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ドラ姫様が往く!!  作者: Mr.B
ドライドン帝国へ往く!!
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世話焼きドラゴン

これまでの行動からも分かる通り、彼女はとても世話好きです。

 ジョージとは怪盗がこの城に侵入した際に知り合い、その際修業を付けてもらうよう頼まれ、それを引き受けたこと。ジョスターの意識を取り戻し、彼の体調を回復させたのが他ならぬ私の仕業だと言うこと。そして、ジョージが皇位継承権を捨ててこの国から出て行きたがっていたことを簡単にまとめてジェームズに話しておいた。


 なお、どのようにしてそれらを行使していたのかは、詳しく説明していない。説明せずとも、私ならば可能だと最初から納得してくれていたというのもあるが、そもそも説明する気が無かったからだ。仮に納得されなくても、強引に納得させていた。


 「そういうことでしたか…。ノア殿、遅れましたが、陛下を…父上を救っていただき、ありがとうございました」

 「どういたしまして」


 深々とジェームズが頭を下げる。

 が、父親の恩人と言えど、やはりジョージに言い渡された沙汰に関しては思うところがあるようだ。例えそれが、ジョージの望む結果だったとはとしても。


 「ジョージへの処罰は…もう少し、緩和してやることはできなかったのでしょうか…?何も、家名まで剥奪することは…」

 「そうは思っていない者達もいるだろうからね。これは、彼のためでもある」


 ジョージを疎んでいたのは、彼の兄弟達だけではない。

 当然のことながら、ジョージを疎んでいた兄弟達の背後にいる貴族達も、彼のことを疎んでいた。

 と言うよりも、彼を疎ませるよう仕向けたのが、兄弟達の背後にいる貴族達なのだろう。


 そういった連中は、ジョージとジェルドスの決闘を直接目にしている。今のジョージは、この国でも有数の実力者と言われていたジェルドスよりも強いのだ。


 彼等は、ジョージを恐れているのだ。

 ジェルドスを下せるほどの武力を個人で所有する成長途上の少年など、末恐ろしいにも程があるのだろう。まして彼の同腹の兄は、皇位継承権第二位だった人物だ。


 ジョージが皇位に興味がなく、ジェームズに皇帝になって欲しいと願っていたのは周知の事実だったようで、貴族達は2人が組めばその地位は盤石だと考えたのだ。


 あの時ジョスターがジョージに下した処罰を耳にして安堵した貴族は、非常に多かった。

 もしもジョージが皇帝の血縁として国から出て、他国で成功すれば、当然ジョージの名声は高まる。

 そうなれば、帝国内でジョージの帰国を望む者が増えるだろうし、彼に相応の地位を与えて欲しいと願う者すら現れるだろう。中には次期皇帝になることを望む者まで現れるかもしれない。


 そうなれば、貴族達も黙ってはいなかっただろう。最悪、ジョージに刺客を送り、危害を加えていたかもしれない。

 今の彼ならば容易に撃退できるだろうが、気ままな冒険者生活を望んでいる彼には、さぞ煩わしく迷惑に感じるだろう。


 ジョスターがジョージの皇位継承権や家名を剥奪したのは、皇族関連でジョージに干渉することは、今後一切許可しない。そういった意味でもあるのだ。


 「確かに、あの子はこの国を出て冒険者になりたいと語っていました…。ですが…」

 「そう思うのなら、まだ時間はあるのだし、じっくりと兄弟で話し合うと良い。永久追放と言うわけではないんだ。いつか再び会える日が来る」


 ジェームズは本当にジョージを大切に思っているようだ。一回り程年が離れているし、可愛くて仕方がないのかもしれないな。何度かジョージを[あの子]と呼んでいるし。


 「…冒険者は非常に危険な場所へと赴くこともあります。しかも、今のあの子には後ろ盾もありません」

 「それに関しては心配しなくても大丈夫だよ」


 弟の身を案じるジェームズの表情は暗い。

 彼もジョージの実力はある程度把握している筈ではあるが、後ろ盾の無い環境に一人放り出される状況を嘆いているようだ。


 だが、実際のところは違う。むしろ、最強の後ろ盾を得ていると言っても良いだろう。


 「ジョージがこれから行く場所はもう決まっているし、私が連れて行く。貴方は彼に後ろ盾がないと言っていたが、私が後ろ盾では不満かな?」

 「っ!?それは、本当ですか!?」


 ジョージには頼みたいことがあるのだから、贔屓にするのは当然だ。私の不興を買わない限りは、味方するつもりである。

 とは言え、甘やかすつもりは無いから、常時彼を見張って守るようなことはしないが。


 それに、マコトはきっとジョージを歓迎してくれる。故郷を大切に思い、それに共感できるジョージの存在は、マコトにとって非常にありがたい存在の筈だからな。

 私の勝手な想像ではあるが、千尋の研究資料の解析を手伝ってもらっていた時の反応を見る限り、間違ってはいないと思うのだ。


 「本当だとも。だから彼が再びこの国に足を踏み入れ、胸を張って再会できるようにするのが、今の貴方がするべきことじゃないかな?」

 「…そうですね、その通りです。分かりました。ノア殿、弟…ジョージのこと、よろしくお願いいたします」


 言われるまでもない。だが、その願いは聞き入れるとも。

 無事ジョージをティゼミアまで連れて行き、マコトに会わせる。その際に彼の後継者になって欲しいことも頼むが、今はまだ断られても良い。

 マコトの様子を見て、彼を手伝ってやりたいと思わせられれば、それで十分だ。

 …逆に、彼の様にはなりたくないと思われてしまうかもしれないが…まぁ、その時はその時だ。素直に諦めて別の候補を探すとしよう。


 〈『彼以外の候補となると、多分いない気がするけどねぇ…』〉


 天空神がそれで良いのか?探せば一人ぐらいいるだろう。もうちょっと気合を入れて探してみてくれ。


 〈『まぁまぁ、ジョージが貴女の頼みを引き受けてくれればいいのですから、次の候補を探すのは完全に拒否されてからでもいいでしょう』〉


 ダンタラの言うことも尤もである。

 自惚れでなければ、私はジョージに相当な恩を与えていると思っている。彼の性格なら、引き受けてくれるとも期待はしているのだ。

 だが、それはあくまでも私が勝手に考えていることだ。ジョージがどうこたえるのかは分からない。


 いっそのこと『真理の眼』で未来を観てしまいたくもなるが、それは私の矜持に反するので我慢する。今はとにかく、ジョージになるべく断られないように彼からの好感を高めておくのだ。



 話も終り、ジェームズの部屋から出た私は、ジョージの元へと向かうことにした。

 時間としてはまだ12時前。昼食の時間まで3時間ある。そして彼は今日も鍛冶師と共に刀を打っている。『広域(ウィディア)探知(サーチェクション)』で確認済みだ。


 無色透明の幻を配置して様子を眺めているでも良かったのだが、止めておいた。万が一にも私の視線を感じとって調子が狂い、刀が台無しになっては目も当てられないからだ。


 なので、鍛冶工房には入らずに、彼等の作業がひと段落するまで外で待機しておく。

 なお、彼等が作業を終えたら消耗して腹も空かせているだろうから、昨日と同様昼食と風呂も『亜空部屋(アナザールーム)』に幻を出して準備しておく。

 製作を手伝うと言ったのだ。これぐらいのサポートをさせてもらっても、文句を言われることはない筈だ。


 昼食のメニューは…昨日と同じでは味気ないだろうから、別の料理を用意しよう。

 鍛冶師が魚も問題無く食べられるのなら魚をメインにした食事にしようと思っているが…。その辺りは別の場所で作業をしている彼の弟子にでも聞けばいいか。


 鍛冶師は問題無く魚も食べられるようだ。ただし、生で魚を食べたことがないらしいので、加熱処理した魚をメインで出すとしよう。

 ジョージは問題無く生でも食べられるだろうが…妙に感動されて不審に思われるのも面白くないだろうから、同じメニューで良いだろう。


 後は、火を通した貝も複数用意しよう。

 豆を使用した黒色の調味料と溶けたバターの相性が非常に良いそうなので、私も食べるのが楽しみである。



 作業が一段落ついたところで鍛冶工房に顔を出し、2人を労っておくとしよう。

 鍛冶師には驚かれたが、ジョージは私が転移魔術を使用できると知っているため、いつ表れてもあまり驚くことは無さそうだ。


 「2人ともお疲れさま。食事と風呂の用意をしてあるよ。良ければ汗を流して来ると良い」

 「ノアさん…対応が女神過ぎます…」

 「真昼間っから風呂に入れるたぁ、俺も偉くなったもんだぜ!」

 「親方は元から偉いでしょうが!」

 「殿下がそれを言うんですかい!ガッハッハ!」


 2人は今日も仲良く一緒に風呂にはいるらしい。意気揚々と『亜空部屋』に入っていく姿を見ていると、こちらまで微笑ましくなってくるな。

 後ジョージ、私は間違っても女神じゃない。比喩であってもそう言ってくれるな。


 風呂から出た2人に食事を振る舞えば、昨日と変わらない勢いで料理を胃の中へと運んでいった。


 「時間も量もたっぷりあるんだから、もう少し落ち着いて食べたら?」

 「だって…だってどれもこれもメチャクチャ美味いんですよ!?かっ込むしかないでしょ!」

 「俺ぁ、どちらかと言やぁ肉の方が好きですけど、こんなに魚がうめぇと思ったのは初めてでさぁ!しかもよく冷えたエールまで付いてきた!メシが進むってもんでさぁ!」


 まぁ、美味そうに食事を食べているので、その点については文句はない。

 しかし、醤油と言ったか。豆を利用したこの黒色の調味料。以前にも口にしたことはあるが、やはり凄まじい旨味だ。

 それに…濃厚感とでも言えばいいのか?舌に後味を残すようなこの感覚は、味わいに深みを与えてくれているように思える。


 溶けたバターと醤油が混ざることによって、味にまろやかさが加わり、ただでさえ美味かった醤油の味が更に引き立てられている。

 これに加えて貝に含まれている旨味も合わされば、ジョージ達が勢いよく口に運ぶのも納得である。

 …もう少し味わって食べて欲しいとは思うが。


 なるほど、これは千尋が最優先で再現させようとした理由も分かる気がする。

 日常的にこういった調味料で味付けされた食事を口にし続けていたら、恋しくなるのも無理はない。

 同様に、修業中にジョージも口にしていた味噌汁に使用した、味噌でも同じことが言えるだろう。


 私の料理はかなり気に入ってもらえたようで、昨日と同様お代わりを頼まれた。勿論余裕があるので用意する。万全の状態になっていい作品を手掛けてくれ。それが、今後のジョージの助けとなる。


 「さぁて殿下!腹ぁ休めたら仕上げまで一気に行くぜ!?こっから先も気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!」

 「おう!ノアさんのおかげでコンディションはバッチリだ!最高の刀を作ってやろうぜ!」


 力強く互いの右手を握り合い、良い刀を作ろうと意気込んでいる。

 なお、ここで鍛冶師が言っている仕上げと言うのはあくまでも鍛造作業の話だ。

 包丁の時もそうだったが、刀は叩いて形を整えたら終わりではないのだ。


 鍛造作業が終わった後は、ジョージも手が出せなくなる。そこから先は鍛冶師のみで仕上げていくのだ。


 2人の表情はとても輝いていて、見ている私も高揚感を覚えてくる。こういった感覚は、小説を読んでいる時にも何度かあったな。

 そんな体験をこうして実際の光景を見て味わえるとは、貴重な体験をした物だ。夕食も奮発させてもらうとしよう。



 鍛造が終わり、夕食も風呂も済ませたら、刀に関しては鍛冶師の仕事だ。

 ジョージが国を出るまでの間に、済ませておくことは刀を作るだけではないからな。


 「ジョージ、ジェームズとよく話をしておくと良い。貴方がこの国を出ることを、とても心配していた」

 「うっ…。やっぱ、そうですよね…」


 ジョージもジェームズから可愛がられていたことは自覚していたのだろう。だからこそ兄を慕っていたし、皇帝になってもらいたかったのだ。

 そしてそれ故に、この国を出ていくことでひと悶着あるとも考えている。

 だから、ジェームズと顔を合わせるのが気まずいのだ。


 「心配することはないさ。私の方からも彼には話を通してある。後は、貴方が彼を安心させてやりなさい」

 「…ノアさんって、世話焼きだって言われたりしません?」


 どうだっただろうか?少なくとも、ジョージには分かっていて甲斐甲斐しく世話をしている。恩を売っておきたいからな。口に出しはしないが。


 だが、自分のしたことで相手が喜んでもらえるというのは、嬉しいのだ。だから喜んでもらいたくて、つい厚待遇をしてしまうのは否めないな。"ダイバーシティ"達も、元はと言えばリガロウやランドランの修業のついでではあるが、同じような理由である。


 「そうだ、明日からは時間があるだろうし、街に出かけよう。ショッピングだ」

 「へ?」

 「ジョスターは準備をしろと言ったのだろう?だったら、これからの生活に必要なものを買いそろえないとね」

 「い、良いんですかね…?」


 良いに決まっている。そもそも、今のジョージは皇族ではないのだから、城の備品を持って行くことはできないだろうしな。

 だから、刀の素材も私が提供させてもらった。文句を言わせないとも言ったしな。


 そんなことよりも明日以降の準備である。


 「ジョージ、貴方が自由に使える資金は、どれぐらいある?」

 「えっと…まぁ、金貨10枚ほど…」


 意外と少ないな。人気のある皇族なのだから、その10倍ぐらいは持っていると思ったのだが…。


 「や、これでも結構貯めた方なんですよ!?本来皇族は資金を持つ必要がないんですから!」


 それもそうか。

 そんなジョージが金貨10枚と言う貨幣を所持していると言うことは、国中を視察と言う名目で見て回っていた際に何らかの方法で資金を調達していたと言うことか。


 「年齢が年齢なんで冒険者登録はできませんでしたけど、素材の売却自体はできましたからね。頑張りましたよ、未来の俺のために!」


 とのことだ。


 まぁ、最も金がかかるであろう武器は購入する必要もない。

 ならば、"上級(ベテラン)"冒険者が所有する装備や道具を集めるぐらいなら、それだけの資金があれば問題無いか。


 では、明日はジョージには街を案内してもらいがてら、彼に必要な品の買い物に付き合うとしよう。

街に行くと言うことは、彼女達が来ると言うことです。まだロヌワンドにいます。

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