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第十三章 事件の真相へ(下)

 …この戦闘は死闘であった。

 その様は、その隠し扉の奥に眠っていた調書からも充分に読み取ることができた。

 騎士団からも犠牲者が当然、出た。その中には当時団長であったカルロス・ギルバートンも含まれていた。

 何とも外聞の悪い話である。

 しかしともかく、然るべき調査は成されないとどうにもならない。

 団長死亡により一時的に代行となったロドニー・マクリーンはその後、上の組織である国の方に救援を要請したようだ。

 どうも彼は薬に手を染めておらず、地元のマフィアとものらりくらりとした関係を築いていたらしい。

 それで、国の方からは魔法研の人間や、大公殿下直属の近衛兵団…いわゆる、騎士の中でもエリートというやつである…がやってきて、大掛かりな調査がなされたようだった。

 しかし、得られたことは限られていた。

 騎士団達が屠ったアンデッドはいずれも真っ黒こげになっていて損傷が激しく(それもそのはずだ。奴らは強すぎた、そうでもしなければ倒せなかったのだから)身元の特定はほぼ不可能であった。何せアンデッド化した人間の遺体、というのは只のそれとは違い魔獣化してしまっている。普段出来るはずの顔の復元なども、出来なかったのである。

 しかしそれでも、彼らは生き残った騎士団員とともにその遺体をなんとかかき集め、その性別、人数を分かる範囲で調べた…その結果、120という数字が出てきたものである。

 またこの戦闘で、ホテルの建物ががれきの山と化してしまったため、中で保管されていたはずの従業員に関する情報がこれまた焼失してしまった。しかしどう考えてもこの遺族への連絡は必要だろうと考えた団員たちはやむを得ず、役場から『ここの従業員』となっている者の戸籍情報を抜き出し、その家族へ連絡を差し向けることにした。

 次に彼らはこの事件の最大の謎にとりかかった。

『いつ、どうやって120名ものホテルの従業員が死に、アンデッド化したのか』。

『ただのアンデッドがどうやって、炎竜の吐息などという上級魔法を駆使するような謎の進化を遂げたのか』。

 彼らは地道に、証言をかき集めていった。


 その結果…。


 宿泊客に同行していた使用人、召使数名から重要な証言を取ることに成功した。それが、

『少なくとも事件の2時間前に従業員に会ったが、その時は、何ら変わった様子は無かった』というものであった。

 事件が起きたのは午前0時。

 ということは午後10時時点では、従業員はまだ生きていたということになる。

 グレゴリーも言っていたが、あの時騎士らに向かってきたアンデッドは全員、それは酷い拷問を受け殺された形跡があった。

 何かあれば、流石に気が付こうものである。

 また、『事件の数分前に男の叫び声が聞こえた』『その後すぐサイレンが鳴り、客室の扉に施錠魔法がかけられた。これは何かあったと思い、避難を決めた』というのもあった。

 その証言をしたのはいずれも、ホテルの下層階で…そして西側の部屋に泊っていた者たちであった。

 西側というと、その隣の建物はもう従業員の寮である。

(…どうやら非番や日勤を終えた従業員がまず寮で殺害され、その後何らかの要因でそれらが全員アンデッド化したか…?)

 そんな思考に至った様が、調書からは見て取れた。


 しかしその後…有力な情報は得られず、調べは暗礁に乗り上げたようである。


 また、ゾハスの騎士団の大麻横行の問題の処分に人員も時間も割かなければならなかったこともあり(この事件がキッカケで、近衛にその腐敗ぶりが全て露呈してしまった)…結局、この件は3年ほどで、打ち切られたようだ。






 また、一方でこの調書には『イツァーク・ザッカーリが何故犯人と言われるに至ったか』についても調べられていた。

 前にグレゴリー達が最初に目撃したアンデッドの男。

 あれは、支配人のエイブラハムであった。

 顔があのような状態であったとはいえ、元の人相はさすがに変わっていない。支配人のことを知っていた住民は皆、口をそろえていたというからおそらくそうなのだろう。

 そして、あれを見た付近の住民は、皆こう思ったのだという。


『イツァークがとうとう殺った…』


『あの炎竜の吐息も、実際はイツァークがやったに違いない…』


 どうも、イツァークが従業員やエイブラハムから酷いいじめを受けていた、というのは本当だったらしい。

 また理由が外見であった…彼は幼少のころ大病を患った影響で、頭髪が全く生えていない。また、肌が白く、まるでもやしのような、ひょろりとしたやせ型であった。そんな外見の男など、首都イブライムや宗主国シゲルダにでも行けばいくらでもいようものだが…これが、ゾハスの民には気味の悪いものに映ったらしい。ともかくそんなことのために、彼は言いがかりを付けられては職場で罵倒され、笑いものにされ、街でも後ろ指をさされたり子どもに石を投げられたりしていたようなのだ。

 たまったものではない。


 だから、あの事故を目撃した者は皆、恐怖したそうだ。


『イツァークが復讐にやってきた…』


『従業員全員を拷問した…』


『次は自分のところへやってくる、殺される…』


『あれは俺たちゾハスの者全員を恨んでる…』


 身に覚えのある者が相当な数、いたものらしい。

 さらに、まだあった。

 その、後ろ指をさしていた街の人間の中でも特にイツァークを汚いなどと罵り、ごみを投げつけたりしていたとある男が、事件の一週間後に死んでいるのが見つかったのだという。

 見つかったのは、ごみ溜めの中だった。口に、ウジ虫を大量に頬張った状態だったというから惨憺たるものである。

 こうなるともう、てきめんである。

 うわさはあっという間に広まり、尾ひれがついて、今現在まで伝わる話となったようだ。

 そういやレスターは思い出していた。

 この前、ホテルの空地(現在そこは広場になっていて、慰霊の石碑が建っている)のあたりを巡回していると、とある母親が子どもにこう言って、叱っていたのだ。


「あんたはまたそうやってあの子をいじめて!!そんなことをしていたらイツァークが夜中に心臓をもぎ取りにやってきますよ!!」


 教育と言うのは恐ろしいものである。子どもは一瞬にして青ざめ、大人しくなっていた。






 レスターはその調書から目を離すと、眉間に手をやっていた。

 結局あの少女のアンデッドが、あのホテルで働いていたトゥリス族の女性、サラ・イェールダーである…という証拠は出てこなかった。

 しかし、状況からしてその可能性は充分ある。

 現場に残された遺体の損傷は激しかった。どれがサラだったかなど、とても分かったものではなかった。

 それに、グレゴリーも言っていた。

「…ひょっとすると、あの時に取り逃がしたアンデッドが一体はいたやもしれません」

 現場はそれほどまでに、混乱を極めていたのだ。

 それにまだ、大きな謎が残っている。

 トゥリスの村に、『サラの遺体』とされる棺をかついでやってきた騎士達。あれは一体、何者だったのだ。

 認識阻害の魔法をかけてまで偽装しようなど、ただ事とは思えない。

 あの日のグレゴリーの言に嘘は無かった。

「私どもは、トゥリスの村に棺など持って行っておりません。そんな人的余裕など、あるわけがない」

 ごもっともである。


 レスターはここまできて、うすうすと…勘づき始めていた。

(おそらく、この一連の偽装工作をしたのは、生きた人間…)

 サラ・イェールダーがあの事件に巻き込まれ死んだ、遺体はこれですよ…という事にしなければ、自分の身に著しい不都合が生じる…そんな人間がやったのではないか。

 そんな人間、あのホテルにはわんさかいるではないか。

 サラは娼婦として雇われていた。トゥリス族の女性は愛玩奴隷としての価値が、貴族の間ではいまだ高い…そんな国もあると聞く。

(あの宿泊客の誰かだ…)

 そして、なぜそんなことをしたか…おのずと推察もできてくる。




 おそらくだが…

 

 いわゆる"事の最中"に、その客が誤ってサラを殺してしまった。


 あわてたホテル側は隠滅のため、サラの遺体をゾグレス川に遺棄した。

 そしてそれが対岸のマグログル山に流れ着き…レギデウスが見つけ、気まぐれにアンデッドに仕立て上げた。

 アンデッド化したサラはおそらく、しばらくの間は自我があったはずだ。自分を殺したその貴族を探しに…そして、自分をごみのように捨てたホテルの従業員が許せず、襲いにやってきて…結果あの事件が起きた…

(推測でしかない)

 証拠は無い。

 しかし、あの少女の姿をしたアンデッドは5、6年位前からゾハスの街を襲撃している。

 アンデッド、という魔獣は、数年の周期で眠りと覚醒を繰り返す。

 5年眠って、5年…そして現在覚醒期。説明はつく。





 翌朝。

 レスターは、アイザックとアヤコをゾハスに戻すことを決めた。


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