外伝2
セリとマデリのルクスは大きく変化した。
噴き上がるルクスは輝き、立ち昇っている。
そのルクスに二人も自信を持ったのだろう。顔が上がり、物怖じもしなくなったようだ。
翠嵐宮の門まで進んでいくと門衛が飛び出してきた。
僕はその門衛に旅札を見せる。
書かれているのは、ラルク王国・アムルだけだ。
天籍に移ったために、裏書も何もない。
門衛が顔を上げた。
「ラルク王国の印綬の継承者ですか」
「いえ、印綬の文字が記されてはいないでしょう。僕は同格のアムルです。ただのアムルです」
すでに噂は広まっているのだろう。印綬と同格というだけで、理解したようだ。
すぐに向けられた槍が引く。
「内門まで案内します。すぐに外務司士の者が参ります」
門が開かれ、木立の中を奥へと進む道が見えた。
紅玉宮は庭園のように整理されていたが、翠嵐宮は自然の姿を基調としているようだ。
「先師、先師がお会いになるのは、外務司士になるのですか」
小声でセリが尋ねてくる。
「そうです。フレア女王の戴冠式がそろそろ行われます。格式を重んじるウラノス王国が派遣するのは、外務司士の人でしょう。ですから、僕に面談するのもそれよりも位の低い外務司士になります」
「おかしな話です。それでは、先師との釣り合いが取れません」
マデリも口を尖らせる。
「そうですね。他の国々からも一目置かれるように、ラルク王国の力を上げなければなりませんね」
「でも、先師は外務司士と話しても先師の先師を解放出来るのですか」
「どうでしょうか。やってみなければ分かりません」
僕が答えた時、木立の奥から馬車が進んでくるのが見えた。
その馬車は門の前で止まり、政務服を着た初老の男が下りてくる。
「アムルというのは、あなた様ですか」
戸惑ったように壮年の外務士司士が礼を示した。
セリとアデルの立ち上がるルクスに、わずかばかりの僕のルクス。威圧感の違いに誰が主人か戸惑うのも当然だった。
その礼に応え、
「失礼、アムルと申します」
同時に、ルクスを解放した。
噴き上がったルクスに、木々の葉が舞う。
「そ、それでは、どうぞこちらに」
案内されて馬車に乗り、僕たちは木立の奥へと進んだ。
それぞれの国に合わせて王宮は用意されている。翠嵐宮の自然を利用した庭園は趣があり、セリたちも感心しているようだ。
「セラン様とは、あまり似ておられませんね」
しばらく進むと、外務司士が呟くように口を開いた。
「父をご存じですか」
「ええ、何度かお屋敷にもお伺いしました。セラン様は厳しく、時には冷たい方でありました」
「それでは、ご苦労もしたでしょう」
「しかし、あれだけの采配を振るわれていたのです。今考えれば、当然だと思います。申し遅れました。小職は、シレルと申します」
「でも、どうして僕がカイラム家の者だったとご存知なのですか」
「エルフが、それは大騒ぎをしました。有史以来、印綬の継承者でない者が初めて天籍に移ったと。ちょうどその時に、この翠嵐宮にラルク王国からの使者が来ており、セラン・カイラムの息子、アムル・カイラムが国に入り込んでいるが、捕縛しましょうかと問い合わせていた時でした」
「そうですか」
僕も苦笑するしかない。
「口車に乗れば、危うく捕縛依頼をするところでした。天籍の者に捕縛依頼など、天下の笑い者です」
自嘲気味に笑う様子から見て、その時に対応したのがシレルのようだ。
馬車が止まると、
「同じエルミの民ですが、慣例に従い小職がお話をお伺いします」
シレルが席を立ち、馬車のドアを開けた。
王宮に入るとすぐ側にある応接室に通される。
使者の控えの間のようだが、応対はここでするのだろう。
「急な訪問、早速ですが、御用件を伺ってもよろしいですか」
確かに、対応するシレルが困るのも分かる。
国と国との付き合いになる。本来、外務司から訪問の打診があり、日程調整も行われるはずだ。
「突然の訪問になりますが、これは僕個人の訪問とお考え下さい。ここに、ラルク王国の意思はありません」
「アムル殿、個人での訪問ですか。して、ご用件は」
「ボルグ賢者とザイン、カザムのエルドニア牢獄からの解放です。そこは、僕が収監されていた牢獄になります」
僕の言葉に、シムルは驚いたようだ。
政治犯の収容牢獄だ。それを解放しろと他国から言われるのは想像もしていなかったのだろう。
「それは、かなり難しい意向ですね。我が国がそれをする理由がございません」
「理由はあります。明日にも僕たちの女王の即位式が行われますから」
それがどういう理由か、怪訝な目を向けてきた。
わずかに遅れて、
「それは、認めるしかないでしょう」
笑い声がした。
扉を開けて入ってきた赤髪の青年が、手を上げる。
同時に僕は礼を示した。
「これは、マルス殿。こんな所にどうしたのです」
「アムル君とは旧知の間でね。そんなことより、すぐに王に奏上に行きなさい。ウラノス王国の今後の立ち位置に関わることだよ」
「立ち位置ですか」
「分からない人だね。ウラノス王国は世界の規範を示し、盟主足らんとしているのだろう。それが、台無しになるよ。アムル君は、印綬の継承者以外で初めて天籍に招かれた人。即位式に出る者でそれを知らない者はいないよ。当然、アムル君の来歴が、話題になるだろうね」
そこで初めて、ジムルは気が付いたようだ。その顔が青くなる。
「僕は、二つの説明を用意しています。一つは内務大司長だった父は国の財を私し、罰せられました。当然、カイラム家には非難が集まり、身内の処分の声も高まりました。サイノス王は幼かった僕を哀れに思われ、賢者ボルグと護衛の二人に守らせて外南守護地に逃がし、僕は彼らに見守られて覚醒することが出来たのです」
「もう一つは」
「ありのままです。国の運営を自ら行う為に、内務大司長に反乱の罪を被せて殺し、幼かった僕を政治犯の牢獄に幽閉しました。そこで僕は覚醒をし、脱獄をしたと」
再びマルスのさわやかな笑い声が響く。
「サイノス王の返答次第で、ウラノス王国の立ち位置は変わるよ。これは、アムルくんの個人的な訪問ならば、アムルくん自身でどうにでもできるということだ。すぐに、お伺いを立てて来なさい。リベル商会のマルスも第一案を押していると伝えなさい」
その言葉に、弾かれたようにジムルが立ち上がった。
出ていく彼を見送り、マルスは椅子に腰を下ろす。
「顔を合わすのは三年ぶりですか」
「はい。リベル商会では格別のご高配を頂きました」
「あれは、ただの商売だよ。それよりも、後ろの二人を紹介してくれないか」
「はい。僕の修士になる、セリくんとマデリさんです。こちらは、リベル商会のマスター、マルス・ハンク卿です」
僕の言葉に、二人が慌てて礼を示す。
「どうやら、二人ともエルグの持つ妖をルクスに変換しているのだね」
「お分かりですか」
「ルクスに嫌な感じはしないからね。私がアムル君と会ったのは、まだアムル君が十七になる前だったんだよ」
言葉はセリたちに向けられた。
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