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第76話 街道破壊デート

領主様が会議を終えて帰ってきた。


明日、前線の砦に行って指揮官の人に会うことになったらしい。例の作戦の件だ。いよいよ、敵地に乗り込む時がきたようだ。さっさと戦争を終わらせるためにも俺にできることをするとしよう。


結局、俺とシルビアさんで行くことになった。ロドリゴさんは基地に残って護衛任務の継続だ。


「あれっ、フリードじゃないですか。どうしてここに?」

「伝令役として使っていいそうですよ。連れて行きましょう。」


伝令役は有り難いな。ウルケルは飛ぶと目立つがフリードなら問題ないだろう。

砦まではウルケルに乗っていこう。一瞬で着く。


砦の入り口で、エストラーダ辺境伯様と面会する約束になっていることを伝えて、司令部の建物に案内してもらった。


司令部の建物の前には辺境伯様と思われる方が既に待っていた。鋭い目をした強者の雰囲気を漂わせる女性だった。俺とシルビアさんが近づいていくと、突然剣を抜いて斬りかかってきた。


速い!障壁を1枚展開するのがギリギリだった。何とか防いだ直後、横からシルビアさんの拳が辺境伯様に直撃した。いや、ガードしたようだ。すごい。シルビアさんの拳をあの一瞬で防いだのか。


「腕が立つとは聞いていたが、予想以上だな。貴女の方が地属性魔法の使い手だな?霊獣使い殿のシールドも良い反応と発動速度だった。」

「なんのつもりですか?試すにしても剣を抜くのはいかがなものかと思いますが。」


シルビアさんは怒っているようだ。俺は特に気にしていない。殺気も感じなかったし、本気ではないだろう。それより辺境伯様を殴ったシルビアさんの方が不味い気がするな。貴族を殴るのはいかんよ。でも、辺境伯様の護衛の兵士の人たちは呆れてるというか、申し訳無さそうにしてる。この人はこういう人なのか。


「すまなかったな。もちろん寸止めするつもりだったぞ?だが、実力は確かめておかなければ、作戦を任せられないのでな。フフッ。まあ、そう怒るな。貴女の旦那を殺したりはせんよ。」

「だっ、旦那ではありませんっ!」

「おや、そうなのか?随分と仲が良い様子だったのでな。まあ、中に入ってくれ。早速、作戦の話をしようじゃないか。」

「あ、その前にオクスリビア子爵様より、スピーダーを1台献上するように仰せつかっております。ここに出してもよろしいでしょうか?」

「おお、例の乗り物の魔道具か。出してくれ。」


デュンケルが運んでくれた。相変わらず気が利くやつだな。兵士の人に引き渡して会議室に案内された。


破壊する予定の街道の場所を伝えて、初日の破壊を終えたらフリードを伝令に飛ばすことになった。その後、敵陣の様子を伺いながら攻撃を仕掛けてもらうことになる。

打ち合わせ中、シルビアさんはずっと機嫌が悪そうだった。どうしたのだろうか。そんなに剣を向けられたことが気に入らなかったのだろうか。


その日、暗くなり始めた頃にウルケルに乗って出発して、敵国の人気のない僻地に降り立った。

ここからは霊獣トリオは姿を見られるわけにはいかない。作戦が終了するまで影の中に入ってもらうことになる。シュバルツの看破も使えないとなると、絶対に戦闘は避けなければならないな。人間相手の戦闘で看破なしは不安要素が大きすぎる。


ここから破壊予定の補給街道までスピーダーで移動することになる。スピード勝負だ。朝が来るまでに、できれば目的の3箇所を破壊してしまいたい。破壊跡が見つかれば、すぐに街道の警備が厳しくなるはずだからだ。


フードを被ってサングラスを着用し、真っ暗な夜道を疾走する。顔を見られるわけにはいかないからな。しかし、シルビアさんと二人乗りドライブがこんな形で叶ってしまうとはな。これが敵国でなければな。戦争が終わったら普通のドライブデートに誘おう。


「このサングラスは必要なのでしょうか?」

「必要です。こういった作戦時には、絶対にないといけないのがサングラスなのです。顔を見られるわけにはいきませんから。」

「余計に不審者に見られませんか?」

「スピーダーが見られた時点で敵とみなされますから、不審者だと思われても良いのです。」

「なるほど?」


本当はスーツも着たかったが、流石に防具を外すわけにはいかないので諦めた。サングラスで潜入ミッション。うーん、胸が熱くなるな。


一箇所目の破壊ポイントに到着した。破壊ポイントは基地から離れた所を選定している。周囲に敵兵がいないことを確認して、シルビアさんは配置についた。

シルビアさんがブースト系スキルをたくさん重ねがけして、色んな色に光っている。キャノンのレンタルパワーも加わっているだろう。おそらく人類史上最高の破壊力を持つ地属性魔法が放たれる。


「では、行きます!」


全力を出す準備が整ったようだ。一応、破壊音がしないようにサイレンスを使っておいた。範囲外まで破壊されると思うので、意味はないかもしれないが。

シルビアさんが一歩踏み込んだところから前方に地割れが伸びた。次の瞬間、地面が爆発でもしたかのように破壊された。うーむ、ダンジョンでも跡地を見ていたから分かっていたが、これはすごい迫力だな。サイレンスを解除して、シルビアさんに近づいた。


「うーん。駄目ですね。やっぱり前方に操作を加えると弱まりますね。街道の上で範囲操作無しでもう一回やります。」


どうやら納得いかなかったようだ。破壊に美学でもあるのだろうか。既に土魔法でも修復するのは困難な状態だと思うのだが。

スピーダーは影の中にしまって、シルビアさんの頭上に移動した。足元の障壁も念の為に大きめに作っておいた。


「では、行きますよ!」


再度、サイレンスを使って消音する。

先程の破壊跡地の上で、全力の?地属性魔法が行使された。音は聞こえないが、先程とは違って衝撃波が吹き荒れた。一部、崩落している所もある。うむ、これは修復は無理だな。やり過ぎなんじゃないかな。迂回して通るのも無理だ。そういう場所を選定したからな。


「今回はいい感じですね!」

「いやあ~、これだけの魔法が使えたら痛快でしょうね。俺のは地味なスキルばかりなので羨ましいですよ。」

「でも普段は使用禁止なんですよ?ダンジョン以外で使える機会が訪れるとは思っていませんでした。」

「でも、これ元に戻せるんですかね?」

「・・・さあ、次へ行きましょう!」


シルビアさんはとてもご機嫌な様子だ。理想の破壊具合だったのだろう。

時間もないし、地震に気付いて人がやって来るかもしれないので、急いで次の破壊ポイントに向かうことにした。走行ルートは予め決めておいたので迷うことはないのだが、朝までに3箇所破壊するのは時間がギリギリになる予定なのだ。方向感覚スキルと地図作成スキルがなかったら、多分この作戦は実行できなかったな。


その後は敵兵に見つかることなく、何とか目的を達成した。予定の3箇所を破壊したことを文書にして、フリードに伝令に飛んでもらった。


「お疲れさまです。シルビアさん。」

「やっぱり魔法は良いですね!嫌なこともスッキリしました!」

「何か嫌なことがあったんですか?」

「あの辺境伯ですよ。ルノさんに剣を向けたじゃないですか!砦内は安全だと気を抜いていました。」

「ああ、それで打ち合わせ中、機嫌が悪かったんですね。でもあれは本気ではなかったですよ。」

「それでもです。私は一応、ルノさんの護衛もするように商会長から言われてますから。」

「そうだったんですね。心配して頂いて有難うございます。まあ、済んだことですし、今日は休みましょう。」


街道から遠く離れた人気のない森に移動して、影の中に入って休むことにする。また暗くなったら作戦開始だ。もう破壊跡は見つかっている頃だろう。街道の警備が厳しくなるはずだ。次に向かう4箇所目は3つの補給街道の合流地点。敵国の中心地に近くなる。最低目標の3箇所はクリアしたからもう十分なのだが、シルビアさんは明日の作戦もとても楽しみにしているようなのだ。無理そうなら諦めてさっさと帰るつもりだが、もう少しお付き合いするとしようか。

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