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第66話 偽善活動

海辺の高級宿に泊まって改めて今後の予定を考えた。

今回は物資の補充をしつつ、敵国を消耗させる策として敵国での仕入れを考えたわけだ。結果は失敗だったが。

今後の目的を物資の補充に絞ることにしようと思う。

食糧(肉限定)の補充ならこの港町の海ダンジョンで乱獲するのが最も良い手段か。他の物資は全く別の他国で仕入れるかな。ウルケルが仲間になって行動範囲が一気に広がったから、もう何でもできそうな気がしてきた。食費と酒代がすごいけど、それに見合う働きをしてくれている。そう考えるとシュバルツは対費用効果が見合っていないような気がしてきた。

『主殿、今なにか失礼なことを考えませんでしたか?』

『いいや、そんなことはないぞ。シュバルツ、お前は唯一のモフモフ成分だからな。マスコットとして頑張ってくれ。』

『何を仰っているのか意味が分かりませんが、すごく馬鹿にされたような気がしますよ。』

うちのメンバー唯一のモフモフなのだ。この役割は他のメンバーでは務まらないのだ。


ひとまず、フィデルさんに戦闘員を借りれないか相談だ。

「フィデルさん、暇なので海ダンジョンで肉の確保をしたいです。」

「確かに食糧の確保は今は優先度が高いですね。では前回のメンバーに準備させましょう。出発は二日後にしましょうか。」

酒場のマスターは不在でもバーテンダーは他にもいるから大丈夫だろう、とのことだ。ただ、不安があるとすれば防備の問題だ。実は醸造所に侵入しようとした輩が何人かいたらしい。優秀な斥候であるルーベンさんが気付いて排除したそうだ。ルーベンさんが酒場のマスターに就任したのは防備の面でも適任だったようだ。ルーベンさん不在の間は戦闘員複数名で警備に当たることになる。大きな建物だから警備も難しそうだな。


出発までの間に海の向こう側の国から物資の補充をすることにした。フィデルさんからも商会の分もよろしくとおつかいを頼まれた。

海向こうの国を選んだ理由はウルケルが渡った経験があるからだ。数百年前のことらしいが、飛べば半日もかからなかったはずと言っていた。まあ、頻繁に交易が行われているくらいだからそんなに遠くはないだろう。


うん、すぐ着いた。やっぱり空路は早いね。空を飛ぶ魔道具の乗り物は、この世界のためにもやっぱり開発した方がいいかもしれない。魔道具師としての目標にしようかな。


国が変われば街並みが随分変わるな。独特な匂いもする。

やはりと言うべきか、港に並んでいる船を見るだけでも、この国の技術力はエルマール王国を上回っているのが分かる。交易品を扱ってる店で蒸留酒や醤油を見た時から予想はしていたが、この国と戦争になったら多分勝てないな。そう言えばこの国の名前を聞いてなかったな。


露店を見て回っているとエルマール王国では見ないような野菜や料理が多いな。香辛料専門店もある。砂糖もあった。まあまあいいお値段がするけど金ならある。砂糖の使い道を思いつかないが買っておこうか。

いなり寿司を油で揚げたみたいな見た目の料理がある。一つ買って食べてみた。芋かな?美味いからたくさん買っておこう。緑色のソースがかかったお好み焼き?いやコロッケか?ナッツが乗ってて食感もいいな。よく分からんが美味いのでこれも爆買いだな。

交易品を扱ってる店でも見たが米もあるな。おっ、この露店はカレーかな。スープカレーと言った方がいいか。こっちの露店のカレーは真っ赤だな。俺は辛いものはあまり得意ではない。ん?試食してみろって?店の人に小皿を差し出されたので、食べてみるとそんなに辛くなかった。トマトカレーかな?これは美味いな。よし、全部買おう。

その後もダンジョンでの食事用に買い占めてまわった。食料品店でフィデルさんから頼まれたおつかいも完了だ。


金属物資も買いたかったが断念した。港町だからか、金属類は結構値段が高かったのだ。内陸の街まで行くとウルケルが目撃されて問題になりそうだからやめた。紋章入りの幕の効果はエルマール王国限定なのだ。高度を上げれば見つからないだろうけど、着陸する時にすごく気を遣うのだ。友好国で不安を煽るようなことはしたくない。


さて、街を出て人のいない海岸へ移動してみんなで飯を食うか。

移動していると貧民街と思われる場所があった。どこぞの治安の悪いダンジョン都市でもちらっと見えたが、この街にもあるんだな。だが、ダンジョン都市の貧民街とは決定的に違うことがある。住民の人たちの表情が明るいのだ。今日、街を歩っていても親切な人が多かった。ただ、妙に人が多いんだよな。市場なんて人がごった返していて、気配察知や危険察知スキルなんて意味を成さなかったくらいだ。

すると、後ろから声を掛けられた。うん、ずっと後ろから見られてる感じはしてた。

「おっちゃん、さっき買ってたのは全部おっちゃんが食べるの?」

「俺はおっちゃんではない!お兄さんだ!」

26歳はお兄さんのはずだ。

「あ、ごめんね。お兄さんはあんなにいっぱい食べるの?」

声を掛けてきたのは10代前半くらいの3人の子供たちだった。2人が大きな皿を持っている。

「たくさん食べる従魔がいるんだよ。買い占めたから迷惑をかけてしまったかな?」

「うん、いつものお店で買ってくるように言われてたんだ。」

うむ、買い占めが迷惑行為であるという自覚はあった。お店にも常連さんがいらっしゃるだろうし、商売は売れればいいというものではないはずだからな。

「それはすまなかったな。代わりと言ってはなんだが、俺が持ってる食べ物で良かったらあげよう。」

「え、くれるの?」

「どこかに人の少ない広場はないかな?」

「こっちに広場があるよ!ついてきて!」

案内された場所は貧民街の中の広場だった。8人分必要らしいので、二つの大皿にカツ丼4人分ずつを乗せながら話を聞いてみた。彼ら8人は家族ではなく、全員戦争孤児だった。数年前に戦争で村を襲撃されて、生き残った子供たちが避難してきたそうだ。この貧民街はそういった人たちが多いらしい。この港町は仕事が多くあるので、何とか食っていくことはできているようだが、10歳の子まで働いている有り様だ。この世界は子供が働いていること自体は珍しくないが、それは家の仕事を手伝っている場合だ。ここの子供たちは賃金を得るための仕事をしている。児童労働だ。子供は教育を受けて見識を広げて、自分のやりたい仕事を見つけるのが理想なのだろうが、この世界では教育機関がほとんどない。彼らは割と楽しそうに生きているようだが、食べていくのが精一杯だろう。何か仕事を与えてみるか?

俺が彼らに仕事を与えるのは彼らの人生を決めつけてしまっているようで、何とも複雑な気分になる。しかし、偽善でもいいから何か手を差し伸べてあげるべきなのだろうか。

子供たちは綺麗な貝殻のネックレスを身に着けていた。

「その貝殻のネックレスは君たちが作ったのかい?」

「違うよ。まだ働いていない小さい子たちが作ってくれたんだ。」

子供が作ったにしてはよくできているじゃないか。でも商品にはならないな。

「その貝殻の裏側が光ってるものを集めることはできるかい?」

「うん、できると思うよ。小さい子達は海で遊んでることが多いから。」

「俺はこれからダンジョンに行かないといけないんだが、10日後の夕方にまたここに来る。その貝殻を買い取りたい。その大皿で10杯分までなら買い取ろう。大皿一杯分につき、大銀貨1枚払う。」

「大銀貨?そんなにくれるの?分かった、みんなに伝えとくよ。」

「念を押して言っておくが、裏側が光っているものだけだぞ。光っていれば欠けているものでもいいからな。」

貝殻拾いをさせるくらいなら児童労働には当たらないだろう。普段から遊びでやってるみたいだし。

貝殻の裏側の光ってるものは螺鈿細工に使えるはずだ。螺鈿細工がどんなものか教えてやれば、きっとデュンケルは喜んで作りたがるだろう。作風の幅が広がるな。

俺にできる彼らへの偽善などこの程度だ。大勢いる避難民の中のたった数人にちょっと小金を与えるだけでしかない。他国の孤児の面倒なんて見切れない。俺は空を飛んで来た不法入国者だから目立ったことはできないしな。

話を聞かせてくれたお礼にとバスケットにアンパンとチョコクロワッサンを山盛りにして、もう一人の子供に持たせておいた。


どこの国でも戦争はあるんだな。エルマール王国でも戦争で家を失う人たちが出てくるのだろうか。やはり、敵地の補給街道破壊作戦は行うべきなのか。いや、これは一般市民の俺が考えることではないな。でも、領主様にまた会うことがあれば教育機関の設立は陳情してみるか。子供が自由に自分の人生を選べる未来を創ってもらわねば。

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