第77話 作戦完了
デュンケルが土魔法でトイレと風呂を設営してくれた。
助かるけど今は霊獣を見られたくない。影の中に居て欲しい。でも折角作ってくれたから使わせてもらおうか。
風呂の水は無限物資のミネラルウォーターを頑張ってたくさん空けるしかないかな。即席の熱の魔道具を作って、湯船の中にしばらく突っ込んでみた。いい感じで温まってきている。シャワーもあったほうがいいかな。湯船の水を汲み上げて使う感じのシャワーなら、以前作った魔道具がある。銭湯に行く時にいつもこれを持っていくのだ。やっぱりシャワーがないと俺は生きていけない。俺好みの水圧に調整されたシャワーヘッドなのだが、シルビアさんは気に入ってくれるだろうか。
『シュバルツ、シルビアさんを呼んでくれないか。』
『主殿が呼びに行けばいいじゃないですか。私はスフレチーズケーキを味わうのに忙しいのですよ。』
『着替え中とかだったら俺が行くと不味いからな。シュバルツ頼んだぞ。』
シルビアさんにはシュバルツの影の中で寝泊まりしてもらうことになっている。今回の作戦のためにシュバルツの影の中に寝室を用意したのだ。テーブルや椅子、ベッドはもちろん、布団もできるだけ良い物を揃えた。小型の冷蔵の魔道具も設置してドリンク類も入れておいた。暗視スキル持ちだから必要ないかもしれないが、明かりの魔道具で照明もつけた。デュンケルの作業場が隣りにあるのは大目に見て欲しい。
シルビアさんにシャワーの魔道具の使い方を教えて、俺は外で警戒に当たることにした。ここは森の中だ。魔物が出る可能性があるからな。今はスピーダーは影の中だし、サングラスもしていないから不審者には見えないだろう。敵兵の心配をする必要はないから気は楽だ。
シルビアさんが出てきたので、交替で俺も風呂に入ることにする。
「お風呂に入れるとは思っていませんでしたよ。敵国に潜入中とは思えませんね。休暇中のようですよ。」
「まあ、折角デュンケルが設営してくれましたからね。明日の作戦のためにも英気を養って頂ければ。」
「明日も楽しみですね。もう旅行気分ですよ。」
「あ、お風呂上がりにアイスクリームでもいかがです?」
「有難うございます。頂きながら周囲の警戒をしておきますね。」
流石に作戦中に酒は良くないと思って自重した。シルビアさんは楽しんで頂けているようで何よりだ。敵兵の方々は今頃、補給線に頭を悩ませている頃だろうけど。
夕方が近づいてきた頃に目が覚めた。食事を済ませて作戦を開始する。
3つの補給街道の合流地点に向かうわけだが、今日は昨日ほど時間を気にする必要はない。というわけで、途中で寄り道して街道の様子をこっそり見に行ってみた。
「思ったより街道警備が厳しくなっていませんね。人手不足なのかな。」
「定期的に巡回している程度のようですね。これなら途中で何箇所か破壊できるのでは?」
「人が居ないところがあれば破壊しておきましょうか。」
結局、目的地に到着するまでに2箇所破壊しておいた。あまりにも人の気配がなかったので、罠だろうかと疑ってすごく警戒した。しかし、シュバルツに頭だけ出てきてもらって気配を探らせても、誰もいないということだったので遠慮なく破壊させてもらった。
そして目的の補給街道の合流地点なのだが、ここは流石に無人ではなかった。深夜なのだが、各街道から巡回と思われる兵の往来が割とある。合流地点には簡易の兵舎があり、見張りの兵士が複数人駐屯しているようだ。以前、上空から見た時はあのような兵舎はなかった気がするのだが、この短期間で新たに設営されたのか。この合流地点のすぐ先に補給拠点だと思われる砦があるし、騒ぎを起こせば増援もすぐに来るだろう。ここを破壊するのはリスクが大きいかもしれないな。
俺とシルビアさんは破壊予定ポイントから離れた所でスピーダーを降りて、気配を消して近づいて観察しているところだ。
「ここは無理そうですね。」
「いえ、問題ないと思います。作戦を決行しましょう。」
「えっ?結構な数の兵士を相手にすることになりますよ?」
「いえ、戦う必要はありませんよ。離れた所で強化スキルを使用して準備を整えて走って行きます。そして敵兵は無視して地属性魔法を使って街道を破壊。すぐに逃走します。ルノさんは少し離れた所でスピーダーを準備して、すぐに出発できるように待機してください。」
「しかし、姿が見られてしまうのでは?」
「ここが最後の破壊箇所ですから、顔がバレなければ姿は見られても構いませんよ。それに破壊しているのが人間であるという姿は、見せておいた方が良いでしょう?ウルケルさんのためにも。」
「うーん、でもシルビアさんが危険な目に遭うのは・・・。ちなみにブースト系スキルでフル強化した時の効果時間はどれくらいです?」
「一番効果時間が短いスキルで5分ですね。ですが、この距離なら1分もかかりませんよ。街道まで走って10秒、地属性魔法を発動して3~5秒、戻ってくる時は足場が悪いので20~30秒といったところでしょうか。」
「うーん。分かりました。決行しましょう。ですが、俺も上空からついていきます。砦が近くにありますから、サイレンスで少しでも騒ぎを抑えたいです。」
「では早速準備しましょうか。しかし、ダンジョン以外でこの規模の魔法を使うのは、これが最後かもしれないと思うと感慨深いですね。やっとコツが掴めてきたところだったんですが。」
「だんだん破壊力が上がってきている気がしてたのは、気のせいではなかったんですね。まあ、最後に有終の美を飾ってください。」
「はい!最後ですからね。最高の破壊をしましょう!」
シルビアさんの破壊の美学がよく分からないので、適当に受け答えしてしまった。有終の美とか余計なことを言ってしまったかもしれない。調子に乗ったシルビアさんの最後の魔法は敵国に甚大な被害をもたらすだろう。
逃走経路を確保してスピーダーを置いておく。シルビアさんはここから破壊ポイントまで走ることになる。俺はその速度についていけないので、先に破壊ポイントの上空高めの位置に待機しておく。
シルビアさんの準備が整ったようだ。すごい速度で走ってきた。俺はタイミングを合わせて、高度を下げるために飛び降りた。地上から5メートル位の位置で足場を作って止まった。途中で兵士の人がシルビアさんにぶつかって撥ね飛ばされているのが見えた。南無。
俺はサイレンスを使った直後、すぐにスピーダーの方へ走り出した。地上が崩れていくのが見える。よし、タイミングは完璧だった。兵士の人たちは鍛えているだろうから、地面が崩れたくらいで死にはしないだろう。
俺は必死で走った。しかし、俺は空中走行なのに、足場の悪い地上を走っていたシルビアさんの方が、先にスピーダーの元へ着いていた。急いでスピーダーに飛び乗って、全速力でその場から離れた。
「やりましたね!作戦完了です!お疲れさまでした!」
「はい!最後は納得のいく形で魔法が発動できました!」
「これで戦争が早く終結してくれればいいのですが。」
「あとは軍人の方々に任せるしかないですね。」
敵国は前線基地にもある程度の物資の備蓄はあるだろうから、今回の作戦の成果が現れるのはもう少し先だろう。
しばらくスピーダーで移動して、離れたところでウルケルに乗って砦へ帰還することにした。念の為にいつもより高度を上げて飛んでもらったから、敵兵に見られてはいないだろう。




