第72話 俺の好物完成
次はスフレチーズケーキ作りに必要になる魔道具作りだ。
まずは魔導式ハンドミキサーだ。これはジャレッド先生の研究所で販売されている魔道具を購入してきた。原理はよく分からないが、物を高速回転させる魔道具だ。こんな魔道具がどこに需要があるのだろうか?俺以外に使っている人は一体何に使っているのやら。
この魔道具を改造してハンドミキサーにする。着脱可能なステンレスの羽根?部品名が分からないが、金属魔法でパパッと作ってみた。デュンケルが塗装・整形して無駄に格好いい魔導式ハンドミキサーの完成だ。
試しに生クリームが泡立つか試してみた。問題なくホイップクリームが完成した。ちょっと味が重たい気がするから、脂肪分は少し高めかもしれない。好みの問題だからまあいいか。この品質を保つように仕入先の商会にはお願いしておこう。
次は魔導式オーブンを造ってみた。電子レンジは作れる気がしないが、オーブンならできるだろう。熱と風を発生させる魔道具でいけるはずだ。デュンケルにも手伝ってもらって、扉部分に厚めのガラスを入れてもらった。これで中身が見える。一応、完成したが実際に物を焼いてみないと分からんな。温度調整はできないし、そもそも温度が何度なのかも分からないオーブンの完成だ。
必要な物は揃った。さあ、試作してみようではないか。
砂糖は不使用で代わりは蜂蜜だ。上手くいくのだろうか。
今回は分量は適当だ。小さい計量カップを用意したので、これで何杯分かを記録していく。
牛乳と生クリームを混ぜて温める。そこにレモン汁を加えて分離するのを待つ。本当はヨーグルトも混ぜて乳酸発酵させるのが本物のクリームチーズなのだが、今回はヨーグルトは手に入らないので不使用だ。ヨーグルト無しだと、カッテージチーズ寄りのクリームチーズといったところだろうか。まあ、美味しければ何でも良いのだ。
分離したら水分を切ってクリームチーズは完成だ。練ってみたものを食べてみた。うむ、濃厚なクリームチーズだ。クリームチーズは手作りだと、水分の切り方で固さの調節ができるのが良い。今回は柔らかめの仕上がりにした。
卵白に蜂蜜を加えて魔導式ハンドミキサーでメレンゲを作りながら考える。
人は何故卵白だけをこんなに混ぜようと思ったのだろうか?最初にメレンゲを作った人は、みんなが目玉焼きを食べているのに、何故一生懸命卵白だけを混ぜ続けたのか。何事も最初に始めた人はすごいなあ。
どうでもいいことを考えている間にメレンゲはできた。蜂蜜でもできるんだな。ハンドミキサーもいい感じだな。
その後は記憶を頼りにスフレチーズケーキのレシピ開発を行った。
オーブンの天板に水を張っておく。型に生地を流し込んで、浸水しないようにアルミ皿にのせる。オーブンに入れて1時間程蒸し焼きにしてみる。いい感じで膨らみつつ、焼き目が付いてきている。うむ、甘い匂いがしてきたな。俺の直感スキルが告げている。これは成功すると。
1時間経過したところでオーブンを停止させる。少しオーブンの扉を開けて覗いてみるが、問題はなさそうだ。期待に胸が膨らむが、焦ってはいけない。ここでオーブンから出してしまうと急な温度変化で萎んでしまうのだ。オーブンを停止してしばらく経ってから中身を取り出した。
完璧だ。昔、俺が作った時は表面が割れたり、ちょっと焼き目が付きすぎたりしていたが、今回はすごく美しい見た目だ。謎の果物のジャムを水で溶いて表面に塗る。スフレチーズケーキの完成だ。
早速、カットして味見してみる。うむ、美味い。食べたかったスフレチーズケーキで間違いない。砂糖なしでも問題ないな。蜂蜜っぽさはそんなにしないかな。甘さ控えめのが好きだから、この分量でいこう。完成したレシピは料理長に渡しておくか。
よし、シルビアさんを呼んで来よう。仕事中かもしれないけど、新メニューの味見もまた仕事なのだ。
呼びに行こうと思ったら廊下から部屋を覗いていたようだ。他にもフィデルさんとソフィーちゃんなど、有象無象がいるようだが放っておこう。
「シルビアさん!新メニューが完成したので、一緒にお茶しませんか!」
「頂きますが、何故ここでメニューの開発をしているのですか?」
そう!俺は今、ローレンス商会本社の応接室でスフレチーズケーキを焼いたのだ!
「いやあ、調理場が戦場のようになっていたので。ここは隣に給湯室がありますし、今日はここを使う予定もないと聞きまして。」
「私が許可したのですよ。それより出来たてを頂きましょう。」
フィデルさんが割って入ってきた。シルビアさんは呆れつつも、紅茶を淹れてくれた。
「んむ~。甘くて美味しいです~。食べたことのない食感。幸せです~。」
ソフィーちゃんが美味しそうに食べている。フィデルさんの隣で。若手が商会長の隣に座って緊張しないのだろうか。やはり彼女は大物だな。流石ドラゴンバスターだ。
「さっぱりしていて美味しいですね。紅茶とも合いますね。食べても原材料が全く検討がつかないので、他店に真似されることはありませんね。」
「ふーむ。次は甘味ですか。ランチタイム以降も集客できそうですね。一度だけ王都に行ったことがあるのですが、このような甘味はありませんでしたね。」
「酪農が盛んなこの領地だからこそ作れるのですよ。それでもコストはかかりますし、手間も時間もかかるので販売価格は高価になると思いますよ。」
「富裕層向けですか。」
「いえ、これなら一般向けでいけると思いますよ。偶に贅沢したい人もいるでしょうし。毎日食べるような物でもありませんからね。」
「これをメニューの柱にして、他に安価な甘味も用意すれば問題ないでしょう。ただ、調理場があの状態ですからね。メニューを増やすのは酷かもしれません。」
「甘味専門の店舗を用意するか、ランチタイム以降の時間限定で販売するかですね。」
「ああ、そうだ。もう一品作るんだった。すぐできるので、ちょっと待っててください。」
パフェはあまり興味がないので適当に作った。ざっくり形にして、後は若者たちに任せようと思う。
器はデュンケルに作ってもらっている。パフェ用のガラスの器だ。器だけ本気さを感じる一品が完成するだろう。
穀物類のシリアル、柔らかめのクリームチーズ、泡立てた蜂蜜入り生クリーム、フルーツなどで層を作った。その上に牛乳、生クリーム、蜂蜜、卵で適当に作ったアイスクリームを乗せて、ジャムベースのフルーツソースをかけた。後はフルーツで綺麗に飾って完成だ。アイスクリームは事前に作って魔導式冷凍庫に入れて持ってきていたのだ。
うん、見栄えもいいんじゃないかな?俺はセンスがないから、こういう飾るような盛り付けはできないのだ。デュンケルだったらできるだろうけど、彼はアトリエの活動で忙しいのだ。
「できました。パフェです。俺はセンスがないので、飾り付けが上手な人に作らせてください。」
「ふーむ。おもしろいですね!見た目も良い!これも高額商品ですね?」
「そうですね。安価な商品は俺には作れません。知識が偏っているもので。」
俺は自分が食べたいと思ったものしか作ったことがない。クッキーの作り方も知らないくらいなのだ。いや、材料は分かるんだが、分量比がわからないのだ。どうしても作れと言われれば、試行錯誤すれば作れると思うが、興味がないのでやりたくない。
「冷たくて美味しいです~。幸せです~。」
ソフィーちゃんはスフレチーズケーキを食べ終えて、パフェに突入した。他の人にはアイスクリームだけ食べてもらった。
「うーむ。これは甘味で別店舗を作ったほうがいいような気がしてきましたよ。」
「今日は暑いので冷たいものもいいですね。まあ、時間限定の販売で様子を見てからで良いと思いますよ?人手も足りませんし。」
「また新規雇用しますかね・・・。缶詰も売れてきているし、店員も足りないんですよね。」
確かに飲食事業は人手がかかりそうだな。自動販売機でもあれば缶詰の販売はできるだろうけど。研究してみようかな、魔導式自動販売機。
スフレチーズケーキはあと2カット残っている。ソフィーちゃんが欲しそうにしているが、これは飲食部門の従業員に食べてもらわねばならない。レシピと一緒に持っていって、料理長たちに食べてもらった。丁度、店が暇な時間帯だったので、そのまま作り方を教えておいた。これはレシピだけ渡して作らせるのは無理だからな。クリームチーズの水気を絞り過ぎないようにとか、メレンゲの固さはこれくらいでとか、生地の混ぜ方も混ぜ過ぎないようにとか、付きっきりでコツを教えておいた。
従業員の中にセンスの良さそうな女の子がいた。彼女は最初の試食を食べた時から、とても興味を持って熱心に話を聞いていた。パフェも作ったのだが、飾り付けも上手だった。俺の独断で彼女をスイーツ部門の主任に任命した。
食べたかったスフレチーズケーキも食べれて満足だ。魔導式ハンドミキサーとオーブンを量産して、約束していたシュバルツ達の分を作ろうか。
俺の仕事は終わった。これでしばらくのんびり過ごせそうだ。




