幕間 綾子、玉砕する。
…ようやく恋愛要素が出てくるっていう。
その夜……。
ゾハスの南地区…ここは日中も場外市場や商店が軒を連ね、活気のある地区だ…そこの酒場に綾子の姿を見ることができる。
「…おい、もう帰るぞ。」
サイラスが呆れて綾子の背中を揺すった。
見ると、綾子は机に突っ伏してしまっている。完全に酔いつぶれているようだ。
「…こいつ、こんなに弱かったか?」
言ったのはアイザックだ。こっちはまだまだ余裕綽々である。
「病み上がり…っていうのもあるんでしょうけどね。あと、あの場で『人殺し』の一言が吐き出せて楽になった、ってのもあるんじゃないかしら」
ナタリーが背中をさすっている。
「…違うんですううぅうぅ!」
と、その時突然がばりと起き上がり綾子がナタリーの胸に抱きついた。どさくさに紛れておっぱいを揉んでいる、完全に酔っ払いだ。というか、男性陣には全くもって目の毒である。
「どうしたどうした。お姉さんに全部吐いてごらんなさい。」
「…フラれたんですぅ!!!!」
「「「「…は?」」」」
酒場の一席に爆弾が投下された、その瞬間であった。
聞くと、こういうことらしい。
ドウェイン達が知らぬ間にどうも綾子、騎士のジョセフ・ガーランドに首ったけというか、両目がハートマーク状態になってしまっていたようなのだ。
何せ彼は優しいらしい。一緒に歩いているとエスコートしてくれるし、誘われて二人きりで食事を楽しんだこともある。
そりゃあ勘違いもするというものだ。
(そんなの俺もやってたっつうの。)
サイラスがとなりで憮然としている。その様をナタリーが哀れなものを見たような顔をして見ている。
…で、綾子は思い切って先日告白した。そして見事に玉砕したというのだ。
「…そうか、お前知らなかったんだな。」
ドウェインはため息とともに、「…あいつ、恋愛対象男だっての。」
「…え。そうなんですか」
ナタリーもびっくりしている。
「しかもたしか、パートナーが居たはずだぞ。あんまおおっぴらにしてねぇけど。」
「っていうかアヤコちゃん、ああいう可愛いタイプが好みだったなんて…意外。」
「…ジョセフさん優しいんですもん…。冒険者の仲間の人と違って荒っぽくないし、汗臭くないし、紳士だし…。中身を見たんですよぉ。っていうか食事に誘うとか脈ありだと思うじゃないですか!」
綾子はとうとうぐずり出した。
「確かに…。」
ナタリーもしたり顔で頷いている。
「悪かったなぁ俺たちが汗臭くて。俺大丈夫かな。」
アイザックが冗談混じりに言いつつ、「まぁそういうことならしょうがねぇぜアヤコ。次だ次。誰か紹介してやろうか?」
「おい、俺のチェックは通してもらうぞ。」
ドウェインが訳の分からない父親面を始める。
「へいへい。」
アイザックは聞き流した。
「優しくって可愛らしくて目元に泣きぼくろがある人でお願いします。」
綾子は手を挙げて宣言するようにして言う。そしてまた机に突っ伏した…。寝ている。
(うん、それはジョセフだね。)
全員心の中でツッコんだが、声には出さない。
翌日。
目覚めた綾子は飲み過ぎでガンガンと痛む頭を抱えて、なんとか起きた。
見事な二日酔いである。
そして驚くことに、ちゃんと自分のベッドで寝ていた。
見事な帰巣本能である。…と思ったら、違った。
見ると、書き物用のテーブルの上に陶器製の水差しとコップが置かれていて、その隣にメモが添えられていたものである。
『トゥリス行きは明日にする。二日酔いは治しておくように!アイザック』
みんなやさしい。綾子は泣き笑いになった。




