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王都へ

 

 町に馬車が届いたのは、翌朝だった。

 四頭立ての箱型で。様々に彫刻の施された豪奢なものだ。イスバル関の貴賓用馬車の比ではない。

 二人の御者まで、用意されている。

 フレアとマデリ、セリもただそれを眺めることしか出来ないようだ。


「これは、公領主館の貴賓用馬車ですね。これをお借りしてもよろしいのですか」

「これは、バルクス公から申し出になりました。ぜひ使って下さいとね」


 アメリアは答えると、扉を開いた。

 普通の馬車よりも広く、馬車の内側に沿って湾曲した座席が配置されている。なるほど、これならば六人が同じ馬車に乗ることが出来る。

 バルクス公が申し出たというが、アメリアたちが一言添えたのだろう。

 これもバルク公の好意なのだ。


「真獣ならば、自分で王都に帰られますね」


 僕の言葉に、ガイアスが笑う。


「さすがに、先師。こっちの考えもお見通しだ」

「時間が惜しいです。早速、講義をしましょうか」


 僕は馬車に乗り込んだ。

 僕を中心に左にフレア、右にセリ、正面側にはガイアスとアメリア、そしてマデリが並ぶ。

 ガイアスもアメリアも平民と並ぶが、そこに公貴の傲慢さはなかった。ただ、ルクスの強さからくる威圧感に、マデリとセリが緊張している。


 見送りに出た住民に手を振り、

「では、アメリアさんとガイアスさんの為に、統制から始めます。統制とは税制、法律など臣民を護るものになります。フレイドさんたちには以前、お話をしましたが三公七民が共通儀典に記された基本の税率になります。覚えていますね」

僕は書き留めておいた本を出した。


 ボルク先師から学んだものをまとめた本だ。


「このラルク王国を見てみましょう。アメリアさん、この国の基本税制はご存じですか」

「三公七民ではないのですか。それが基本なのでしょう」

「先ほども言ったようにそれはあくまでも基本税制です。全ての国が、同じ税率を導入しているわけではありません。それぞれの解釈は異なるのです。それでは、この国の税率を知っている人はいますか」

「四公六民だ」


 ガイアスが苦しそうに言う。


「そうです。この国の税率は四公六民です。では、先ほどいたリウザスの町の税率はご存じですか」

「いえ、それは知りません。違うのですか」

「アメリアさん、まずは基本をお教えしましょう。先ほどの税率は国の税率です。それでは、守護領地の運営が出来ません」

「俺の家の王都にある領地は、税率は三割だ」


 ガイアスが言う。

 ガイアスはそれを知って、両親とも言い争いをしたのだろう。よく領地を、民を見ている証拠だ。


「そうですか、それでは税率は七公三民になります。リウザスの町、中北守護領地の税率は一割です。それでも五公五民になります」

「先師様、税は二箇所から取られるのですか」

「そうですよ、マデリさん。ただ、先師というのは敬称になります。その敬称に様をという敬称を重ねてはいけません。講義中、僕のことは先師とだけ呼んで下さい」

「分かりました。先師」

「では、先師。どうしてそこまで国は税が必要なんですか」


 セリが身体を乗り出す。


「その前に、本来の三公七民の税率を知っておきましょう。これの内訳は王宮には四割、守護領地に六割です。例えば、一シリングの畑から取れる小麦の標準価格は一シリング金貨になります。そして、三公七民の場合は、そこでの税は三十リプルとなります。十リプルと二ルピアは王宮に、十リプルと八ルピアは公領主に収められます。その税収で、十分に国はやっていけるのです」

「三公七民というのは、守護領地も含めてだったのですか」


 アメリアが驚いたように口にした。

 そう、上級学院でも統率を詳しくは教えない。税に関することはその知識も含めて、王宮官吏の特権なのだ。


「先ほどのセリくんの質問に戻りますが、本来一割二分の税収が四割を取る。残念ながら、その税がどこに消えたのかは分かりません」

「それでは、領民の生活は」

「生活が出来ないために、生きるために罪を犯すのです。それがルクスの穢れとなり、治安の悪さとなります」

「先師。先師は統制を臣民を護るためと言いましたが、それでは苦しめるためじゃないの」


 怒ったようにフレアが呟く。


「本来、税は暮らしやすい国造りに使われ、法は安全を護るために施行されるものです。しかし、今はその根幹をはき違えてしまっているようです」

「それも、以前に先師が言われた水は高い所からなのですか」

「はい。大本を浄化しなければ、汚れた水が流れて来るだけです。守護領地で浄化できる量は限られています」


 僕の言葉に、印綬の二人が黙り込む。

 考えていることは理解出来る。言われたことへの対策だ。

 しかし、彼らにその答えは導きだせない。答えを出すということは、行動を伴うのだから。

 彼らにそれは出来ないし、させられない。


「税を、税率を王が決めればいいのでは」


 ガイアスが顔を上げた。


「先王は、それをしなかったのでしょうか。先々王は手を付けなかったのでしょうか」

「いえ、その時は分からなかったけれど、税については何度も布告を出していたわ」

「人は時を重ねて生きています。人は経験を積んで生きていきます。それを、歴史といいます。歴史を見、答えを探さなければいけません」

「やはり、答えは一つですね」


 アメリアが目を向けて来た。

 そんな目をしてはだめです。覚悟はもう見ました。


「それは、まだ口にしてはなりません」

「どういうことですか」

「一度口にしたことは。創聖皇との約束になります。特にお二方印綬の継承者は、安易に約束をしてはなりません」


 僕は息を付くと、皆を見渡した。


「僕は、お二人に最善を尽くすと約束しました。マデリさん、セリくんに学びを与えると約束しました。フレイドさんに導くと約束しました。言葉に出した以上、これは皆さんへの約束であると同時に、創聖皇への約束になります」

「あの、口にしたことは創聖皇への約束にもなるのですか」


 ガイアスが言葉を潜める。


「はい。そして、その約束は立場によってより強固なものになります。その最たるものが王です。王が口にしたことは、創聖皇との強固な約束になり、約束を反故した時の罰はより過酷になります。それに次ぐのは印綬の継承者です」

「それが、警鐘雲なのですね」

「それは事象です。約束を破れば最後には廃位という罰になり、印綬の継承者たちも連座になります」

「では、どうすればいいのでしょうか。私には自分の足元が見えません」

「見えないのは、明かりがないからです。僕はその明かりを作るために、講義をしています。現状の税率が分かったところで、その根拠となることを学んでいきましょう」

「根拠というのは、何」

「フレイドさん、それが法になります。民を護るはずの法律です」


 フレアも振り落とされずに理解出来ているようだ。


「法律ですか。それはこの国にもあります」


 アメリアが反射するように口にした。


「エリスナ王国は百三十年の治世を誇るとお話ししました。あの国が最も力を入れたのは、法の整備です。法はエリスナに学べと昔から言われています」

「法は同じではないのか」


 ガイアスも驚いたようだ。


「元は同じです。ですが、国ごとにそれぞれの解釈を変えました。その最たるものが、王宮官吏の治外法権です。治外法権というのは、法が適用されないということです」


 法についての話は、少し難しすぎたようだ。

 みるみる集中力が途切れていくのが分る。特にフレア。

 僕は、フレアには期待をしているのだが。


 しばらく話したところで、僕は諦めた。これ以上は、脱落者が増えるだけだ。法については、教え方を一から考え直さないといけない。

 ちょうど休憩に馬車が止まるところだ。


「法についてはここまでにしましょう。次の講義は午後からにします」


 僕の言葉に、全員から重い息が漏れた。



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