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第79話 ローレンス商会の謎

とても忙しそうなフィデルさんを捕まえて企画書を提出した。


この人は建設する宿の土地と人材の確保のために、商業ギルドマスターと交渉したり、土建屋に協力を要請したりと奔走しているのだ。


「ふーむ。ボートレースですか。王都にある競馬場のようなものですね。案は悪くないと思いますが、今から間に合いますかね?」

「他に案を思いつかないので、何とかするしかないと思います。それに競馬という似たようなものが既に存在するなら、この街でも受け入れてもらいやすいかもしれません。都合が良いです。あまりに斬新なことを始めると浸透するのに時間がかかりますから。」

「ただ、賭博はその領地の統治者が運営する決まりになっています。グラス様次第になりますね。」

「この後、領主様にも企画書を持って行くつもりです。」

「私からはこの企画に反対はありません。もう考えている時間もないですし、これでいきましょう。」


領主様はまだ戦地にいるので、ウルケルに乗って急いで基地へ向かった。もうここに来ることはないと思っていたのに、こんなにすぐ戻ってくることになるとは。


「領主様。例の辺境伯様対策の企画書をお持ちしました。」

「戦争っていいな。もっと続かないかな。」

「現実逃避しないでください。すぐに目を通して、各地への協力要請のための書状を書いてください。」

「分かったよ、全く領主使いが荒いな。どれどれ・・・」


領主様は難しそうな顔をしている。


「うーむ。この短時間で良くここまで考えたものだ。だが、この大きさの池を用意するのは間に合わないだろう。」

「普通のやり方では間に合いません。そこでシルビアさんの地属性魔法で大穴を数カ所作って、その後に土魔法で細部を整えていけば時間を短縮できると考えています。例の潜入作戦の際にコツを掴んで、破壊の仕方もある程度コントロールできるようになっていましたので。」

「なるほどな。うむ、やってみるか。面白そうだしな。」

「ただ、地属性魔法は使うと地震が起こります。領都の隣に建設するので、民衆に注意を呼びかけてください。」

「分かった。その日時が決まったらまた連絡してくれ。賭博の件も何とかしよう。この賭け金に上限を設けるというのは良いな。破産する者を防止できる。詳細は文官の者たちと相談するとしよう。」

「あとは協力が必要になりそうな各工房や商会宛の書状をお願いします。こちらがその一覧です。」

「うむ。準備しよう。しばし待て。ああ、そうだ。私のボートも作っておいてくれ。乗ってみたいのでな。」


こうして辺境伯様を迎える計画が始動した。

とにかくボートレース場を急いで造らねばならない。突貫工事だ。宿なんて後回しでいい。レースができる程のボートの操縦なんて、そんなにすぐできるようになるはずがない。レーサーには早く練習させなければならない。下手くそのレースなんて見ていても面白くないだろう。だが、短期間でそれなりのレーサーを用意する当てがある。企画書にはボートレースの運営は領主様だが、レーサーはローレンス商会の所属の者にするという条件をつけた。俺の勘が正しければ、この条件なら腕の良いレーサーを用意できるはずだ。それを今から確かめに行く。


「チャールズさん。ちょっとお時間を頂けませんか。」

「おや、ルノさん。帰ってきて早々お忙しそうですね。どうされましたか?」

「人に聞かれたくない話なので、応接室を使わせてもらえますか?」

「ええ、どうぞ。今日は来客予定はありませんので。」


応接室でチャールズさんと向かい合う。俺がずっと感じていた違和感を問う時がきた。


「チャールズさん。この商会の秘密を教えて頂けませんか?この商会の従業員の方々は何故みんな能力が高かったり、異様に能力の成長が早かったりするのか。」


ずっとおかしいと思っていた。ソフィーちゃんの急成長、料理長の料理の上達速度、倒産寸前の酒蔵がローレンス商会に買収された途端に、次々とクオリティーの高い酒を作り出したり。スイーツ部門の主任もこの一ヶ月で腕を上げていた。彼女は酒場を作り始めた頃に雇用されたのだ。たったの数ヶ月でこの成長はおかしい。他の従業員もそれぞれの分野で大きく成長している。才能があるからというだけでは有り得ないレベルなのだ。


「商会長ではなく、私に尋ねてきたということは既に検討はついているのでしょう?それなら私も確かな答えは持っていませんよ。憶測の話になってしまいます。」

「フィデルさん本人には聞きにくいですからね。憶測の話でいいです。長く商会に勤めて、一番近くでフィデルさんを見ていたチャールズさんの憶測を聞きたいです。」

「ルノさんのご想像どおり、商会長のスキルの影響だと思っています。」

「具体的にはどのようなスキルだと推測されますか?」

「他者の潜在能力を引き出すか、スキルの成長を促進させるようなスキルだと推測しています。その条件は自身の配下に置くこと、つまり商会の従業員として雇うことだと思います。なので、おそらくルノさんには効果が及んでいないはずです。」

「ここまで大人数に、それも離れている他者に対して影響を及ぼすようなスキルが有り得るんでしょうか?」

「うーん、ないわけではないと思いますよ。ほら、似たようなスキルがあるじゃないですか。勇者伝説に登場する魔王ですよ。」

「魔王?」

「スキルの名称は定かではありませんが、魔物に人族の集落を襲撃させたと言われているではないですか。その効果は世界中に及んだとも言われておりますよ。商会長のスキルは従業員という限られた範囲ですし、洗脳効果もないようですが、魔王のスキルと同系統のスキルだと思いますよ。」


なんと、フィデルさんは魔王の生まれ変わりだったか。道理でたまに笑った時に悪人面になるわけだ。


「私も雇われたばかりの頃は、今のように戦えたわけではありませんよ?どこにでもいる村から出てきた子供でしたからね。」

「しかし、とんでもないスキルですね。俺も雇われた方がいいのかな。」

「うーん、ルノさんは今のままでいいと思いますよ?何というか・・・商会という枠の中に収まるべきではない気がします。自由に好きなことをされている方があなたらしいですよ。我々従業員はこの商会に雇用されなければ、進むべき方向も見えないのです。ルノさんはそんなことはないでしょう?」

「そうですね。まだまだ作りたい魔道具がありますね。」

「それでしたら、雇用されないほうが良いですね。自由がなくなりますから。それに今もやるべきことがあったのではないですか?」

「そうでした。時間がないんだった。でもフィデルさんのスキルを利用すれば、今回の件も何とかなるかもしれません。チャールズさん有難うございました。」

「いえいえ、私もお力になれることがあればお手伝いしますよ。」


ボートレーサーは新たに雇用される人員から素質のありそうな者を選抜しよう。それと仕入れ部に最近配属された若者たちも候補に加えよう。仕入れ部の者は身体能力の高い者が多いし、ボートレーサーに向いている者がいるかもしれない。だが、ソフィーちゃんは駄目だ。彼女は既に仕入れ部の期待の新人として、この商会の未来を背負っているのだ。引き抜くことは許されないだろう。


レーサーの目処は立ったので、シルビアさんと土魔法が使える者たち、土建屋の方々を招集して作戦を伝えた。建設場所の選定は土建屋の方々に任せて最適な場所を見繕ってもらって、最終的に領主様に許可をもらうことになった。とにかく急がねばならないので、街中でもウルケルに乗ってあちこち移動した。


そして、いよいよ建設が開始される日がきた。

シルビアさんはまた地属性魔法が使えることになって、とてもご機嫌だ。今回は大きなクレーターを作るイメージで破壊してもらうことになる。最低でも6回は魔法を使ってもらうことになる、と伝えた時のシルビアさんの笑顔といったら、カメラがあったら写真を撮っておきたかった。

俺とウルケルとシュバルツはサイレンスで破壊する時の消音係だ。民衆には事前に地震が起こる時刻も告知されている。地震が起こるのはどうにもならないが、せめて破壊音がないだけでも民衆の不安は抑えられるだろう。


結果、思惑通りいい感じで大穴ができた。流石シルビアさんだ。これで土魔法だけで穴を掘るより、大幅に工事期間を短縮できる。あとは土魔法部隊が細部を整えて、川への水路や観客席、防壁などを造るのだ。


これで俺はやっと本来の自分の仕事に取り掛かれる。

レース用のボートの魔道具作りだ。そもそもこれが作れなければ、計画は全て水の泡だ。何としてでも作り上げなければならない。デュンケルと一緒に協力して完成させよう。

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