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第十四章 夢(下)

 その晩。

 私は赤いお仕着せに身を包み、あのホテルの時計塔のてっぺんに立っていた。

 街が一望できる。

 いたるところで灯りが点いていて、真夜中とは思えぬ明るさであった。

 暑い夜だった。

 足元がすくみそうな高さだったが、不思議と恐怖は感じない。

 その気になれば身体は浮かせられる。

 そろそろ、私の媒介したむしたちが、仕事をしてくれる時間だ。

 すると……。

 眼下で悲鳴が上がった。


 始まった。






 見に行くと、もうそこは辺り一面血の海だった。

 男が一人、ざくり、ざくりと、なにかを刺している。

 …あら。ここまでしたつもり無かったんだけど。

 私は蚊たちに、私の血を吸わせて媒介を頼み…あとは宿主に『お前は自由だ。心のままに動け』と命じただけだったのだが。

 アンデッドという魔獣は便利だ。

 一滴のその血を、相手のそれと混ぜただけでその相手を死なせてアンデッド化できる。寄生虫みたいなものだ。

 レギデウス様は、『少し慣れてくれば完全に支配下に置いて、行動もコントロールさせられるよー。まだでも始めてだから、今回は無理だと思う。』とおっしゃっていた。

 なので、今回はただ一言、その宿主に命じてみた。

 それだけだったのだが、そうしたらまさかの殺戮がそこかしこで始まってしまったのだ。

 …どうも、中に相当同僚に恨みを持っていた者が居たらしい。

(うわっ)

 また目の前で一人、血みどろの人間が倒れてきた。

 よく見ると、それは私をここへ連れてきた副支配人だった。

 でも、何の感慨も湧かなかった。

 私はなんだか楽しくなって、その副支配人の死体の背中に足を乗せ、けりけりと動かした。

『気は済んだかい?』

 そこへひょこりと、レギデウス様があらわれた。

「はい。でも少し眠くなってきました。もう充分か…な」

 少しどころではない。物凄い眠気だった。

 視界がぼやあ、となる。

『…だろうね。…から。おやすみ』

 なにかおっしゃったようだが、もう分からなかった。






 そのお仕着せを着た少女は、目を覚ました。


 何だか懐かしい夢を見ていた気がする。


 でも忘れてしまった。


 自分の名前も、もう思い出せない。


 でもやらなきゃいけないことがある。


 あの町に居る人間は、人では無い。人でなしだ。人殺しだ。


 身勝手に人の命を奪っておいて、自分はのうのうと生きている。


 そんな事が許されてたまるものか。


 まだまだ。


 まだまだ、あの町の人間にはわたしたちの苦しみを分かってもらわねば。



 少女は伸びをして、起き上がった。



 すると……。




 二の腕の肉が腐って、ずるり、と剥けた。

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