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お守り

 

 奥の部屋に入るとベッドに腰かけたセラの顔が輝いた。

 意識を回復したようだ。

 セラが身体を起こして、こちらに向き直る。ルクスは強く、輝きは真っ直ぐに伸びていた。


「賢者様ありがとうございます」


 そのまま深く頭を下げる。


「元気になったようですね」


 まだ顔色は悪いが、それでも回復は順調だ。


「はい。賢者様に治療してもらい、修士のフレイドさんに看護してもらったと長老様から聞きました。フレイドさんにもお礼を言わないといけません」

「彼女は、広場で剣の練習中です。後で、包帯を代えに来てくれますよ」

「色々ありがとうございます」


 礼も心得たしっかりとした少年だ。この子のルクスも穢れが少なく、妖気の変容が出来たのだろう。


「それより、痛みはどうですか」

「だいぶ収まりました。あの時、身体中が暖かい光に溢れてから、痛みは薄らいで、身体もずっと楽になりました。あれは、賢者様のルクスだったのですね」

「そうですか、僕のルクスを感じましたか」

「はい。それに、寝ているはずなのにこの周囲が見えました。まるで、空から見下ろすように町が見えました」


 嬉しそうに笑う。


「そこが、第一門と呼ばれるところです。セラくんは第一門にいる妖をルクスに変容させたのです」

「ルクスを強く感じるのは、そのためなのですか」

「感じますか」

「はい。以前とは全然違います」


 その言葉に、僕はベッドの横の椅子に腰を下ろした。


「そのルクスが、あなたたちエルグの民の持つ可能性です」

「エルグならば、みんなこんなことが出来るのですか」

「出来ます。セラくんはその時に何を見ましたか」

「赤く輝く雷雲です。幾つもの赤い稲妻を出す雷雲。それが青い光に包まれて、その後に紫の雷雲へ変って、周囲を呑み込む光になりました。それと同時に、見下ろすように町が見えました」


 なるほど。妖はルクスに包まれると二段階に変容する様だ。そして、変容したルクスは自らのルクスと一体になる。

 クルスたちの説は間違っていなかった。


「今回、セラくんを救うために強制的にそれを行いました。本来はセラくん自身のルクスの力が必要なものです。順序は逆になりますが、セラくんはそのための訓練をしなければいけません」

「訓練、どんなことですか」

「まず、心を真っ直ぐして下さい。良心は創聖皇の心の欠片です。これを汚せば、ルクスが汚れます。常にルクスを綺麗にするように心がけて下さい。そして、自らの意識と向き合って下さい」

「分かりました。でも、意識と向き合うというのはどうすれば」

「何も考えずに目を閉じて下さい。そして、意識に湧き上がってくる雑音と距離を置くことです。繰り返せば、方法も分かります」

「分かりました。今日からやってみます」


 増大したルクスに溺れることなく、素直に頷く。この子ならば、ルクスを制御していけるだろう。


「最後に、これを差し上げましょう」


 僕はローブから金属の板を取った。

 鈍く輝く薄い鉄の板。脱獄した時に、海の中で麻袋を破ったナイフだ。磨き上げたその板には、僕とボルグ先師とザイムさん、ダイムさんの名前を刻んでいる。


「四人の名前が刻まれた汚れた金属板に見えますが、これはナイフです。文字通り、僕の運命を切り開いたものになります。セラくんの新たな運命を切り開けるようにこれを差し上げます」

「いいのですか。大切なものなのではないのですか」

「はい、大事なものです。ですが、セラくんは十七になれば、ルクスは安定し、増大します。これを見るたびに、心を真っ直ぐにすること、意識と向き合うことを思い出してください」

「ありがとうございます、大事にします」

「では、また来ます。セラくんはもう少し休みなさい」


 僕は立ちあがった。

 セラも身体を倒し、ゆっくりと息を付いている。

 これで飲み薬も併用すれば、回復も早くなるだろう。

 部屋を出て、玄関に向かった。


 表からは、喧騒と笑い声が地鳴りのように重く響いてきた。

 外に出ると、広場で皆が槍を作り、入口のゲートには柵が運ばれている。

 まだ、昼にもなっていない。この仕事の速さは驚きだ。


 エルグの民は、未開で怠惰。ここで実際に接するば、そんな認識は消し飛んでしまう。彼らは、基本的に勤勉なのだ。

 やり方、手順さえ理解すれば、工夫し、分業していく。これもこの民の可能性なのだろう。

 僕は手を挙げて、フレアの剣の練習を止めた。

 広場の隅で、その練習を真似ていたセリも、肩で息を付きながら手を止める。


「ぼくの手伝うこと何」


 息を切らしながらも、フレアが駆け寄ってきた。自分も町の役に立ちたいと考えているのだ。

 その言葉に、離れて座り込むセリを呼んだ。


「まずは、セラくんをお願いします。意識を戻しましたから、フレイドさんは包帯と薬を代えて下さい。セリくんは長老に伝えて飲み薬をお願いします」

「セラの意識が戻ったの」


 フレイドが声を上げ、セリが駆け出そうとする。


「その後で」


 続ける言葉に、二人が止まった。


「二人には伝令と僕の補助をお願いします」

「伝令って、なに」

「この町の東西南北に見張りが立っています。そこから連絡があれば、教えてください」

「補助は、何をすれいいのですか」


 セリも満面の笑顔で駆け戻ってきた。任されるのが嬉しかったようだ。


「言葉通り、僕の補助です。二人には、僕の目にも手足にもなって貰います」

「分かりました」


 顔を紅潮させたセリが頷く。


「では、見張りの方と連絡方法の打ち合わせをして下さい。賊が見えた時に、どうやって合図をするか、それをどうやって皆に知らせるか。二人で考えてみてください」

「分かったわ」


 フレアも勢い良く頷いた。


「ところで、マデリさんが見えませんね」

「マデリは畑に出ています。開学の時間を取るのに、夜明け前には畑に行っています」

「夜明け前、危なくはないのですか」

「仕方ありません。そうしないと、時間が取れないみたいです。でも、畑には自警団の人が早くに行って、周辺を見張ってくれています」


 セリの声が震える。

 住人に支給される畑は、成人男性が一人で世話を出来る大きさ、四シリングと決まっている。

 母親と少女たちが世話をするには、広い農地になる。


「そうですか。お二人は、見張りの方との打合せをお願いします」


 駆けだす二人を見送り、僕は広場を出た。


読んで頂きありがとうございます。

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