりの庸人の女性だった。他にこの部屋に人はいない。彼女がアーディリンなのだろうか?
しかし声が綺麗とは……。これまた初めてな感想を貰ったな。
まぁ、私が歌を歌った際に声に対して不評を貰ったことはなかったのだ。声も不快感を与える声ではないと思ってはいたが、少なくともアーディリンからは綺麗な声に聞こえているのだろう。
そんなことを考えていると、歌という声が関係する仕事を生業とするミスティノフが私の声について言及してくれた。
「ノア様のお声って普段の声と歌を歌う時の声とでかなり違いが出ますよね」
「そうなのっ!!?是非とも歌を聞かせて欲しいわ!!」
「ええっと……」
ミスティノフ。無茶振りをされて戸惑うのも理解はできるしこちらに助けを求めたくなるのも理解はできるが、それは自業自得というものだ。私が貴方の言動の責任を取る義理はない。
と、言いたい所ではあるのだが、ここはひとつ推定アーディリンの要望通り、一曲歌わせてもらうとしよう。それで彼女が落ち着きを取り戻して自己紹介でもしてくれれば儲けものだ。
理由はそれだけではない。どちらかというとこちらの方が大きな理由になるのだが、ウチの子達に私の歌を聞かせたいからだ。
昨日のコンサートの歌は当然ウチの子達も耳にしていたのだが、いや、だからこそもっと聞きたいと思っているのだろうな。推定アーディリンの私の歌が聞きたいという要望を耳にしてリガロウを含めた皆して期待の眼差しを送ってきているのだ。これでは歌を歌わざるを得ないだろう。この子達の期待を裏切ってガッカリさせたくはない。
「それでは1曲歌わせてもらうとしよう。静聴してもらえると助かるよ」
「うん!分かった!!静かにしてるね!!!」
その声はまるで静かではないのだが……。この興奮具合、まるで巫覡と会話をしているような気分になるな。
まぁ、巫覡との会話でたじろいでいたのもいい思い出だ。アリシアともそつなく会話ができた今ならば、シセラとだって余裕をもって対談できる自信がある。
そう言うわけで、私は余裕をもって歌に集中できるのだ。
『収納』からギターを取り出し、部屋に防音結界を施したら、推定アーディリンのための歌を歌うとしよう。
興奮気味な女性の正体は一体……。
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