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第一章 根暗大学院生岩田綾子の一生

勢いで書いてみました。

異世界ファンタジーを書くのは初めてです。頑張ってはみましたが…多分ふんわり設定になってるかと思います。心の許せる方は…。

 体が動かない。

 息ができない。

 さっき吐いた、なんて臭いだ。

 扉という扉、窓も全部ガムテープで目張りがされている。そして台所のガス管が破けて、しゅうしゅうと音を立てている。漏れている。

 なのに報知器は全く鳴ってくれない。何者かによって壊されてしまっているのだ。

 綾子は、恐怖と戦っていた。

 このままでは死ぬ。殺される。自殺に見せかけて。

 苦しい。

 動け。

 動け。

 なぜだ。

 気を失う少し前に冷蔵庫の麦茶を飲んだ。

 あの麦茶に何か入っていたのか。

 なぜ飲んだ。

 綾子は滅茶苦茶に飛び回る思考と身体を必死に叱咤し、何とか動くようになった汚物まみれの腕で這いずった。ガスコンロへと向かって。

 まずはアレを止めてからだ。それからあの目張りの扉をなんとかこじ開けるのだ。


 しかし、そこまでだった。


 意識がかすむ。テレビの砂嵐のように。



「くそっ…こんな…」




 これが、大学院生岩田綾子の、最期であった。




 汚泥の中にいた意識が浮上すると、そこは一面真っ白な世界だった。

 しかし寒くはない。あんなに苦しかった身体は、もうなんともなかった。

(死んだのかな…)

 綾子の身体は、床に寝かされていた。その床はふかふかで、まるでベッドに居るようだった。

 そして上空からはふわり、ふわりと、たんぽぽの綿毛のようなものが浮きながら、どうやらゆっくりと綾子の元へと降りてきているらしい。

 綾子はぼんやりと、それらを目で追っていた。もう痛みや苦しみは無かったが、身体は鉛のように重く、動けなかったのだ。

 シャラシャラカラカラ…と、まるで貝殻が流れるような音が、その綿毛からしている。

 猛烈な眠気が襲ってきた。

 その音がまるで子守唄のようになり、綾子は再び眠りの世界へと旅立っていった……。




『――!』『―』

 声がして、今度こそはっきりと覚醒した綾子はガバリ!と飛び起きた。

 見慣れぬ部屋である。さきほどぶっ倒れた、自分の一人暮らしのアパートではないことは一目瞭然だった。

 その部屋はまるでログハウスのようだった。壁も梁からも、見事な太い丸太が見て取れる。広さは10畳ほどだろうか…そしてその一角には暖炉があって、パチパチ…と薪が燃えている。

 そしてその窓から見える景色に、綾子は目を疑った。

 雪だ。それも、酷い吹雪だった。

 おかしい。数日意識が無かったとしても今は6月のはず。なんで真冬なのだ…?

(そんな長い間、私は意識を失ってたのかな…)

 ありえないことではない。

 あの時綾子はたしかに、何者かにプロパンガスの管を破かれ、扉も窓もガムテープで目張りをされ(どちらも綾子のやっていないことである)、自殺に見せかけて殺されそうになったのだ。発見のタイミングによっては半年くらい植物状態になっていたとしてもおかしくはない。

 しかし、一体ここはどこだ。

 まず、どう見てもここは病院ではない。一般に病室というのは白が基調…のはずだ。こんな、使い古されたあたたかみのある木目の部屋であるはずが無い。それに、血圧や脈拍の測定をするような機器も全く見当たらなかった…点滴などもされていない。

 …ということは、少なくともここは病院ではないということになる。

 では一体ここはどこだ。

 考えろ。

 自分はあの時、何者かに殺されそうになったのだ。

 拉致されたのか?

 いや、犯人だったらそんなまどろっこしいことはしないはずだ。

 じゃあ一体だれが?

 綾子の頭は目まぐるしく働いた。

 しかし…すぐにその思考を切り替えた。

(分からないことをぐるぐる考えてもしょうがない。まずは…)

 現状を見ることだ。

 綾子はベッドから起き上がった状態のまま、きょろりとあたりを見回した。

 だれもいない。暖炉からパチパチ…という音とともに暖気がやってくるのみだ。

 では…と、綾子は次にベッドから降りて窓の外を見てみることにした。身体にはなにも拘束されているものはない…しかし、次の瞬間。

「――!!!」

 綾子は声にならない悲鳴を上げた。

 なんてことだ。右足に酷い怪我をしているではないか。足首の包帯も痛々しく……これではとても、体重を載せられそうにない。

 どうにもならない。綾子は激痛のあまり出てきた涙と冷や汗を拭くと、しぶしぶベッドへと這い上がろうとした…その時だった。

 扉がばたりと開いた。




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