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第十三章 事件の真相へ(中)

すみません、めっちゃ遅くなりまして…!!!


ほんま応援ありがとうございます。


少々長いです。



 数日もすると、レスターの元に一斉に報告が上がってきた。

 トゥリスにいたアイザック達からは、『荼毘に付されていたサラ・イェールダーとされる遺骨は実際は長身の男性で、全くの別人のものと思われる』こと。

 また、『サラの事実上、夫となる予定であったジョシュ・イェールダーという男性から詳しい話が聞けた』とも、その文には記されていた。

 どうも向こうでも、タウンゼントホテルの名が出たようだ。それはそうだろう。

 そして、この応募の直前に両親が急死していること。

 また、タウンゼントホテルへの応募はサラが一人で…つまりサラ自身の意志で…行ったものであること。

 ジョシュは懸命に引き止めたがサラは一切それを聞き入れてくれず、口論となり…翌日にはサラの部屋はもぬけの殻になっていたこと。

 どうもサラは、雇われてからわづか一週間ほどで事件に巻き込まれたようだ。

 また、このイェールダー家というのが、トゥリスの村の中でも特殊な家柄であること、それゆえに村の中でも一目置かれていたようだ、ということも、その文には記されていた。

 この時まだ、トゥリスにいるアイザックも綾子も、そして勿論レスターも、あの『イェールダー家の惨劇』を知らない。

 そして騎士団内からも、次々に報告が上がってきた。

 まず、当時副団長だったロドニー・マクリーンはすでに死亡していた。なんでも、あのタウンゼントホテルの事件の一年後に、自宅の寝室で亡くなっていたらしい…外傷などもなく、事件性なしとして処理されたようだった。この当時ですでに60を超えていたというから、まあ寿命…というのは充分考えられる。いずれにしろ、死人に口なしだ。レスターは、こっち方面の調査はあきらめることにした。

 またあの事件の唯一の生き残りとされる例の護衛の男だが、これは冒険者ギルドに登録があった。しかし、この事件以降行方が分からなくなっている。






 行き詰ったかに思われたその調べに一筋の光が差したのは、その翌日のことだった。

 先だって、『10年前にあったタウンゼントホテルの事件について当時居た者、または現場近くに居た者を知っている…などあれば、話を聞きたい。』と団の内部に通知していた件で反応があったのだ。

 会うと、その者は今年入団したばかりの、年端もいかぬ見習いの少年であった。しかし……。

「実は父が、あの事件当夜現場におりまして、そこでけがを負い、それで団を辞めたと聞き及んでおります」

 と言うではないか。

 レスターは早速、会いに行くことにした。多忙は極めていたが、なんとか調整をしたものである。

 その父親…名をグレゴリーといった…は、どこか優しそうな顔だちをした中年の男性であった。

 しかしその右腕は…正確には右肩から先が…無い。

 聞くと、あの事件で犯人イツァークからの攻撃を受け、右腕を切り落とされたのだと言う。

「このような姿で…。普段はあの義手を付けているのですが、先ほどまで仕事でフル稼働させていたもので…。失礼しております。」

「いえ、かまいません。お疲れのところ、時間を作ってくださり礼を申します。」

 見事な魔道具ですね、と言ってレスターは頭を下げた。

「…アレンは良い上司を持ったようです。息子を宜しく頼みます。」

 グレゴリーは目尻を下げた。「それで…あの事件について知りたいとのことでしたが」

「ええ。実は…」

 レスターは彼のまなざしに信のおける男と判断して…これまでのあらましをざっと話した。

「なんと……。」

 グレゴリーは絶句している。「…この街の魔獣の襲撃に、あの事件が…」

「我々も正直、困惑しております。」

 と、その時である。

 グレゴリーの顔にみるみる冷や汗が噴き出してきているではないか。顔色も真っ青だ。

 ただごとではない。

 しかしレスターは表情を変えず、じっとグレゴリーを見ている。そしてゆっくりと、口を開いた。

「一言、申し上げておきましょう……私はこの街の騎士を預かる団長であります。詠唱なしで貴方に尋問をかけることなど、赤子の手をひねるようなものだ」

 そう。レスターは先ほど握手をした際、無詠唱でグレゴリーに尋問魔術をかけていたのだ。そうとは知らないグレゴリーはウソをついたために、術による攻撃をもろに食らってしまったというわけである。

「…お、恐れ入りました…」

 グレゴリーは観念したように、「全てを、お話ししましょう。」

 すると……。

 とたんに、グレゴリーを襲っていたバットで殴られたような頭痛が、たちどころに消え失せたものである。






 その一報が飛び込んできたのは、もうすぐ時計の針がてっぺんでぴたりと合う、そんな晩のことだった。

 バタン、とけたたましい音を立てて転がり込んできたのは、一人の大男であった。

「大変だ、タウンゼントホテルで男が刃物を…」

 見ると、その大男の腕から大量の血が出ている。

 ハッパでくつろいでいた団は上から下まで大騒ぎになった。

 あのホテルはまずい。

 あそこは毎晩のように要人が泊っている。何かあれば、即外交問題に発展して、国から睨まれ、しまいには自分たちの地位があやうくなってしまう。

 これであった。




 駆けつけると、すでに宿泊客の避難が始まっていた。

 このホテルは、隣接するレストランと、その隣にある茶葉を扱う商会の建物がホテルと提携しており、いざとなったらそこが避難先となっている。また客室には万が一に備え、転移用の魔法陣が壁に…掛けられた絵画の裏に…設置されている。

 彼らは慌てることなく、それを使って避難をしてきたようだった。

 しかしグレゴリーはすぐに、妙なことに気がついた。

(本来避難を誘導するはずの、従業員が一人も見当たらない…)

 動いているのは、この日たまたま近くを巡回していた騎士団員5名、そして避難先で働いていたらしき職員数名だけである。

 これはどう考えてもおかしい。

 グレゴリーはひとまず、その一人に話を聞くことにした。

「第三席のグレゴリー・ハンセンである。状況は」

「はっ。避難者はあと一組と思われます。」

 どうも、避難先のレストランにその日の宿泊者リストが届いていて、そこからの情報のようだ。

「犯人はどこにいるか、分かる者はいるか?」

「…?どういうことでしょうか」

 その若い団員は首をかしげている。

「三席殿。実はわたくしどもも、何故お客様がたが突然避難をされておいでになったのか、よく分かっておらぬのです」

 そう言ったのは避難先のレストランの店員である。

「寝静まっていたところに突然緊急のサイレンが建物内に響き渡ったため、あわてて避難してきたとおっしゃってまして…」

 なるほど、たしかに建物からは緊急を知らせるサイレンの音がずっと鳴り響いている。

 不気味であった。


 近くに住んでいた者たちが、何事かと様子を見に集まり始めていた。






「この時幸いだったのは、宿泊客が全員高位貴族で、そうなりますと当然使用人や召使、執事といった方が付いていたものですから避難自体に大きな混乱が無かったことです。」

 グレゴリーは言って、「もちろん、この件は後で外交問題になったそうで、国は損害を被ったようです。しかし…もしこの方々に一人でも死傷者が出ていたら、そんなものでは済まなかったでしょう。」






 宿泊客は、突然のサイレンの音に驚いて避難をしてきただけで、客室の外のことは全く知らない。

 しかしあの大男は、あのホテルで働いていた従業員が刃物を持って、暴れていると言っている。

 そしてさらに……。

 暴れている男の名はイツァーク・ザッカーリといって、いつも支配人や他の従業員からいじめを受けていたという。そして、その男は支配人に刃物を突きつけた上、支配人の護衛の男を一人、殺しているとのことだった。自分も切られたが、なんとか逃げてきたという。

「あいつはどこから手に入れたか知らねぇが、アーティファクトの指輪を身に着けてやがる。あれは魔力を人体が持ちうるギリギリまで上げて最後には暴走も起こすとんでもねぇやつだ。あいつはそれを使って、俺より屈強な奴をひとり、ひらりと手を振って一撃で殺りやがった…あれは化物だぜ旦那。」

 男は大きな体をがたがたと震わせていた。

「確認するが、お前がサイレンを鳴らしたわけじゃないんだな」

「あぁ、俺じゃねぇ。おおかた、エイブラハムだろうよ」






 最後の客の避難が終わった。

 団員や店員が総出で、人数や名前などを確認して回っている。

 やはり、ホテルの従業員が一人もいない。

 ということは、あの建物の中にいるということだ。

(イツァークというその男が、従業員を人質に立てこもっている…?)

 そうとしか考えられない。

 しかし、犯人からは何の要求も来ない。

 建物は煌々とあかりがともったまま、静まり返っている。

 不気味であった。

 と、その時である。

「いやあぁあああぁぁああ!!!!!」

 女性の叫び声。

 みるとその主は集まっていた野次馬の一人のようだ。

 しかし、それだけではなかった。

 その野次馬たちもどよめいて、次々に指さしている。「お、おいあれ…!」「うわぁ出たぁ!」「逃げろ!」俺たちもゾンビになっちまう!」

 そして彼らは皆恐怖におののき、一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 大混乱である。

 訳が分からず、グレゴリーは建物の方に目をやった。

 そして、確かに見た。

 先ほどまで無人だったエントランスに誰かが立っている。男だ。

 しかし様子がおかしい。

 そして…やがてそれが何かが見えてくると、流石のグレゴリーも思わず「ヒッ…!」と息を飲んだ。

 右目にはさみが刺さっている。

 左目は白目を剥いている。

 胸にも短剣が、ずぶりと突き刺さっている。

 服も、ぼろぼろだ。

 歩くたびにべちょ、べちょと音を立てている。流れる血を自分で踏んでいるのだ。

 しかし、その男はかくり、かくりとまるで操り人形のように動いている。

 ぷんと血のにおいと、何か腐ったような臭いがグレゴリーの鼻についた。

 すると……。

 その死体のような男が、両手を上にぶらりと掲げた。その指には黒い石がはめられた指輪が光っている。

 グレゴリーたちは今度こそ、目を疑った。

 ホテルの上空に突如、街を一つ飲み込むのではないかというような巨大な炎の固まりが、ごうごうとうなりを上げながらあらわれたのである。






「え、ちょっと待ってください。つまり…」

 レスターは頭が混乱していた。

「ええ。あの事件はイツァークによる立てこもり事件などではありません。」

 グレゴリーは言って、「アンデッドの掃討案件です。私たちは数十人という戦力で、謎の進化を遂げた120体ものアンデッドと…そのアンデッドが召喚した上級魔法、『炎竜の吐息』と、戦闘に入らなければならなくなったのです。」






 これは死闘になった。

 まだ騎士団の連中が薬に侵されておらずまともであれば、まだ良かったやも知れぬ。

 また、冒険者ギルドがあそこまで腐敗しておらず、また連携も取れていれば、戦況は圧倒的有利に進んだだろう。

 しかし現実は違った。

 冒険者ギルドは一切、動いてくれなかった。それもそのはず…ゾハスの西、街道の外れた所で別の討伐案件があり、上級の冒険者はほぼほぼ出払ってしまっていたのだ。彼らは傍観し、見ないふりを決め込むしかなかったのである。

 よってこの夜、まともな戦力となったのは…副団長、ロドニー・マクリーンを筆頭とする20数名しかいなかった。

 しかも相手が、『S級並みの上級魔法を召喚してくるアンデッド(この時点で意味が分からない)』だっただけでなく、『ひょっとして瀕死の状態で生きて、助けを求めている人間かもしれない』というそれが、さらに事態を悪化させた。

 こちらは出くわすたびに、それがどちらなのか…正確には熱感知や索敵の魔術を駆使してその相手の生死を…確かめねばならぬ。

 総じて、ワンテンポ初動がどうしても遅れる。

 戦闘時においてそれは致命的とも言えた。






 夜が明けた。

 大地震かとまがうような地響きがして、建物が一気にガラガラと崩れ落ち、がれきの山と化した。

 グレゴリーの放ったなけなしの一閃が、青白い炎を纏って最後の一体を屠った。

 建物全体にかかっていた結界の外にいた市民から、一斉にどっと大きな歓声が上がった。

 しかし、その時であった。



 ドスッ。



 首のない一体のアンデッドが、グレゴリーの二の腕にナイフを突き込んでいた。

(しまった!)

 まずい。このままでは自分がアンデッド化してしまう。さっきどうにか倒したのも、実は変わり果てた団長だったのだ…

 誰かが駆け寄ってくる。悲鳴と怒号が遠くに聞こえた。

 それが、グレゴリーが見た最後の光景であった。




 そして翌日目を覚ますと……。


 ひじの上から先が、すぱりと失われていたのである。




「回復術師からは、奇跡の回復力だと言われました。」

 全くの同感である。流石に三席の実力は伊達では無かったのだろう。

「それで、ここから後は同僚から聞いた話でしか無いのですが…」

 グレゴリーは言って、「あの夜詰所に駆け込んできた男。混乱にまぎれて行方が分からなくなっていたのですが…。ひょっとしてあれもアンデッドだったのではないかという噂が立ちました…あの事件の二日くらい後に、ゾハスから数里離れた街道で、冒険者の男がそれらしきアンデッドに出くわしたが、逃げられたのだとか。しかしこれの真偽は定かではありません。」

 なるほど。この件はドウェインに確かめてみても良さそうだ。

「ともあれ…あとはお察しの通りです。」

 グレゴリーは言って、「あのロドニー副長が作った調書はでたらめです。本物は、団内にある隠し扉の中にある。お探しになってみると良い。もし捨てられていなければ、あるはずです。」

 そう言うと、グレゴリーは書架に隠された扉の場所と、開け方を教えてくれた。

「ありがとうございます…!」

 レスターはこの隠し扉の存在を知らなかった。前任も知らなかったものと思われる。







 こうして、レスターの手元に『本物』の調書がやってきた。

 そこに驚愕の真実が書き連ねてあったことは、言うまでもないことである。

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