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第七章 イタチの最後っ屁って、言うよねー。

綾子さん、リハビリ中につき出てきません。




 さて……。

 綾子が大けがを負い意識を失っている間、レスター達をはじめとする騎士団の者たちは調査に駆けずり回っていた。

 そして、さらに知らせを聞きつけた首都イブライムの魔法研究所の人間が翌日にはゾハスへ到着、綾子が倒したキマイラの肉や、綾子自身の瘴気で汚染された血液を採取し、調べ始めた。


 これで、あの少女の種族が分かる。


 騎士団長のレスターは早速、アイザックから事情を聞くことにした。彼からは色々と聞かねばならない事がある。


「じゃあまず、何で俺があんなもの(イタチの体液)を持ってたか、だが…」

 アイザックは語り始めた。





 獣人。


 言わずと知れた、動物と人間、双方の特徴を併せ持った種族である。

 その身体能力は人間のそれをはるかに上回る。

 しかしその歴史は、過酷なものであった。




 この世界は、主に大きな大陸が4つある。

 綾子達が今いる大陸は北西大陸といって、一番小さい。とはいえ、ちょうどオーストラリアがすっぽり入るくらいのものなので充分に広大だ。

 その大陸の南には、もう見当がついた方もおられると思うが南西大陸、というのが鎮座しており、それはもう大きい。北西大陸が丸々10は入る。この世界の中でも一番、それは大きかった。


 そこに、とある魔法使いが住んでいた。

 その力はとてつもなかったという。彼女がまばたき一つするだけで天災は起き、機嫌を損ねれば使役しているドラゴンが火を噴き、辺りは火の海と化してしまう。

 その国の者はおびえた。平民はそうでもなかったが、その国の貴族や君主はそれはもう必死に取り入り、彼女の機嫌を損なわせないよう細心の注意を払っていた。

 やがて彼女は持ち前の好奇心が高じ、とうとう虎と人間をかけあわせた種族を実験で創ってしまった。

 これが、獣人のはじまりである。

 しかし、生まれた方はたまったものではなかった。

 その容姿や身体能力の高さは、ただの人間からしたら嫉妬や脅威にほかならない。

 すでに高齢だったその魔法使いが亡くなると、その国は途端に手のひらを返し、獣人たちを貶め、迫害した。

 何百種、何千人と居た獣人はその酷すぎる迫害により多くは奴隷にされ、一気に数を減らし、そして人を恨んだ。

 しかしその一部には、あの魔法使いにやさしくのびのびと育てられ、全ての人間がそうではないと諭した者がいた。そしてその者はこう言った。


「この大陸の北、灼熱の海を越えた先に精霊の守る陸地があるという。お前たち。もうこの地に希望は無い。」


 こうして、その一部の獣人たちは迫害を逃れ、危ない海を渡り、この北西大陸へとやってきた。


 今から、千年近く前の話である。




「まあ、知っての通り俺もカミさんも獣人で、俺はシゲルダの出なんだがあいつはラドキアの出なんだ。」

 ラドキア、とはシゲルダ(ゼルグ公国の宗主国)の南にある、隣国である。その南側はもう海で、その向こうが例の獣人が逃げ出してきた南西大陸なので、ラドキアは獣人の国、とも謳われる。

「あそこは昔、バジリスクの被害が酷くてな…。」

 バリジスク。全身毒だらけの蛇の魔獣だ。ニワトリの頭も持っているが、実は本体は蛇である。

「流石に南国だな…そういえば砂漠もあるとか」

 レスターも知っていたらしい。

「今はもう数も落ち着いてるんだが、かつては酷いもんだった。それで、カミさんの住んでる村ではイタチを飼って、その体液を小瓶に入れて、厳重に蝋で蓋をして持ち歩くという風習が出来上がった、ってワケさ。」

 イタチはバジリスクの唯一の天敵と言われている。特にその強烈な臭気が唯一、バジリスクを死に至らしめることが出来ると言われていた。

 どうも、それは本当らしい。

「…で、結婚したら俺も魔除けに、ってな。持たされるようになったんだ。」

「…見せてもらっても?」

「おう。…見事な封蝋だろう?このくらいやらないと俺たち獣人は耐えられんからな。」

 レスターは、その小瓶をしげしげと見た。

 かなりしっかりした作りのようだ。そして中身は本当に少量だった。ティースプーン一杯分くらいしか入っていない。


「…お前。どうしてこれをあの少女にかけようって思ったんだ」


 レスターはいよいよ、核心へと迫っていった。




「そりゃあ、うるさかったからさ。」

 アイザックは、あっけらかんと答えた。しかし答になっていない。

「どういう意味だ?」

「あの時……。」


 あの時。アイザックはとっさに、不器用ながらもなんとか結界の術を張り、あの少女の髪の毛攻撃を防いだ。

 しかし、あの髪の毛はそれはしつこかった。まるで別の生き物のように、アイザックの張った結界の周りを張り付いて、ウジ虫のようににゅるにゅると気持ち悪く動くのがアイザックの目にも見えたという。

「くどいようだが俺は熊だからな。視力は悪い。その代わり、鼻と耳はきく。だからな…あの髪の毛の一本一本が喋ってるのが聞こえたんだよ。それはキーキーギャアギャアうるさかったんだ」

 しかもよく見ると、その髪の毛の先にはギザギザした歯をした口がついていて、それは気持ち悪かったのだとアイザックは言う。

「…で、そいつは何て言ってたんだ」

「『ケモノのにおいがするぞ』『狙え』『潜り込め』『ケモノの身体はあるじのもの』『殺しあえ』『こっちにクマが居るぞ』『あっちは狼だぞ』…そんなんだったと思う」

 アイザックは記憶をたどろうとするようにこめかみを揉みながら、「…それで、あれは獣人おれたちの臭いをたどって、狙ってると踏んだんだ。」

「なるほど…」

 レスターは思案した。





 こうして、二人がこのやり取りをした数日後…。


『アヤコが意識を取り戻した』という吉報が二人の元へ届くこととなる。

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