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第九章 綾子、拉致られる(中)

 綾子はまた、悲しい夢を見た。






『それでは、次のニュースです。』

 そこは、静岡にある実家だった。

 ストーブにかけられたやかんが、シュンシュンと音を立てている。

 母がソファに座って、テレビを見ている。

(お母さん痩せた……)

 その丸い背中に涙がこみ上げる。

 しかし、その隣のソファに座っていた男性が目に入った途端綾子の涙は引っ込み、代わりにムカムカと怒りがこみ上げてきた。

(高村明……!!)

 よくもまあのこのことあらわれたものだ。

 あの女のよろしくヤっているのではなかったのか。

 と、その時だった。

 テレビに映るニュースキャスターの男性が突然、こんなことを言い出したのだ。

『今年6月、静岡県静岡市○×区のアパートで当時大学院生の岩田綾子さん(24)が死亡していた事件で、警察は昨日、岩田さんに対する嘱託殺人などの疑いで、岩田さんの従兄の男ら2人を逮捕しました。

 逮捕されたのは神奈川県○○市の自称自営業、市川直孝容疑者(32)と、無職の沢田栄美容疑者(27)で、2人は容疑を認めており、『知り合いの暴力団の男に20万円で殺害を依頼した。まさか本当に殺すとは思わなかった』と供述しているということです。

 警察は当初、現場の状況から自殺と判断していましたが、近隣住民から不審な男の目撃証言があったこと、また遺族による再捜査の刑事告訴があったことから、捜査が行われていました』

(えっ)

 綾子があんぐり口を開けていると、

「やりました…やりましたよ…!!」

 明が握りこぶしを膝の上で作り、涙を流しているではないか。

 よく見ると、そのL字型のソファには2人の他に何人か男女が座っていた。

 あれは母方の叔母の素子もとこさん。あと……何てことだ。明の両親もいる。父親が涙を流す明の背中をさすってやっている。

「あきちゃん。本当にありがとう……綾子も浮かばれるわ。まさか、本当に殺されていたなんて……」

 母も涙ぐんでいる。

「アパートの隣の方が警察に証言してくださったのも、本当に助かりました」

「でもそれはあきちゃんが、駅で沢山ビラ配りをしてくれたから……」

「いや、俺は何も……」

「ご両親にも、どうお礼を行ったらいいか……」

 母が頭を下げると、明の両親はかぶりを振って、

「とんでもない。私たちも正直、自殺などするはずがないと思っていた。当然のことをしたまでです」

「綾子ちゃんにも伝わると良いわね…明。」

 明の母が声をかけている。

「惜しむらくは……あの子にあの件の本当のところを伝えられなかったこと。本当に、今でも悔やんでいます。」

 母は言って、「でも本当にあの子は頑固で……。変なところがお父さんに似てしまって」

「たしかにやこちゃんは頑固でした。」

 明は静かに言った。「あの週刊誌報道が実際は全くのデタラメで、あの訳わからない女が記者と結託して作った記事だ、といくら言っても分かってもらえなかった。それは正直悲しかったです。でも、やこはあの頃高校二年生ですよね。大事な10代をあんなことで心を傷つけられて、本当につらかったろうと思います。あの女には本当に憤りしか覚えません。この前、この女と週刊誌を相手取った裁判は勝ちましたけど……正直まだ許せない。俺と、やこちゃんの未来を、踏みにじったんですよ?」






 綾子は、パチリと覚醒した。

 何か悲しい夢を見ていた気がするが、思い出せない。

 どうにも右肩が痛い。

 それもそのはずだ。石畳の上に横向きに寝かされていたのだ。

 あいたたた……と言いながら起き上がる。

 辺りを見回すと、ここはどこぞの建物の地下のようだった。

 壁の上の方に、明り取りの小さな窓が取り付けられている。外に人の姿は見当たらない。雑木林でもあるのか、落ち葉がはらはらと落ちて行くばかりだ。

 そして、厄介なものが綾子の手足には取り付けられていた。

(魔力封じ……)

 相手も流石に馬鹿ではないらしい。

 入口にもしっかりと、鉄格子が嵌っている。

 ここが人を閉じ込めるために作られたのは明らかだった。

 そこへ、その牢屋の前に一人の女が姿をあらわした。

 綾子は一瞬目を見開いたが、もう驚かない。

 その女は数年前、落盤事故に巻き込まれ死んだと聞かされていた。

 しかし遺体は見つかっていない。

 ということは……そういうことだ。

 その女は真っ赤なドレスを身にまとい、そろいの口紅を付けていた。

 顔色が異常に悪い。

 女はニタァと笑った。そして、こう言ったものだ。

「あらぁ。しぶといわね。流石、ゾハスの乞食女はゴキブリ並みの生命力だわ」

(神経を逆なでしてはいけない……)

 と、綾子は心に決めながらこう答えた。

「お久しゅうございます……ナタリー先輩。」


 そう、その女は……



 ナタリー・フリーマンであった。


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