救援
急いで書きました。
書けるうちに書いて、投稿していきます。
唸り声を上げて迫る重装衛士に、僕はルクスを開放した。湧き上がるルクスにローブの裾が風に煽られたように広がり、そのまま腰の杖を手にする。
不意に現れたルクスの威圧感に、重装衛士の足が鈍った。
僕はそのまま、足を進める。
抜いた杖が風を切り、無造作に重装衛士を撃った。一撃で相手のルクスを貫き、甲冑を砕くとそのまま堀に落とす。
堀に落とされた衛士は武器を捨て、甲冑を脱がなければ堀の底に沈んでしまう。その為に、ルクスを撃ち込むことはしなかった。
狭い橋だ。次々と衛士は堀に落ち、一斉に彼らは下がる。攻城槌といっても丸太だ。支えを失ったそれを蹴って堀に落とすと、僕はゆっくりとゲートの前に戻った。
「先師、雰囲気が違う。急に怖くなったし、その強さは」
フレアが距離を取るように下がった。仕方がないことだ。本当のルクスをずっと隠してきたのだから。
「賢者様、やはりルクスを抑えていたのですね」
逆に、セリは威圧感に押されながらも歩み寄る。
「ルクスを抑える。どういうことなの」
「僕はルクスを循環させることで、放出させずに抑えることが出来ます。ルクスの強さは威圧感となって伝わりますから、教えるには邪魔になるのです」
「では、先師のルクスは最初からそれだけ強いの」
「これは、生まれつきのルクスではありません。借り物ですよ。それよりも、まずはここを護りますよ」
「分かったわ。でも、あとで教えてね」
フレアも剣を抜いた。
狭い橋に重装衛士が密集隊形を取ると、盾で身を隠す。林立する槍が倒された。
そのままゆっくりと進みだす。
数の圧力で、押し切ろうというのだろう。
彼らのルクスを見た。鈍く輝くもの、靄に汚れたもの様々だが、一様に赤い瞬きが走っている。
そう、エルグの民は、妖気にルクスが補強されている。そして、その妖気はルクスに変容し、自らのルクスを底上げする。彼らの可能性だ。
それを、その可能性をこんな所で潰してしまう彼らに腹が立つ。
「フレイドさん、セリくん。軽装の衛士が突っ込んできます。集中して下さい」
そう言うなり、僕は彼らに突っ込んだ。
ルクスを貫き、相手の力を利用しながら左右に薙いでいく。
その頭上を黒い影が跳んだ。軽装衛士だ。
身体を回転させながらそれらを撃ち落とし、重装衛士を薙ぐ。
たちまち橋の中央に押し戻すと、僕は再びゲートの前に戻った。
橋の袂には、フレアとセリに切り伏せられた衛士が倒れている。二人のルクスはまだ削られてはいない。妖気の瞬きもかすかだ。
やはり、見込んだだけのことはある。
「くれぐれも、この町の人を護ることだけを考えて下さい。相手を殺すとかは考えては駄目です」
「分かっているわ」
荒い息を付いて、フレアが答える。
ルクスは持つが、体力は削られている。剣の練習を始めて数日だ。筋がいいとはいえ、基礎体力がまだなのだ。
セリの方は、まだ体力も残っている。
「セリくん、広い視野で戦って下さい」
「分かりました」
その一言で、フレアの補助も頼まれたことにセリは気が付いている。頼もしいものだ。
橋に向き直ると、重装衛士が一列になり始める。その横を通ってくるのは五人。
そういうことか。
狭い場所での不利を悟ったのだろう。特にルクスの強い五人が少数精鋭でこちらの排除に来たのだ。
ルクスは強いが赤黒い汚れが刻まれ、紅い妖気が稲妻のように走っている。
しかし、それでも僕の相手ではない。
「フレイドさんとセリくんは下がって下さい。少し面倒な相手ですので、僕が排除します」
彼らに向けて足を進めた。
五人は一列のまま槍を構える。
その五人は同時に動いた。地を這うように突っ込む一人に、その頭上を舞う一人。立体的な攻撃だ。知らぬ者が相手ならば、困惑して捌ききれないだろう。 しかし、動きが遅い。
ザイムの手ほどきは、縦横無尽でもっと早かった。自由になってから、僕はあの人ほどの手練れを知らない。
下段の槍を杖先で逸らし、上から送られる槍を首を振って避けながら槍を逸らした杖先をそのまま下段の衛士の胸に撃ち込み、手首を返して杖元で跳んだ衛士の肚を突き上げる。
今度はルクスを込めた。
下から突き上げられた衛士は大きく回転し、さらにその上から跳んだもう一人の衛士にぶつかる。
たちまち三人が橋に叩き落され、鈍い音が周囲に響いた。
ルクスを撃ち込まれた二人は、動けずに落ちたままだ。
そのまま奥の二人に向かう。戸惑う二人をそれぞれルクスを込めずに撃ち込み、堀に落とした。
これで、力の差は彼らにも理解が出来たはずだ。
「どうする」
そこで足を止め、僕は杖で強く橋を撃った。
押し出していた衛士は後ずさりしながら退いていく。
対岸には、堀に落とされた衛士たちが丸腰のまま引き上げられていた。
東の空は僅かに白みかけている。退くなら今しかない。
「どうする」
もう一度強く言う。
答えは――前に進みだす重装衛士。
これ以上は無駄なようだ。杖を構えた。
再び密集隊形で突っ込んでくる。
槍を受け流し、打ち込むその瞬間。強いルクスが風のように身体を打った。数は二つ、対岸の敵のさらに奥。この強さのルクスは他に考えられない。
僕は槍を受け流しながら、ゲートへと引いていく。
「フレイドさん、セリくんはゲートの中へ入ってください」
彼らに声を掛け、ゲートの開閉が出来る時間を稼ぐように、重装衛士を堀に叩き落した。
強いルクスは急速に迫り、対岸の奥でその正体が露わになる。
ルクスが二本の大きな光の柱に見えるほどの強さ。これほどの強大なルクスを持つの者を僕は一つしか知らない。
撃ち込まれるルクスの瞬きと苦悶の呻きが遠く流れてくる。たちまち悲鳴と人が斬られる鈍い音が重なりだした。
一瞬のうちに彼らは混乱し、総崩れとなる。
あれだけのルクスだ。身を守ることを考える必要なく、振るう剣は相手のルクスなど蹴散らしてしまう。
理不尽過ぎるルクスだ。
逃げ出す重装衛士を見送り、僕はルクスを抑えながら開かれたゲートへ進んだ。
僕がルクスの全てを開放すれば、相手になるだろうか。不意にそんな考えが浮かんできた。笑ってしまう。そんなことがあるわけがない。
それは、僕の憧れなのだろう。用意された駒に対する憧れか。
歓喜に包まれるゲートを潜ると、フレアとセリが駆け寄ってくる。
「先師、あれは」
「賢者殿、もしかすると」
バルクスも駆け寄って来た。
僕は頷くと、
「直ちにゲートを閉じてください」
声を張った。
「まだ、夜は明け切っておりません。まだ、賊は去っていません。ゲートを閉じて秩序を見せなさい。それが、礼になります」
僕の言葉に、歓声が退いていく。
「賢者殿、それは礼になるのですか」
「夜明け前の訪問は、ゲートの前で名乗りを上げ、それに対応することで迎え入れることが礼となります。混乱をしている今こそ、秩序を見せるべきです」
「わ、分かった。直ちにゲートを閉じよ」
その言葉を聞きながら、イズサを呼ぶ。
「賊の遺体を片付けて下さい。柵の上段の住民も下に移し、見下ろさないようお願いします。長老、集会寄宿舎の広間を準備して下さい。お迎えと案内はバルクス公領主様にお願い致します」
それだけを言うと、僕はフレアとセリに顔を戻した。
「ここでの僕たちの仕事は終わりです。二人は怪我人を広場に集めて下さい。怪我の治療をしましょう」
一斉に動き出した彼らの中を、僕は広場へと足を進めた。
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