第78話 新たな仕事
砦に到着したのは早朝だったが、辺境伯様に会うことができたので直接作戦の成果を報告した。
「二人共、まずは無事で何よりだ。そしてよくやってくれた。既に敵陣の後方から一部の兵士が退却するのが確認された。おそらく破壊箇所の修復のためだろう。特に土魔法が使える者が抜けたはずだから、敵陣の防備は薄くなったと思っていいはずだ。」
「しかし、数日もすれば馬が通れるくらいの道は修復されるかもしれませんよ。」
「うむ。王国軍が到着したらすぐに奇襲をかけて攻め込むつもりだ。あとは任せておけ。そうだ、報酬の話をしていなかったな。何か希望はあるか?」
「いえ、特には。強いて言うなら早く戦争を終わらせて欲しいです。」
「私も今回の作戦は個人的に楽しめましたので、特に礼は不要ですね。それに私は商会長の指示で動いているので、礼は商会長にお願いします。」
「分かった。ローレンス商会だったな。戦争が終わったら伺おう。あそこは開拓領だったな。休暇にも丁度良さそうだ。」
「その時はぜひ、私が作った酒場にお立ち寄りください。お待ちしておりますよ。」
報告は終わったので、補給基地に戻ることにした。
ん?基地の外に土壁があるな。出発前はあんなものはなかったはずだが。
宿舎に行って休もうかと思ったら、ロドリゴさんが机に向かって何か書いていた。この人が事務仕事する姿は珍しいな。
「おう。戻ったか。お疲れさん。フリードも戻ってきてるぞ。今、商会長に伝令を飛ばそうと思ってたところでな。シルビアも報告があれば書き足してくれ。」
「こちらは問題なく任務を終えましたよ。辺境伯様には良い感じで恩が売れたと思うので、報告しておきましょうか。」
「こっちは夜に襲撃があってな。俺は疲れたから寝るぞ。ああ~、酒が飲みてえなあ~。」
そう言ってロドリゴさんは寝室に去っていった。
外の土壁は襲撃の際にロドリゴさんが作ったものだったか。それにしても国内に侵入している敵部隊はどうやって補給しているのだろうか。基地や村が略奪されたという報告はまだ聞いていない。マジックバッグがあっても、持ち運べる物資は限られるだろうし。放っておいたら自分の国に帰ってくれるのかな。
翌日、スピーダー作りをしていると王国軍が基地内を通っていくのが見えた。おそらく夕方にはファサットの砦に到着するだろう。これなら街道が復旧する前に敵陣を攻めることができるはずだ。
数日後、敵陣の襲撃が成功したとの報告が入った。辺境伯様が自ら騎馬部隊を率いて奇襲をかけたようだ。敵側に土魔法の使い手がいなかったため、騎馬隊は大活躍だったそうだ。辺境伯様のスキルで敵陣の防壁は破壊され、そこを王国軍が追撃。敵軍は基地を放棄して退却したらしい。
うーむ、攻城兵器なしで基地を落としてしまうとは。防壁を破壊するスキルとは一体・・・。辺境伯様は何かすごい固有スキルか称号を持ってるに違いない。
王国軍は敵に態勢を整える時間を与えないように、そのまま進軍を続けているそうだ。
他の戦場も上手くいっていれば良いが。防壁を破壊できるような人はそんなにいないだろうし、やっぱり敵軍の方が優勢なのかな。
それから契約期間終了までは、スピーダー作りと魔道具の修理を頑張った。山のようにあった壊れた魔道具の山も大分少なくなった。国内に侵入していた敵部隊も、辺境伯軍に討伐されたと聞いている。実に平和な日々だった。戦争はまだ続いているが、俺達は1ヶ月の契約期間を終えて領都へ帰還することになった。
そして俺は今、フィデルさんと向かい合っている。
「ルノさん。先日の伝令は伝わっていますよね?」
「はい。大変なことになりましたね。」
「エストラーダ辺境伯様から届いたこの礼状。戦争が終わって落ち着いたら遊びに来られるそうですよ。」
「はい。お礼をしたいそうなので、フィデルさんの希望を仰って頂ければ。」
「グラス様にもこの件は報告しましたよ。」
「ええ。それも聞いています。領主様は頭を抱えていらっしゃいました。」
「グラス様からは、お前らがやったことなんだから何とかしろ、と言われましたが?」
「適当に領内を案内して、観光を楽しんで頂けたら良いと思います。」
「この領内には観光する場所なんてないんですよ!田舎なんですよ!辺境伯なんて方が泊まるような宿泊施設すらないんですよ!」
「普通は領主様の家に泊まるものではないのですか?貴族の相手は貴族がするものでしょう?」
「普通はそうです。ですが、グラス様の家は辺境伯なんて身分の方が来訪されることは想定されておりません。こんなことを言うのは何ですが、領主様の家は私の家よりちょっと大きいくらいですからね。」
「ああ、開拓領として初代様の頃から苦労された過去を知っているから、贅沢はされないんでしょうね。」
「いや、趣味の彫像の買い過ぎだと思いますよ。最近はスピーダーも個人的に購入されたでしょうし。家の改築にまわす金がないんですよ、きっと。」
「はあ。それで来訪の原因になったローレンス商会が何とかしろと?」
「一応、グラス様からは協力できることはする、という言葉は頂いております。ルノさん、富裕層向けの宿を作ってください。あと、観光スポットも作ってください。」
「宿はともかく、観光スポットは無理でしょう。ネクタルの酒場に案内して酔い潰してしまえばいいですよ。」
「鬼将軍と呼ばれてる方ですよ?ルノさん、お会いしたんですよね?その人、酔い潰せます?」
「・・・酔った勢いで全員首を刎ねられるかもしれませんね。いや、ここの戦闘員の方々なら対抗できるかも。」
「とにかく!早急に対策をお願いしますよ!ルノさんは今回の件の当事者なんですからね!何とかしてもらわないと本当に首が飛びますよ!」
というわけで帰ってきて早々、仕事をすることになってしまった。辺境伯様が泊まる宿と観光スポットを準備するのが今回のミッションだ。タイムリミットは戦争が終結して戦後処理が終わるまでだろう。
はあ~、早く戦争が終わればいいのにとか思ってたのに、今はもっと長く戦争が続けばいいのにと思ってしまうよ。泣き言を言っても何も解決はしない。打開策を考えよう。
まずは宿からだ。
この領内には領都リビアにすら高級な宿はない。高級な宿は付加価値がいるだろう。港町で泊まった高級宿は窓を開ければオーシャンビューがあり、いつでもビーチで遊べて砂浜でバーベキューも楽しめた。素晴らしい宿だった。では、この領内で高級宿を用意するなら何を付加価値で付けるか。温泉でもあれば良いのだが、今から掘り当てるなんて博打はできない。うーむ、何も思いつかない。普通に設備を充実させて快適に過ごせる空間を作るしかないか。美味い飯、美味い酒、広い風呂、マッサージ、遊戯施設、デュンケルのアトリエ。よし、これで行こう。
次に観光スポットだ。
この領内は鉱山や森林といった物質的な資源は多いものの、観光資源は全く無い。領主様の話ではウルケルがこの領地の象徴になりつつあるということだったが、ウルケルは見世物ではないので却下だ。グリーンドラゴン一家の所へ案内するのも同様の理由で却下だ。ドラゴンと戦ってみたいとか言われたら困るし。
カジノはこの領地の雰囲気に合わないしなあ。辺境伯様も田舎でのんびりしたいという感じだったし。
うーん、やっぱり観光スポットは難しいな。一つだけ思いついたことはあるが・・・。これをやると今後の俺の仕事が増えてしまうかもしれない。
スピーダーレース場を作るのだ。盛り上がりそうだし、地元の人の娯楽にもなるのではなかろうか。懸念点はスピーダーが破損する度に、俺が修理しないといけないかもしれないという点だ。それに事故があると危ないな。操縦者が投げ出されたりしたら死んでしまうかもしれない。
あっ、ボートレースでいいじゃん。すぐ近くに川があるからそこから水を引いてきて池を作ろう。水の上なら多少は安全になるだろう。それにボートならスピーダーより安価に作れる。スピーダーと同じように、後方にジェットブースターの如く風を発生させる魔道具を多めに取り付けるだけでいいだろう。これでレースをさせよう。辺境伯様も乗りたいと言われたら乗ってもらえばいい。楽しめる要素はある。
よし、企画書をまとめてフィデルさんと領主様に持っていこう。




