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バルクス公領主

ご覧頂き、ありがとうございます。

仕事が忙しく、更新できませんでした。

これからは時間を見て、更新していきますね。

 

 広場に集まった人々を公領主の衛士が整理しだした中を、僕たちは集会宿舎に入った。

 迎えに来た長老に案内されるまま、広間に向かう。

 壁に掛けられた地図を背に、その男は座っていた。

 口髭を蓄えているが、公領主としての歳はまだ若い。三十歳を超えた所だろうか。


「あなたが噂の賢者殿ですか。軍司長のジウルから話を聞き、ここの長老のゼルダからも伺った。中北守護領地の公領主、バルクスです」


 立ち上がったバルクスに足を進める。

 セリとマデリは広間の入り口で足を止め、フレアもさすがに入っては来ないようだ。


「ボルグ・ロウザスと申します」


 机まで進むと、胸に手を当てて礼をする。


「そう、畏まらなくてもよい。ここに来たのは、城塞都市について意見を聞きたく思ってな」


 そのよく通る声を聴きながら、バルクスのルクスを見る。

 強い輝きに揺らめきはあるが、穢れはない。


「その前に、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

「ほう、何だね」

「王都から衛士が入ってきていましたが、公領主様がお呼びになられたのでしょうか」


 ルクスの穢れた王宮衛士が思い浮かぶ。


「まさか、自領のことを王宮に泣きつくほど、恥知らずじゃない。あれは、こちらの苦境を知った先王が派遣されたものだ」


 その口調に苦いものがある。

 それ以上は、他の国の者には話したくはないのだろう。それは分かる。分かるが、はっきりとさせなければいけない。


「それで、被害は減りましたか。その逆ではないのですか」


 僕の問いに、バルクスの目が鋭くなる。


「何が言いたいのだね」

「簡単なことです。先王はどうしてこの地の苦境を知り、誰が衛士を選抜したのか。この守護領地は、王宮官吏たちからは疎外されていませんか」


 その言葉に、バルクスの目が逸れた。長老は傍らで黙ったままだ。


「大陸の国々を回ってきましたが、エルグの奴隷のいない国はありませんでした。あれだけの数の奴隷をどうやって集めたのか。答えは明白で、それが今この領地に迫っている危機ではないのですか」

「言っていることが分らないが」


 横を向いたまま答える。それは肯定だ。


「バルクス公領主様、僕は同じことを考えています。もちろん、それが杞憂に終わればいいのですが、そうでなければこの町が危ないのです」

「この町がかね」

「僕が賊ならば、守備の固められた公領主館で公領主様を襲う愚は犯しません。襲うならば、外出先にします」

「まさか、そんなことがあるわけがない。第一、私は襲われることなど考えてもいない」

「バルクス公領主様、僕は駆け引きなど出来ません。ですから、単刀直入に話をしています」


 その言葉に。やっとバルクスがこちらに向き直った。

 言葉の意図を理解したのだ。これ以上、惚けるならば話を打ち切るという意図を。

 噂を聞いただけの他国の賢者、信用も出来ない相手。

 バルクスの警戒するのは当然だ。それでも、彼は僕に向き直った。


「何か、根拠があるのかね」

「僕は、人のルクスを見ることが出来ます。王宮から来たという衛士を見ましたが、そのルクスの汚れは酷いものでした。その衛士が、この町の防備の状況を見に来たと聞きました。そして今、ここにバルクス公領主様がいらっしゃいます」


 僕の言葉の後に、バルクスの深いため息が響いた。


「なるほど、ただの賢者殿はないようだ。私の考えも分かると」

「警鐘雲が走るのは、王が民の安寧を踏みつけることによってです。もし、王都の衛士が越境をしてこの地の子供を攫うならば、その衛士を派遣した王に罪は帰ります」

「いや、先王は民もこのバルクスのことも、気に掛けてくれていた。優しき王だった」

「この地に衛士を派遣したのが、好意だとしても派遣された衛士が民を攫えば、それは王が賊を派遣したのと同じことです」

「賢者殿も先ほど言ったではないか。衛士を選抜したのは誰かと。その誰かが罪を背負うべきではないか」

「その誰かとは」

「軍大司長のオラムだと考えている。罪はオラムにあると」


 僕の問いかけに、躊躇うことなく答える。そこにバルクスの覚悟が見えた。信頼はしていないが、聞く耳は持つと言っている。

 ならば、僕も真摯に受けなければならない。


「それを任命したのは、王です。罷免しなかったのは王です。国に起きることは、王に帰します」

「先王を廃位させるため、そして奴隷を確保するためにこの領地を襲ったと」

「もう一つ、バルクス公領主様の領地管理能力を理由に失脚させるためにです」

「確かに、王宮官吏からは嫌われているからな。それでは、どうすればいい」


 バルクスが座り直した。


「降りかかる火の粉は払いましょう。賊は狙う町での離合集散を繰り返す組織化された集団だと思えます。そのためには、こちらも有機的な対応が必要です」

「有機的、どういうことだ」

「十人規模の巡回衛士を複数組織します。離合集散を繰り返すならば、街道を行く賊もいるでしょう。それらを抑えていきます」

「十人程度で抑えられるものかね。向こうは数十人規模だと聞くが」

「多くは森の中を人目に付かないように移動するはずです。目立たぬように街道を行くのは、多くても三人まででしょう。それらを拘束していきます」

「森を進む者はどうする」


 身体を傾けるように、尋ねてくる。真剣に話をし、考えているのだ。


「拘束した者から狙う町を聞き出しますが、それができないときの為に、各集落、町、城塞都市に衛士を配置します」

「割けられる数はそんなに多くはない。全てを守るのは無理だな」

「いえ。集落、町、城塞都市、それらをすべて連携すれば問題ありません」


 僕の言葉に、初めてバルクスの顔が上がった。


「面での制圧というやつかね」

「そうです。その為の有機的な衛士の運用です」

「セルダから聞いたが、南方のアサカ川の側に城塞都市を作るという案。その時に、面での制圧ということを初めて知った」


 バルクスの息が漏れる。


「賢者殿に言われた場所は、考えれば考えるほどに理にかなった場所だ。すぐにでも工事の変更をしたくて、ここに押し掛けた」


 城塞都市の計画は、やはりあったようだ。しかし、この荒れた国で人が増えているということは、それだけバルクス公領主に手腕と人望があるということだ。


「衛士の具体的な運用と合わせて、城塞都市計画も話を聞きたい」

「詳細まで語れば、時間がかかりすぎます。お話しできるのは、表面的な––」


 そこまで口にした時、入口で鋭い声が上がった。

 即座に反応したのはフレアとセリだ。

 セリが表に走り、フレアが駆け寄る。


「先師、見張りからの合図だ」


 見張りの合図、やはりバルクスはつけられていた。

 フレアが先行報告をし、セリが詳細確認の役割なのだろう。二人もよく工夫している。


「どういうことだ」


 バルクスが立ち上がった。


「狙いは、バルクス公領主様ですね」

「まさか」

「供回りは、何人ですか」

「十騎だ。忍びで来た故、数は揃えていない」

「では、その十人を広場に集めてください。長老、自警団と町の人たちを広場に」


 言葉に重なるように、セリが駆けこんでくる。


「四方に人影、畑にいた住民は引き揚げさせています」


 叫ぶ声が響いた。


「マデリさん。帰ってくる民を収容してあげて下さい。まだ襲っては来ませんからゆっくりとで大丈夫です」


 言いながら、僕も入口に向かう。

 広場には人々が集まったままで、湧き上がっていた歓声は不安な騒めきに代わっていた。

 その彼らを衛士と自警団たちが鎮めている。


「賢者」


 僕に気が付いたイズサが駆け寄ってきた。


「周囲に現れたのは、どうやら斥候のようだ。この周囲は固められたと見ていい」


 さすがに統制されている。これでは応援を呼ぶことも出来ないか。


「配置を考えます。皆を整列させて貰えますか」

「分かった」


 イズサの張り上げる声に、雑然とはしているがすぐに皆が並ぶ。

 彼らのルクスに気が重くなりそうだ。ほぼ全員に淀みがあり、黒と赤の靄に纏われた者も多い。


「精鋭を選抜します」


 僕は長老とイズサに、民と自警団のルクスの汚れの酷い者を告げていく。

 二人は驚いたように顔を見合わせるが、それを無視して十人ほどを選んだ。


「バルクス公領主様、精鋭の指揮をこちらの三人の衛士にお願い出来ますか」


 傍らのバルクスに言いながら、その三人に目を移した。

 好青年のような顔立ちと振舞だが、ルクスは輝きも見えないほどに汚れている。王宮衛士のルクスも酷かったが、その三人も酷いものだ。


 何か言おうとする彼らより先に、

「柵を組み立ててください。マデリさんが組立の指示をしてくれます。イズサさんは町の人に上段から槍を振り下ろす練習をお願いします」

言いながらフレアとセリに足を進めた。


「ゲートの上を仮の指揮所にします。フレアさんには左を、セリさんには右を指示して貰います。先に上がりますよ」


 町の入り口に掛かる、小さなゲートを見上げた。


読んで頂きありがとうございます。

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