表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/103

外伝1


 雲一つない空が広がり、緑の尖塔が建物の奥に見えた。

 ウラノス王国の王宮だ。


「先師、すごく綺麗ですね」


 見上げるマデリがため息のように言う。


「ウラノス王国の王宮で、翠嵐宮と呼ばれています」

「サイノス王の治世は五十年を越えるのですよね」


 セリは人が行きかう活気のある街に、興味を惹かれているようだ。


「先王の統治が百五十年続き、現王で五十年。国の荒廃はなく統治されています」


 言いながら、通りを宿に向かった。

 僕は賢者のローブをセリとマデリは修士のローブを纏い、顔を隠すようにフードを深く被っている。


「アムル殿」


 不意に掛けられた声に、僕は足を止めた。

 駆け寄ってくるのは、クリエだ。


「お久しぶりです、アムル殿。どうぞ、館へお越しください。父も待っております」


 人目を気にせず、大きく手を振る。

 慌ててしまうのは僕だ。


「クリエさん。港に付いた時から、僕は監視されています。僕に近づけば、ロウザス家にも迷惑が掛かるかもしれません」


 囁く僕の言葉に、クリエが大きく笑う。


「ベルツ上級学院の研究室は閉鎖され、研究書物は焼かれました。これ以上に何の不利益があります。それに、アムル殿は印綬の継承者と同格になられ、籍は天に移りました。天籍の方を誰が縛れましょう」


 それはそうだが、ロウザス家の風当たりは強くなるはずだ。


「それよりも、アムル殿。父も待っております。どうぞ、こちらに」


 すでに監視をするアセットに見られているはずだ。誤魔化しようもない。


「分かりました。僕の修士も二人いますが、宜しくお願いします」


 クリエに案内され、通りを戻る。


「王都に来るとの手紙を見て、毎日のように表に出ていましたよ」

「はい。王都に着けば、僕から連絡を差し上げるつもりでした。ですが、良く分かりましたね」

「賢者のローブを身に纏える人は少ないですから」


 四台の馬車が行きかえる幅を持った、広い通りを進む。

 周辺には中央公貴の大きな屋敷が並び、その立派さはラルク王国の比ではない。セリたちも目を奪われているようだ。


「ですが、そのローブもだいぶ痛みましたね」

「痛めてしまい申し訳ありません」


 クリエの言葉に、僕も苦笑するしかない。

 長い旅路と戦場。僕と共に苦難の道を乗り越えてきたのだ。


「いや、それだけ役に立ったということなのでしょう。ですが、印綬と同格のアムル殿には、このローブも荷が重くなりすぎまたね」

「とんでもありません。僕には過ぎたものだと思っています」


 しばらく歩いた先に、クリエの屋敷は見えた。

 門を潜り、庭を抜けた先、玄関の前に椅子を置いて座っていたのは、当主のクルスだ。

 わざわざ表に出てくれていた。

 僕は駆け寄ると、その場で膝を付き礼を示す。


「ご無沙汰しております、クルス賢者」


 慌ててセリとマデリも僕の後ろで礼を示した。


「そのような挨拶は無用じゃ。印綬と同格の方に、礼を示さなければならないのはわしの方じゃからな」

「いえ、クルス賢者もクリエさんも僕の先師です。修士が先師に礼を示すのは、当然のことです」

「わしらは、アムル殿に何も教えてはいない。それに、賢者の称号もベルツ上級学院から剝奪された」


 ため息のような声だ。

 しかし、その顔は以前よりも血色がよく、ふくよかになっている。歳も十歳くらいは若返ったように見えた。


「父上もアムル殿も、それくらいにしておいてください。修士のお二人も困りましょう。さあ、どうぞお上がりください」


 クリエが先に立って館に入る。


「そうだな。さぁ、入ってくれ」


 クルスも立ち上がり、手を叩いて使用人を呼んだ。


「分かりました」


 僕はセリたちの肩に手を置く。エルミ種の公貴の屋敷だ。セリとマデリも緊張しているのが分かる。

 庭に面した部屋に通されると、僕は改めて礼を示した。


「お二人方には、お世話になりました」

「それはこっちだ。おかげで、救われた。心に張りも出来た」


 クルスの言葉と同時に扉が開かれ、使用人たちがお茶を運んできた。

 僕にとっては懐かしい香りで、マデリたちにとっては二度目になるお茶の香りだ。


「遅くなりましたが、お二人に紹介をしたい修士になります」


 その言葉に、セリとマデリが前に出ると礼を示す。

 その背は緊張に震えているようだ。


「アムル殿の修士か。わざわざ連れてきたのだ、優秀なのだろうな」

「はい、自慢の修士です。それに、僕にはこの二人しか修士はいません」


 僕の言葉に、二人が耳まで真っ赤になっている。


「それは頼もしい。さあ、ゆっくりとするがいい。わしらは君たちも歓迎している」

「ありがとうございます」


 二人が同時に上ずった声で言うと、ソファーに腰を下ろした。

 笑顔でそれに頷き、使用人が部屋を出ていくのを見送ると僕に顔を移す。


「それで」


 クリエが口を開いた。


「王都には、何の用事があったのですか」

「用事は三つあります。一つ目は、ボルグ賢者たちの解放の依頼です。彼らをエルク王国に迎えたいと思っています」


 その言葉に、クリエたちは言葉をなくす。


「それは、難しいのではないですか。王宮は無実の罪で投獄をした非を認めないでしょう」

「そうですね。穏便に話をしたいですが、否となるようでしたら、僕自身がウラノス王国に非がある証明にならなければなりません」


 その言葉に、全てを悟ったようにクルスが笑い出す。


「プライドの高いサイノス王じゃ。否はないな」

「そうであればいいのですが。二つ目の用事は、エルグの民の可能性についてです」

「おぉ、そうだ。エルグ種の一部は第一門の覚醒をしたとか。詳しく聞きたい」


 クルスが身を乗り出す。

 賢者の称号を剥奪され、書物も焼かれ、研究者としては引退をするしかないはずだ。

 しかし、その顔は紅潮し、目は輝いている。やはり、研究者なのだ。


「お二人には、見て貰いたいものがあります」


 僕は言葉を切ると、セリとマデリに目を移した。


「二人共、よく今まで頑張りました。あなた方のルクスに淀みもなく、輝いています。お二人の妖をルクスに変容させようと思うのですが、どうですか」


 僕の言葉に二人の顔が上がる。


「先師にして貰えるのですか」

「おいらもお願いしたいです」

「分かりました。ここにはルクス学の権威がお二方もいらっしゃいます。補助はもちろんですが、これで全ての民の覚醒が進めるようにしたいと考えています」


 セリとマデリに言うと、その目をクルスに戻した。


「実際にお見せします。研究者の目で見て頂き、忌憚のない助言を下さい」

「ここで、それをするのか」

「はい。僕はお二人に見てもらう為に、セリくんとマデリさんに同道して貰いました」


 僕の言葉に、クルスが笑みを見せた。


「そういうことか。分かった、分かったぞ。その手順と流れ、見させて貰いわしらで体系化しよう」


 さすがに、僕の思いに気が付いたようだ。

 手順を体系化することで、簡略化を探れ、それを広めることが出来る。

 そして、体系化されたものを広めれば、民の覚醒は飛躍的に広がる。

 もし、それが叶うならば、国は大きく変わるだろう。


「ついては、お願いがあります。妖の変容に伴い、意識の拡大が起こります。本人には時間の感覚もなくってしまいますので、泊れる部屋を用意して頂きたいのです」

「もちろんです。すでに部屋は用意しておりますので、遠慮なくお使いください」

「ありがとうございます。最後に、三つ目の目的です。僕はルクスの研究者として、先師として、お二人をラルク王国へ招聘に参りました」


 僕は椅子から立ち上がると、鞄から包みを出した。


「これは、ラルク王国の名が記された賢者のローブです」


 そう、二人の学術の後見保証はラルク王国がするとの証だ。フレア女王の承認も貰ったものになる。

 二人にそれを渡し、僕はその場で再び礼を示した。


読んで頂きありがとうございます。

面白ければ、☆☆☆☆☆。つまらなければ☆。付けて下さるようお願い致します。

これからの励みにもしますので、ブックマーク、感想なども下さればと願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ