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第81話 シュバルツの覚醒

建設の進行具合が8割程進んだあたりで、終戦の知らせがあった。敵国の前線基地を全て落としたところで、降伏勧告に応じたらしい。

良かった。これで国から報奨金が出るはず。うちの領主様の懐が温かくなるはずだ。領主様は一度、領都に帰還されたのだが、思っていた以上に領主邸の敷地が狭くなっていたのだろう。隣の大きな宿泊施設を見て、何とも言えない表情をしていた。


既に宿の外観は完成して、内装などの細部の施工に入っている。レース場の池も完成していて、交替で選手に練習をさせたり、模擬レースを行ったりしている。作業員は観客席や屋台の準備をしているようだ。


俺は今、風呂場にシャワーの魔道具を設置している。それにしても立派な風呂場が出来たものだ。デュンケルの見事な作品が際立っている。テーマはドラゴン一家の森だろうか。壁には鮮やかな森が立体的に描かれ、ドラゴンの口からお湯が出てくるようになっている。この風呂場全体が作品と言ってもいい素晴らしい出来栄えだ。これなら辺境伯様も満足してくれることだろう。


作業を終えて外に出ると、デュンケルが何か作っていた。どうやら看板を作っているようだ。

ん?ホテルの名称って決まってたのか?

製作中の看板を覗いてみると『ぼくたちの考えた最高のホテル』と書かれていた。


『待て、デュンケル!それはホテルの名称ではないぞ!それはあくまでも今回のプロジェクト名だ。ホテルの名称は確認してくるからまだ作らないでくれ。』


危ないところだった。折角の高級宿が看板で台無しになってしまうところだった。


結局、多くの人々が今回のプロジェクトに関わっているので、ホテルの名称は公募することになった。その結果、『ホテル・リビアスフィール』という名称が選ばれた。うむ、領都リビアの人々の想いが詰まっていそうで良いんじゃないかな。

こうしてデュンケルが看板を取り付けて宿は完成した。


一般客への宿の開放は領主様の来訪の後を予定している。2階フロアの部屋が一般客用だ。

領主様が宿泊されるのは3階のスイートルームだ。このフロア全体がスイートルームとなっている。この部屋に泊まるような人は、護衛や従者付きだろうから、その人達の部屋も同じフロアにあった方が良いだろうという配慮の結果だ。


しかし、流石に辺境伯様をぶっつけ本番で迎えるのは危険だ。

領主様が基地から帰還されたので、領主様夫妻にお試しで宿泊して頂くことになった。特別にスイートルームに泊まることを許そう。領主様のポケットマネーでは二度と泊まることはできないだろうから、存分に楽しむが良い。

領主様のご長男様一家も宿泊される。ルセル=オクスリビア様だ。今回の戦争で領主様が不在の間、領主代行を務められた。とても優秀な御方だ。既にご結婚されており、二人のお子様がいらっしゃる。この領地は将来安泰だな。


今回は従業員の動きもテストしなければならないので、俺やフィデルさんは夕食の時だけ呼ばれることになっている。でもやっぱり気になるので、気配を消してこっそりお客様の反応を伺っている。今はホテルの屋上からプールの様子を見ている。ルセル様の二人のお子様がウォータースライダーで楽しそうに遊んでいる。うむ、辺境伯様はまず使わないだろうが、お子様連れのお客様には必要だと思って作ったのは正解だったな。プールサイドではルセル様や奥様方がくつろいでいらっしゃる。プールバーも反響は悪くなさそうだな。領主様の姿が見えないが、アトリエデュンケルの美術館で鼻息を荒くしているのが想像できてしまう。そっちは見に行く必要はなさそうだな。

プールは問題なさそうだが、やはり家族客だから楽しめているという感じがする。辺境伯様は従者を除けば一人客扱いだ。昼間は街やレース場を案内するから、そもそもプールは必要なかったかもしれないが、一人客でも楽しめる要素が足りないかもしれないな。今回、遊戯施設の設置は見送られてしまった。何を設置すればいいのか思いつかなかったのだ。ダーツなんかはこの世界の人なら的を破壊してしまう人がいると思う。結局、酒場2号店にデュンケル渾身の自信作のチェス一式が置かれてるくらいになってしまった。今後の課題だな。


ホテルの従業員は問題なく対応できているようだ。この短期間でよく教育されている。シルビアさんが頑張ったのかな。

夕食の時間になったので、フィデルさんとレストランへ向かった。


「こんばんは。ホテルの出来はいかがでしょうか?楽しんで頂けていますか?」

「うむ、素晴らしい作品の数々だったぞ!やはりデュンケル氏の作品は躍動感が・・・」

「父上、黙っていてください。この度は素晴らしい宿泊施設を建設して頂いて感謝致します。家族一同、今日は楽しむことができました。辺境伯様にもきっとお喜び頂けると思います。」

「喜んで頂けて何よりです。ですが、まだこのホテルの魅力は終わりではありませんよ。さあ、食事にしましょう。」


料理長の腕はやはり素晴らしい。屋台でたこ焼き器を使ってた頃が懐かしいな。よくここまで成長したものだ。

今日は本番を想定している。俺のマジックバッグから残っていたドラゴン肉を提供した。料理長が目の前で焼いてくれる。


「貴重な食材まで本当に有難うございます。本来なら当家で辺境伯様を迎えなければならないものを。」

「ルセル様、お気になさらなくて結構ですよ。元はと言えば私達が撒いた種ですから。」


ルセル様は本当によくできた人物だな。早く領主交替しないかな。俺と年が近いこともあって話しやすかった。ルセル様の弟君であるオーベル様の話も聞けた。王都の学校で教師を務めつつ、教育の研究をしているそうだ。領地経営には興味がないらしく、滅多に帰省しないんだとか。たまに帰省すると、この街にも学校を作るべきだとうるさいらしい。教育の重要性を分かっているなんて、弟君も優秀な人物のようだ。ぜひ、学校を作って欲しい。


料理も満足して頂けたようだ。そして当ホテル自慢の風呂を楽しんでもらった。領主様はデュンケルの作品に夢中なのだろう。風呂から出てくる様子がない。俺とルセル様は先に酒場へ行って、飲みながらチェスで遊んだ。


一先ず、貴族である領主様御一行から合格がもらえたので安心した。これでいつ辺境伯様が来ても問題はないだろう。


俺は最近、レース場で選手たちの能力のチェックをしている。決して俺が賭けに勝つための研究をしているわけではない。最初はお客さんが賭けやすいように選手能力を公開しようと思っているからだ。選手を実力に応じていくつかにランク分けして、勝つ確率の高い選手が分かりやすようにする。選手の得意な戦術なども記載しておこう。最後に『予想が外れても筆者は一切責任を負いません。』と、とても小さく書いておいた。

これで『ボートレース予想師Rの攻略の手引き』が完成だ。これを受付の近くに張り出しておこう。すごく胡散臭いが、きっと誰かが読んでくれるだろう。選手紹介にもなるし、少しは賭けの参考になるはずだ。


ボートレースは一般開放して客を呼び込むことになった。田舎にできた新しい施設ということでたくさんの人が来訪された。入場だけなら無料だからね。屋台も賑わっていて盛況だ。レースは週に2日、一日に6レース行われる。それ以外の日は選手たちは交替で練習だ。みんな素晴らしいレーサーに成長してくれた。これなら見世物として恥ずかしくないぞ。


今日は俺も観戦に来ている。

今日のレースをとても楽しみにしていた。俺の推しの選手が出場するのだ。このレースの舟券は俺も購入している。俺は冷えたビールジョッキを握りしめて、観客席に座った。屋台でフライドポテトも買っておいた。


『さあ~!本日の注目のレースがやって参りました~!人気選手が集うこの一戦~!心待ちにしていた方も多いのではないでしょうか~!選手紹介を致します~!まずは1番艇~!このイケメンに虜になった女性ファンは多いのではないでしょうか~!しかも実力もトップクラス~!レンドール選手の入場だ~!ちなみに先日まで彼は私の部下でした~!』


今日の実況はキアラさんか。何であの人が実況してるんだろう。暇なのかな。


紹介される度に選手がコースを一周して、客席に手を振っている。


俺の賭け方は一発狙いだ。賭けたのは3連単に上限金額全額だ。

予想は1着:1番艇レンドール、2着:3番艇ベルンハルト、3着:5番艇フランソワだ。

レンドールは仕入れ部出身の強豪選手だ。高確率で彼が1着になるはずだ。ベルンハルトは今回雇用された新人の中で一番上達の早かったレーサーだ。そして俺の推しのフランソワ。まだまだベルンハルトには及ばないが、最近急成長してきた有望株だ。彼ならきっとやってくれるはずだ。

ちなみにこのレースにはシュバルツも出場している。こいつは知らない間に勝手に選手登録していたのだ。俺が旅に出ると不在になるため、街にいる時のみ出場する特別扱いの名誉選手だ。シュバルツも良いレーサーなのだが、勝負所で決め手に欠けるんだよな。でも街の住人からは愛されてるので人気選手だ。


いよいよレースが開始された。


やはりレンドールがトップでスタートした。見事なスタートダッシュだ。カーブでもボートが転覆しないギリギリの状態を保つあのバランス感覚。やはり彼が1着だな。3番艇のベルンハルトがその後ろに続く。うむ、2着も予想通りだ。問題は3着だな。現在の3着は2番艇のマティアス。だが、まだ勝負は分からない。フランソワは後半に勝負を仕掛けるスタイルなのだ。3周目のコーナーが勝負の分かれ目となるだろう。来るぞ、3周目。

よし!フランソワが上手くインコースを差した!これで3着が決まっ・・・なっ、何だと!4番艇シュバルツも合わせてきやがった!まさかのダークホース、いやダークウルフか。奴はこの土壇場で覚醒したというのか。フランソワとシュバルツが並んだ!


『おい!シュバルツ!減速しろ!お前はお呼びじゃないんだ!』


くそっ!この距離じゃ念話が届かない!

頼む、フランソワ!逃げ切ってくれ!フランソワーーーー!!!


結果は僅差で4番艇シュバルツが3着となった。


『シュバルツゥゥゥ!!!貴様ああああ!!!』

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