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総力戦

仕事が忙しくなり、休みも取れなくなりました。

間隔が開いていますが、書いていきますのでご容赦ください。


 

 高く上がった月は、周囲に浮かび上がった光球に霞んで見えた。


「賢者様」


 掛けられた声に、マデリに目を移す。


「町の人たちは、どうして裏切ってしまったのでしょうか」


 沈んだ声だ。柵を撤去し、ゲートを開け放ったことがショックだったのだろう。


「彼らは、もちろんここを襲っている王宮の衛士ではありません。この集落の住民として生活していながら、裏で賊でもしていたのでしょう。そしてこれは、王宮の衛士と賊が手を組んだことを示唆しています」

「あの人たちが賊、ですか」

「はい。下働き程度ではないルクスの汚れでした」

「でも……」


 同じ町の人が、周囲の町や集落を襲う賊だったとは信じられないのだろう。


「それよりも、そろそろ相手が動きます。次からは総力戦です」

「総力戦」

「ここからは、生きるか死ぬか。殺し合いになります」

「う、うちは、どうしたらいいですか」

「同じです。マデリさんはまだルクスが安定していません。争いに巻き込まれてはいけません。出来ることだけをして下さい」


 言いながら、動き出した対岸の衛士を見た。最前列に重装衛士、その後に軽装衛士が続いている。


「大丈夫です。僕は集団戦で負けたことがありません」


 そのままゲートの上に組まれた足場の中央に立った。

 橋を整然と衛士たちが渡りだす。


「フレイドさん、セリくん、イズサさん。軽装の衛士が柵の上に駆け上がってきます。それを撃ち落としてください。撃つ時は、住民を護るという思いをルクスに込めるようにしてください」

「どうしてなの」 

「相手を殺すとか、倒すとかの思いはルクスを乱します。そして乱れたルクスは妖を覚醒させます」

「戦うのに、妖があったほうがいいのじゃないの。ルクスを補強するのでしょ」


 フレアが不思議そうに聞く。


「補強はしますが、反動でルクスを汚します。敵味方、見境なく暴れます。皆さんはルクスを汚してはいけません。妖をルクスに変換させなければいけないのです」

「セラみたいになるのですか」


 セリが足を止めた。


「そうです。そのためには心のあり方が重要です」


 僕の言葉をかき消すように、喊声が響いた。

 重装の衛士が真っ直ぐにゲートを駆け抜ける。

 わずかに遅れて鋼の打つ音と柵にぶつかる音は同時に響いた。しかし、それよりも僕は重装衛士の奥に控える軽装の衛士に目を向けた。


 彼らは振り下ろされる槍の間合いを計っているのだろうか。

 その間にもこちらの槍は重装衛士のルクスを削り、その鎧を打ち砕いていく。崩れる彼らは柵に押し付けられ、地に倒れることも許されない。

 違う、軽装衛士が待っていたのはこれだ。倒れた重装衛士は柵に掛けられた足場になる。


 瞬間、軽装衛士が動いた。

 重装衛士を足場に、次々と軽装衛士が宙に舞う。

 槍がルクスの煌めきを上げ撃ち落とすが、それでも半分は柵の二段目にまで跳んできた。わずかに遅れてより強いルクスが輝き、彼らを叩き落す。


 フレアとセリだ。

 特にフレアの強いルクスは、一撃で軽装衛士のルクスを散らせてその身体を斬り裂く。セリはその身軽な動きで連撃を与え、ルクスを破って彼らを叩き落した。

 落ちた軽装衛士はその場を離れ、新たな一団が迫る。


 彼らも倒れた衛士を足場に駆け上がってきた。

 振り下ろす槍が容赦なく撃ち付けていくが、それでも彼らの突撃は止まらない。

 早い動きにこちらも二段目の住民を動かし、新たな住民に入れ替えるが、こちらのルクスの消耗が激しい。


 青い光が幾重にも瞬き、遅れて鋼を打つ音が波紋のように広がっていた。

 駆け上がった軽装衛士を次々に叩き落し、双方が上げる咆哮が周囲を振るわせる。

 彼らの身体を包むルクスに赤い光が瞬き始めた。妖がこの戦いに反応をしているのだ。


 幸い、フレアとセリにはその兆候は見られない。

 だが、それもいつまで抑えられていられるのか。


 賊の数は百ほど。既に二十近くは倒し、それ以上の負傷はあるはずだ。本来ならば、相手の戦意は萎えてそのまま退くのだが、さすがに公領主の首という代価の価値は高い。

 しかし、一体いつまで続くのか。いつの間にか月も傾き、こちらの住民にも怪我人が増えだした。

 思った瞬間、笛の音が響く。マデリだ。同時に軽装の衛士が退く。やっと攻撃の手が緩むのか。

 咆哮は蛮声に変わり、住民が槍を振り上げる。


 その蛮声を斬り裂くように、

「北に集団」

響いたのはセリの声だ。


 慌ててを目を向ける見張り台からは、光の線が北の一点を指し示していた。渡していたランタンの投光器、あの先に新たな集団がいる。


「先師」


 駆け寄って来たフレアが、そこを指さす。

 その剣は血に濡れ、肩で息をしている。それでも、返り血も服を汚すことはなく、ルクスの強さも変わらなかった。

 フレアは、やはり凄いな。ルクスの底が見えない。


「増援みたいですね」

「みたいですねって、どうするの。相手はさらに百人規模よ。これじゃあ、持たないわよ」

「何か、考えがあるのですか」


 その背後からイズサが駆け寄って来た。


「これも考えに含まれているような口振りです」


 続けるイズサは大きくルクスが削り取られている。これ以上は近接戦はしない方がいい。


「被害を無視しての波状攻勢に、伏兵がいるとは思いました。ですが、この規模の増援は想定外です」


 言いながらゲートに足を進めた。

 見張り台からの光が蠢く人影を追いかけ、対岸の光にその先頭が浮かび上がってくる。


「彼らはこれから再編成をします。陣の強さも見せましたから、攻城槌が出て来るはずです」

「攻城槌というのは、何ですか」


 マデリが対岸に目をこらす。


「簡単に言えば丸太です。補強を入れたものもありますが、門や柵に撃ち付けて、破るものです」

「それでは、打ち付ける人のルクスを削る前に柵が破られるじゃない」


 フレアも身体を乗り出した。


「賢者様、なぜ堀の橋を壊さないのですか。あれを壊せば、そんなものも運べません」

「そうよ。マデリちゃんの言う通りよ」

「理由は二つです。一つは攻め口を開けておけばそこに敵は集中します。橋やロープを渡すにしても数は限られ、簡単に撃退できます。しかし、先に橋を壊せば、敵は準備し、全方位から攻め込むことになりまず。こちらは数が足りません」

「その為に、攻めやすいように橋を残したのですか」

「もう一つは、敵の逃げ道を確保しておくためです。逃げ道があれば、敵も決死の覚悟では戦えません」

「賢者様、凄いです。そんなことまで考えられていたのですか」

「それよりも、対策をお伝えします。態勢を整えて再度攻勢を仕掛けるまで、まだ少しの時間があります」


 言葉を切るとイズサに目を向けた。


「自警団は、このゲートを閉めて下さい。今回、倒れた衛士はそのままに捨てられています。生存者は中に入れて、死者は通りに広げて下さい」

「賢者殿、どうして今回は衛士を引き上げなかったのだ」


 バルクスも供を連れてゲートに上がってくる。

 奥に控えていたために、そのルクスは削れていない。ここで戦力となるのは、フレアとセリ、それにバルクス公領主だけだ。


「踏み台です。柵に寄りかかった屍は足場になって重装衛士も槍を振るえますから」

「足場にするのか」

「それだけ、相手は本気でこの町を殲滅する気だということです」

「では、それを通りに広げるというのはどういことでしょうか」


 意図が分からないように、イズサが尋ねた。


「障害物です。足場を悪くし、侵入を妨げます」

「では、ここで迎え撃つのですね。早速、ゲートを閉めてきましょう」

「はい。イズサさんたちはその後は柵の外に控えて身体を休めて下さい」

「どういう事でしょうか」

「皆さんのルクスはかなり削られました。それ以上は身体を護り切れません」

「しかし、それでは」

「ここは、僕が迎え撃ちます。フレイドさん、セリくん。二人は泳げますか」

「はい」

「えぇ、少しくらい大丈夫よ」


 二人の返事に頷いた。


「では、僕の背後を護ってください。危なくなったら、堀に逃げ込んでください」

「堀に、先師はどこで迎え撃つの」

「橋ですよ」


 僕の言葉に、二人は驚いたようだ。


 何か言おうとする二人を制し、

「マデリさん。もう少しすれば夜も開けます。夜が明ければ、狼煙を上げて下さい」

顔を真っ赤にした少女を見る。


「わ、分かりました」


 返事を聞きながら、ゲートの上を端まで進んだ。

 すでに対岸には賊が集結し、細かな移動を行っているのが見える。あの様子ならば、もう少しで再編成も終えるだろう。


「しかし、橋で迎え撃つのは危険だろう」


 傍らにバルクスも歩み寄った。


「あそこで迎え撃てば、攻城槌も使えません。今、あれで柵を壊されれば、町は血に沈みます」

「なるほどな。しかし、そこまで持ちこたえられないだろう」

「何とかします。それよりも、もしゲートが破られれば、後の指揮はお願い致します」

「指揮か。分かった、その時は支えきれないかもしれないがな」

「お願いします」

「それで––」


 不意にバルクス言葉が止まる。

 傍らから伸縮式の望遠鏡を取った。


「賢者殿、この戦いの首謀者はセルトゲ公のようだな」


 望遠鏡を目から外すと、重い声で言う。


「セルトゲ公とは」

「奥に仁王立ちになった男だ。王都に領地を持つ公貴だが、この公領地を奪いに来たのだな」

「守護領地は王が臣下に下賜されるもの。勝手には奪えないでしょう」

「軍大司長のオラムとセルトゲは懇意だ。玉座が空いている間にこのバルクスを殺し、既成事実を作ろうと考えているのだろう」

「そうなると、彼らはここを退かないということですね」

「そうだな。姿を見せることも厭わないのだ。ここでケリをつけるつもりだな」


 では、僕もルクスを抑えているわけにはいかない。

 ゲートが閉められ、それに合わせたように重装衛士が動き出した。

 ゆっくりと出て来たのは、やはり攻城槌だ。


「ですが、何とかお引き取りして貰いましょう」


 そのままゲートを飛び降りた。


読んで頂きありがとうございます。

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