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ドラ姫様が往く!!  作者: Mr.B
オルディナン大陸へ往く!!
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タスクの実力

お待たせいたしました。何とか体調も回復しました。


すぐに止めたのでシャーリィに体の負担はあまり掛かっていません。反動も相手に悟られない程度の我慢ができるレベルです。

 当たると確信した木剣が突如目の前に現れた私に受け止められたことで、シャーリィは困惑すると同時に不満そうな表情を作った。


 「えっ?先生…?なんで…」


 木剣を受け止めただけでシャーリィの過剰身体強化は解除されていないので、彼女の額を軽く指で弾き、彼女が纏っている魔力をかき消してしまおう。


 「痛っっったぁ~~~い!…って、アレェッ!?」


 自分が纏っていた魔力が無くなっていると認識してさらに困惑しているようだ。驚愕していると言ってもいい。


 「シャーリィ。ソレはあくまでも奥の手だ。訓練や模擬戦で使用して良いものじゃない」

 「ううぅ…。だってぇ…」

 「だっても何もないよ。後先を考えずに消耗しすぎたから以前勝てた相手に追い詰められたんだ。さっきの試合でだけで言うなら、私はオスカーの勝利と判断するよ」

 「ええぇ~~~っ!?」


 [ええー]ではない。

 そもそもあの過剰身体強化は体の負担が大きすぎるのだ。

 熟練の冒険者である"ダイバーシティ"達も短時間使用しただけで自然回復させるには1週間掛かってしまうほど肉体にダメージを受けてしまう。

 シャーリィが行った強化はそこまで強力ではないが、それでも確実に1日中動けなくなるようなダメージを負っていただろう。


 ジョージが慌てだしたのはそれが理由だ。

 彼はアイラだけでなくシャーリィの護衛も務めているのだから、護衛対象が負傷するような事態は避けたかったのである。


 それに、もしもシャーリィが負傷していたらアイラに何を言われてしまうか分からないだろうからな。ジョージもシャーリィほどではないがアイラに対して若干苦手意識を持っているように見える。

 以前何らかの小言を直接言われたのかもしれないし、シャーリィに対するアイラの様子を見てたじろいだのかもしれない。


 とりあえず、関係のないところでジョージが不憫な目に合うのは防いでおくとしよう。流石に理不尽になってしまう。


 「さて、シャーリィ。以前にも言ったが、見ることもまた修練になる。これから行われる試合をよく見ておきなさい」

 「えっ!?せ、先生が試合をするんですか!?」


 そういうことだ。直接知っておきたい、というか興味があるからな。

 私はタスクに視線を送って彼に手招きをする。


 「意外と出番が早かったですね…。一応確認しますが、準備運動なんかは…」

 「ココでできるだろう?まずは軽くじゃれあおう」


 そう言ってタスクが舞台に上がってくるまでの間に『収納』からハイドラを2本取り出しておく。

 その様子を見てシャーリィが露骨に顔をしかめだした。


 「うげ…。あの剣2本あったんだ…」


 残念、4本である。2本にしたのはそれ以上を使用する必要が無いからだ。

 済まないとは思うが、タスクの実力はその動きと内包する魔力量で大体把握できるのだが、よほどの奥の手でも無ければリナーシェには及ばない実力だ。当然、グリューナの方が強い。


 ただ、それでも宝騎士の中ではかなり上位の実力者であるのは間違いないだろうな。

 私の見立てでは、タスクの実力はグォビーと同等と言ったところか。


 グォビーはマギモデル、もっと言うならマギバトルに熱中しているだけの魔術具師ではない。

 彼が製作したマギモデルの素材は、そのどれもが"楽園"を始めとした魔境や大魔境から自力で入手して来た素材だし、彼が製作したマギモデルで彼が見せてくれた動作は、当然のように自分でもできる。

 結論から言えば、彼の実力は"一等星(トップスター)"冒険者相当だ。というか、実際に一等星冒険者じゃないだろうか?

 少なくとも、彼が騎士ではないのは確かだ。悪徳貴族の私兵を一掃したあの日にその場にいなかったからな。


 今知る必要がある訳ではないので、その話は今は捨て置こう。またいずれ、マギモデルトーナメントが開催された辺りにでも顔を出して訊ねてみればいいのだ。


 さて、舞台に上がって来たタスクなのだが、思いのほか緊張した様子も焦っている様子もない。ごく自然体である。

 流石は宝騎士でありこの街の騎士達を束ねるだけのことはある。既に決心というか覚悟が決まったのだろう。


 「覚悟でも決心でも無く、諦めかもしれませんよ?」

 「自分でそれを言う?」


 その表情はどう見ても諦めのそれではないだろうに。


 タスクは今、笑っているのである。

 なぜ笑っているのか?


 久方ぶりに存分に力を振るえる喜び。未知の相手への挑戦に対する興味。圧倒的格上の力に対する期待。その他にもタスクを笑顔にしている要因は複数ある。

 その笑顔は、傍から見れば優男の微笑みに見えたのかもしれない。しかし、今の彼と対峙してる人間が見た場合、その獰猛さに委縮するか同じように獰猛な笑みを浮かべることになるだろう。


 「では、まずは準備運動と行こうか。こちらから行くよ?」


 予告もなしに手首のスナップだけでハイドラを鞭形態にして振るい、2本のしなる斬撃がタスクを襲う。

 タスクには鞭形態のハイドラの動きがしっかりと見えていたようで、難なく斬撃を回避する。


 それで良い。

 剣で受け止めようものならハイドラで絡め取って剣を没収していたところだ。


 流石は宝騎士。この程度の動きは難なく避けるか。

 ならば、少しずつ振るう速度を加速して言ってみよう。準備運動ついでに軽い鍛錬もしておくのだ。


 「…ノア様?準備運動と聞いていたのですが?」

 「ついでだよ、ついで。それに、目を慣れさせるという意味ではこれも立派な準備運動だと思うけど?」

 「むむむむむ…!メチャクチャ速い…!見えないことはないけど、全部避けるのとか、ちょっと無理かも…!」

 「あの…シャーリィ様はアレが見えてるんですか?」


 シャーリィとオスカーは揃って座り、私とタスクの鍛錬を観察している。

 ここから更に鞭撃を加速していくつもりではあるが、とりあえず今の段階ならばシャーリィの目にも捉えられているようだ。

 そして、オスカーの口ぶりからして彼の目では現状の鞭撃でも捉えるのが難しくなっているようだ。


 オスカーの動体視力を鍛えるためにももう少しこの速度を維持しようかとも思ったが、今はタスクの相手をしているのだし、止めておこう。


 現在のタスクの動きに乱れはない。鞭撃の速度を今の3割ほど速めれば、流石に焦りも見えてくると言ったところか。


 このまま単調にタスクでも対応できない速度まで鞭撃を加速させても構わないのだが、それでは若干面白みに欠けるな。

 相手は人類の宝たる宝騎士なのだ。今私達のやり取りを見ている者達の修練にもなって欲しいのだし、ここはハイドラの特性を活かすとしよう。


 2本のハイドラに魔力を流し、1つのハイドラの刀身を2つに分離させて4本の鞭による鞭撃を繰り出していく。


 「っ!?」

 「えええええーーーっ!!?なにそれぇ!?そんなのズルじゃーーーん!!」


 ズルではない。れっきとしたハイドラの機能である。今まで見せていなかっただけなのだ。

 まぁ、それは良いとして…流石にタスクの表情から余裕が消えたな。

 だが、それでも対応自体はできているようだ。ただ、流石に回避だけで凌げるわけではないようだな。


 剣で弾こうものならやはり絡め取られて剣を奪われると判断したのだろう。回避行動を行いながら魔術を発動し、回避しきれないような鞭撃を弾いている。

 その洞察力と判断力。見事と言っておこう。


 「そろそろ準備運動は良いかな?」

 「そう言えば最初に準備運動だって言ってた!」


 シャーリィ、それは今更じゃないだろうか?私もタスクも準備運動のつもりだったのだが?

 現在タスクは魔力による身体強化を行っていないのだ。本番はここからである。


 「折角刀身が4つもあるんだ。こういうのも経験してみると良い」

 「コレは…!なるほど、確かに今までのは準備運動だったようですね…!」

 「先生から行ったーーー!しかも剣の半分が伸びてて半分がくっついてる!何アレ気持ち悪い!」


 酷い言われようだ。

 刀身を2つに分割できるのだから、分割した片方を鞭形態にしたままもう片方を曲剣状態にして私の方から近接戦闘を仕掛けただけなのだがな。


 正面から曲剣による直線的な攻撃に加え、側面や背後と言った死角になり得る方向からも相変わらず繰り出していく。


 タスクはともかく、シャーリィは反応しきれずに両手で頭をかき乱しているし、オスカーに至ってはまるで動きが見えずに呆然としてしまっている。

 シャーリィもオスカーも、魔力によって動体視力を強化したうえでの反応である。


 「ちょっ!?遠くから来るのか近くで剣振るうのかどっちかにして下さいよ!」

 「えっと…!アッチがこうで、コッチがああ来て…アレ?コッチがアッチ?アレ?」


 シャーリィもオスカーも、この辺りが限界だろうな。


 ならばジョージはどうかというと…彼は現在イネスと共にリガロウと遊んでいる。

 遊んでいると言ってもそれはリガロウ基準だ。ジョージとイネスからすれば地獄のような光景なのかもしれない。


 「き、キッツいってレベルじゃ…!もうちょっと手加減してくれないかなぁ!?」

 「諦めましょうぞ殿下。あの楽しそうな表情を曇らせるわけにはまいりますまい」

 「じゃあアンタがリガロウの注意を引きつけてくれ!そうしてできた隙を俺が狙う!」

 「ハハハハハ!ご冗談を!どちらかと言えばその役割は殿下の方にあるかと!」


 実を言うと実力的に上回っているイネスがリガロウの注意を引き付けその間にジョージが攻めるのは悪い手段では無かったりする。リガロウは手加減してくれてるしな。

 しかし、注意を引くということは、ただでさえ2人で受けていたリガロウの猛攻を1人で受けなければならないということだ。

 そんな役割など引き受けたくないと、イネスはジョージに囮役を譲っている


 あんなやり取りができている時点でまだ余裕があると言って良いだろうな。『通話』でもう少し激しくしても良いとリガロウに伝えておこう。


 〈了解です!やるぞーーー!〉

 「ちょ!?待って!なんか勢いが増してる!?」

 「殿下!冗談を言い合っている場合ではなさそうですよ!?」


 リガロウはジョージとイネスに対して飛爪を連射しながら偶に翼の噴射孔から魔力の奔流を放出して2人の様子を見ていたのだが、遂に私と同じようにリガロウも自身の肉体、つまりは爪や鰭剣や角で攻撃を行うようになったのだ。噛みつきを行わないのは、手加減しているからだろうか?


 とにかく、遠距離攻撃に加え近接攻撃まで繰り出されるようになってしまった今、いくらイネスがいようとも彼等は防戦一方になってしまったのだった。

 リガロウが楽しみたいだろうからもうしばらくあの状況は続くだろうが、消耗の激しさから見て長くは持たないだろうな。


 場面を私とタスクの方に戻すとしよう。

 嬉しいことに、タスクは準備運動後もしっかりと食いついて来てくれている。


 「やるものだね。流石はアクレイン王国が誇る宝騎士だよ」

 「あの光景を見せられてしまっては、頑張らないわけにはいきませんからね…!」


 タスクの言うあの光景というのは、リガロウと戦っているジョージとイネスのことだ。ジョージはともかく、自分と同等の実力を持つイネスが頑張っている以上、自分も頑張らなければ部下達に示しがつかないと考えたのだろう。


 そう言えば、私がイネスと初めて出会ったのはアクアンに来てからだったな。

 しかし、イネスがタスクの取材をしないわけがないだろうし…。


 ひょっとして、以前からイネスはタスクと顔見知りだったりするのだろうか?


 「確かに、記者のイネス嬢からは取材を受けたことはありますが…。ノア様?"彼"をこの場に連れてきた理由は聞かせてもらえるのですか?」


 おっと?


 どうやらタスクは今のイネスを見て彼女が女性ではなく変装した男性として捉えたようだぞ?

 つまり、彼は今のイネスを怪盗だと判断しているようだ。


 これは予想外だったな。

 騎士は怪盗を捕らえることに躍起になっているし、ちゃんとした説明が無ければこのまま険悪な空気になりかねない。


 まぁ、説明を求めるのなら説明してやれば良いだろう。


 私は事情を伝えるために、『通話』を用いてタスクに連絡を取った。

タスクはイネス(怪盗)がドライドン帝国を救った人物の1人であると知りません。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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