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服選び

 

「なんでゲートが閉まってんだよ。それが、窮地を救った俺様への態度か」


 響いてきた声に、マデリは震えた。

 相手は怒っているのだ。ゲート挟んでいても、強い威圧を感じる。賢者様以上の怖さだ。


 しかし、すぐに、

「何を言っているの、ガイア。これほどのことがあっても、秩序を保って礼を見せているのよ」

柔らかな女性の声が響き、続ける。


「私は、仁の印綬の継承者のアメリア・バルドウ。この町にバルクス公領主が来訪していると聞き、訪問させて貰った。まだ、時間には早いけれど、このゲートを開けて頂きたい」

「俺様は信の印綬の継承者、ガイアス・サリコ。同じだ」


 その言葉に、ゲートが左右に押し開かれた。

 うちも足を止め、町の人たちの間から目を向ける。

 入って来たのは、うちよりも一回りくらい年上の髪の長い女の人とセリくんよりも年上の男の人だ。

 バルクス公領主様が、その二人の前に片膝を付く。


「これは、さすが名高いバルクス殿。あれだけの混乱の中、秩序を乱さずによく守り切ったものです」

「こちらこそ礼を言わなければなりません。継承者のお二方のおかげで、賊を撃退することが叶いました」


 それは、賢者様のおかげだ。うちは賢者様の強さをこの目で見た。例え、印綬の継承者様が来なくても、町は護られていたと断言できる。

 あの人たちよりも、賢者様は凄い人だ。


 その場を離れ、広場へ向かった。

 広場の端、大きな木の陰に四人の住民と賢者様たちが腰を下ろしている。


「よう、マデリちゃん。よく頑張っていたな」


 手を上げたのは、二軒隣のおじさんだ。皆が包帯をしているが、元気そうだ。


「おじさんこそ、ケガをしたの」

「なあに、名誉の負傷だ。それに、賢者様に治療してもらったからな。孫にも自慢できるぞ」


 そうだ。賢者様が直接診てくれているのだ。


「皆さん、もう大丈夫です。今日はゆっくり休んでください」


 賢者様が木に背を預ける。

 その右にはフレイドさん、左にはセリくんが腰を下ろす。うちが座る場所は。


「賢者様。印綬の継承様が二人、来られました」


 賢者様の前に座った。


「そうですか、後のことはバルクス公領主様に任せています。僕たちは行きましょうか」

「行く、どちらにですか」

「マデリさん、あなたの服を選びにですよ。今日のあなたは頑張りました、そのご褒美を買いに行きましょう」

「いえ、そんな」

「遠慮するものではありません。働きには報酬が発生します。貰い過ぎる報酬はマデリさんの心を曇らせ、出し惜しみする報酬は僕の心を曇らせます。マデリさんはそれだけの働きをしたのです」

「でも、働いたの町の人たちも同じです」

「彼らの働きに報酬を考えるのは、長老の仕事であり、バルクス公領主様の仕事です。ですが、ルクスの安定をしていないマデリさんを戦場で使ったのは僕ですよ」


 言いながら賢者様が立ち上がり、フレイドさんとセリくんが続く。

 こうしていると、うちも賢者様の修士のようで誇らしい。

 でも、ここで一番働いたのは賢者様だ。賢者様の報酬は誰が払うのだろうか。


「マデリちゃん、服を選ぶわよ」


 フレイドさんがうちの手を持った。

 町の人たちが広場に集まりだしている。ここで、労うための食事が振舞われるのだ。

 皆が明るい顔で、それぞれの武勲を誇らしそうに話している。


「それで。先師。ルクスを隠していたというのはどういうことなの」


 フレイドさんが賢者様に顔を近づけた。

 何だろう、この胸のモヤモヤは。


「僕のルクスは生まれつきのものではありません。以前話しましたが。第一門の先には、第三門まであります。僕は第三門、ルクスの根源まで下りました。このルクスはその時に僕に入って来たものです」


 淡々と話しながら、賢者様が足を進められる。


「その第三門での痛みの時に、ルクスを抑える方法を知りました」

「痛いの、第三門と言うところは」

「第三門はルクスの河に繋がっています。純粋なルクスは、魂の穢れを焼きます。その痛みを和らげたい一心でルクスを循環させることを覚えました」

「そこに行けば、ルクスが手に入るのですか」


 うちも強いルクスが欲しい。フレイドさんまではいかなくても、セリくんくらいのルクスが欲しい。ルクスの強さが、賢者様との距離に思える。


「止めておいた方がいいです。皆さんはそれをしなくてもいい可能性があるのですから、第一、マデリさんはまだルクスが安定もしていないのです」

「そうですが」

「そうだぞ、マデリ。おいらも十七まではルクスは弱かったんだ。十七の誕生日を境に、ルクスが増したのを覚えている」

「十七歳でルクスが増したの」

「そうだよ。だから、マデリも心配しなくていい」

「それよりも、お店に着いたわよ」


 フレイドさんに手を引っ張られた。

 何度も前を取ったことのある、町唯一の商店だ。服も物も近所の人から古いものを分けて貰っていたから、店の中に入るのは初めてだ。


「ぼくは、以前にここに来たことがあるから案内する」


 そのまま店の中に入った。

 奥には新しい服が幾つもかけられている。でも、うちは泥だらけの野良着のままだ。恥ずかしさに足が震える。


「マデリちゃんは、可愛いのがいいわ」


 フレイドさんは一人で言いながら、どんどん奥に進んでいく。


「あの、そんな着飾ることはないから……」

「普段でも着られるものよ」

「でも」


 うちの言葉に重なるように、

「賢者様、どうされたのですか」

野太い声が奥から響いた。


 店主のボルドスさんだ。外で会った時は思わなかったが、背景が店になると気押されてしまう。


「マデリさんの服を選びに来ました」

「そうですか。あれはありがとうございます。ですが、バルクス公領主様がお探しです。うちの若い者も、賢者様を探させに行かせたところです」


 公領主様が、賢者様をお探しになっている。功労者なのだから、当然だ。服選びは今度でいいと思うと安心する。

 こんな高級なところ、緊張するだけだ。うちは誰かのお古でいい。


「先師、ぼくがマデリちゃんの服を選ぶ。先師たちは行っていていいわ」


 うちの心を知らないフレイドさんは、引っ張りながら奥に足を進めていった。


「そうですね。ではフレイドさんに任せましょう」


 賢者様までもそのまま背を向ける。


「皆さん。食事の用意も広場に出来ますから、集まってくださいね」


 ボルドスさん声が、なぜか遠くに聞こえた。


読んで頂きありがとうございます。

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