第74話 戦地へ
いよいよ戦地へ赴く日がやってきた。
街の外にローレンス商会とジャレッド先生の研究所の関係者が集まっている。今回のメンバーは革装備の整備要員の職人6名、魔道具の整備要員の俺とジャレッド先生と研究員2名。そして護衛のシルビアさんとロドリゴさんの計12名だ。
今回は1ヶ月間、基地に滞在する契約になっている。状況によっては契約の継続を求められる可能性もあるが、戦争が早く終息してくれるのを祈ろう。
早速、皆様にはウルケルの影に入って頂く。
「では、行ってきます。」
「はい、お気をつけて。無事の帰還を祈っていますよ。」
フィデルさんに見送られて俺とウルケルは飛び立った。
戦地の場所は以前確認しているので迷わず着いた。上空から戦場の様子を観察するが、以前見たときとは大分変わっている。新たに作られた補給基地もあるようだ。オクスリビア子爵家の家紋の旗が掲げられた基地はすぐ見つかった。俺達が出向する補給基地だ。しかし、降りる前に前線の様子も確認しておきたい。
最前線の砦周辺はかなり荒れていた。激しい戦闘があったようだ。砦の側面の壁は崩れている箇所があり、補修作業を行っている様子も見えた。敵軍は正面にいるのに何故側面に被害が出ているのか。奇襲でも受けたのだろうか。
敵軍の様子も見に行ってみた。
大きな金属の壁に車輪を付けたものがある。バリスタもあるな。こちらにも車輪が付いている。装甲車と戦車といったところか。大型兵器が充実しているように見える。民間人からも徴兵されていると聞いたが、この大型兵器の運搬と遠距離攻撃要員かな。前線に出しても軍人相手にまともに戦えないだろうしな。多分、遠距離兵器部隊は敵に近づくことはないから安全だ、とか言って徴兵したんだろうな。士気も高そうだし。兵士の数、兵器の性能、士気の高さ、どれをとっても敵国の方が上なんじゃないかな。やはり敵軍の方が優勢か。敵軍の指揮官が間抜けであることを祈るしかないか。
前線の状況を確認したところで、出向する基地の側に降り立った。
職人の人たちも全員影から出てきてもらって、基地の入り口へ向かった。
入り口の兵士の人にも話は伝わっていたようで、ローレンス商会の名前を出すとすんなり入れてもらえた。領都リビアの兵士なら霊獣トリオのことも知ってるよな。霊獣を連れていても何も言われなかった。
最初に案内されたのは宿舎だ。
シュバルツは与えられた宿舎が気に入らなかったようで、俺の影の中に入っていった。ウルケルとデュンケルは基地内での手伝いを志願してきた。デュンケルは土魔法と金属魔法で引っ張りだこだろうし、ウルケルも荷物運びで活躍するだろう。好きなようにさせておくことにした。
次は各々の作業場となる場所へ案内してもらった。
俺はジャレッド先生たちと一緒に魔道具整備エリアに案内された。簡易の倉庫の中に、箱詰めされた魔道具の山があった。これを整備するのか。領軍所属の魔道具師の人が、たった一人で虚ろな目をして整備を続けている。これは助けてあげないと彼が気の毒だ。腕の良い魔道具師は数が少ないのだ。
しかし、先に領主様に挨拶に行くことにする。約束のスピーダーの納品もあるからな。
シルビアさんとロドリゴさんは、基本的には領主様の指示で仕事をすることになっているので、一緒に向かうとしよう。シルビアさんは事務仕事、ロドリゴさんは土魔法を使っての基地の強化が仕事になる予定だと聞いている。敵軍が攻めてきたりといった緊急時のみ、ローレンス商会所属の職人たちの護衛を優先するという契約らしい。
二人は先に領主様に挨拶に行ってもらった。俺は指示された場所にスピーダー5台を納品してから向かった。
「領主様。先日は失礼致しました。約束のスピーダーは納品しておきました。」
「うむ。待っておったぞ。金は用意させているから後で受け取ってくれ。」
「ありがとうございます。ところで戦況はどうなのですか?」
「数の差が大きいな。防戦一方で攻めに転じれないといった感じだ。だが、もうすぐ王国軍の魔法部隊が最前線に到着するはずだから、それまでの辛抱だな。」
「この基地周辺は安全なのでしょうか?」
「いや、安全とは言い切れないな。この周辺ではまだ確認されていないが、他の補給基地周辺では野戦があったと報告を受けた。敵はおそらく山を超えて侵入したのだろうな。」
「既に国内に侵入されているのですか。」
「貴君のスピーダーを追加したのは、周辺の警戒網を広げるためというわけだ。」
俺が補給街道破壊作戦を考えたように、当然敵も似たようなことを考えるよな。敵の場合は侵攻が目的だから、街道を破壊すると自分たちが先に進めなくなってしまう。補給基地や近隣の村を襲って略奪しつつ、補給線を断つのが狙いかな。
「こちらは敵国の補給を断つ作戦は行われていないのですか?」
「防衛で手一杯で数が割けないな。少数で侵入しても補給基地は落とせないだろう?」
「いえ、基地ではなく街道を破壊するだけでいいのですが。」
「うーむ。破壊しても土魔法ですぐ元に戻されるのではないか?」
「すぐに戻らないくらいの破壊をするのです。一時的にでも補給線を断てば、その間にこちらは攻める機会が訪れるでしょう。」
「少人数で大規模な破壊工作か。爆発魔法か、強力な地属性魔法がいるな。我が領軍にはそんな人員はいないぞ。王国軍にはいるかもしれんが、まだ到着していないしな。」
領軍にはいないか。敵は既に自国に侵入してきている以上、王国軍は待っていられない。やはり自分とシルビアさんで決行するしかないかな。
「領主様、私がやりましょうか?その作戦。我が商会としても戦争が長く続くのは好ましくありません。商会長とも既に話していますが、場合により戦争に介入しても良いと言われております。」
シルビアさんが自ら立候補された。その声は楽しそうだ。地属性魔法ぶっ放したいんだろうな。
「・・・?ああ、ローレンス商会は戦力を保有しているんだったな。貴女も戦闘員だったのか。まあ、こんな戦地に派遣されるくらいだから、それもそうか。」
やっぱりローレンス商会の戦力は有名なんだな。領主様の耳にも入っていたか。
「だが、民間人を戦闘に参加させるのはなあ・・・。今の段階で我が国が認めているのは、技術者の雇用までなのだ。しかし、我軍が劣勢なのもまた事実。前線の指揮官には話してみようか。丁度、明日軍事会議で砦に行くんだよ。」
俺は先日上空から描いた簡易の敵国の街道地図を見せて、破壊する予定の場所を伝えておいた。国境沿いに主な戦場は3箇所。その3箇所へ続く街道をそれぞれ破壊する。更に奥まで潜入できそうなら、3つの街道が合流する地点も破壊する。計4箇所が破壊目標となる。
「・・・。どうしてこんな地図があるのだ?」
「先日、上空から描きました。」
「この地図は預からせてもらう。ローレンス商会はこれだから放っておけんのだ。」
「敵国の地図はないのですか?」
「昔からある村や街の位置が描かれた地図はある。問題は最近建設された補給基地の位置だな。密偵は放っているが、国境付近の基地の位置くらいだ。現在分かっているのは。こんなに敵国中心部までの基地の位置情報はないな。」
長いこと小競り合いが続いて国境が封鎖されていたから情報が少ないのかな。まあ、判断は領主様に任せよう。勝手に作戦決行しても意味ないしな。そのタイミングで攻撃を仕掛けてもらわないといけないわけだし。
それにしても早く終わらないかな、この戦争。魔導式自動販売機の研究したいんだよ。




