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第60話 ドラゴン一家

森を進んでいくにつれて魔物の気配が濃くなってきた。

空中移動で木に身を隠しながら進み、夜になると影の中で休む。森に入ってからもう一週間は経っただろうか。未だにドラゴンらしき魔物は見えない。かなり大きいはずなので、すぐ見つけられると思ったんだが。

『主殿、この先にかなりの数の魔物の気配がありますよ。多分、魔物の集落ですよ。』

『さっきからやたらオークに遭遇するのはそれでか。オークの集落だろう。面倒だから迂回するか。』

シュバルツのナビゲートを頼りに慎重に進んでいる。

『主殿、今度はそれなりに強そうな気配ですよ。周辺にも気配をいくつか感じるので迂回は無理そうです。』

『討伐するか。ダンジョンみたいに戦利品がドロップしてくれたらどんどん討伐するんだがなあ。』

ここまで倒した魔物は魔石だけ回収してほとんど放置してきている。

『あれはバーサークベアだな。』

『はい。頑強Lv5、暗視Lv3、怪力スキルもあるので、接近する際は気をつけてくださいね。瀕死に追い込まれると更に強くなる固有スキルもあるようですよ。』

『一発で仕留めるのが理想か。デュンケル、今回は頭を狙ってみてくれ。まずは俺が奇襲をかける。』

『主殿、周辺の気配察知も怠らないように気をつけてくださいね。サイレンス使いますよ。』

『ああ、乱入には気をつけるよ。じゃあ、行ってくる。』

やっぱり森の中は隠れやすいから頭上からの奇襲が楽だな。

ウィークポイントからの強打を一発入れて、すぐに空中へ退避する。いい感じに決まった、敵は動きを止めている。デュンケルのバリスタ砲は逸れて敵の前足の付け根のあたりに深く刺さった。敵は大きく咆哮を上げているようだが、サイレンスで全く聞こえない。俺が注意を引き付けつつ、デュンケルの二射目を待つ。しかし、二射目を装填したデュンケルが影から出てきたのを見つけると、敵はすぐにそちらへ向きを変えて走っていってしまった。

『まずい!デュンケル!影に戻れ!』

デュンケルは構えたまま動かない。ギリギリまで引き付けて至近距離から発射されたバリスタ砲は敵の頭部を吹き飛ばした。当たる直前にシュバルツがウィークポイントを使ったようだ。

『やれやれ、無茶するなよ。ヒヤッとしたぞ。』

デュンケルはサムズアップしている。

『シュバルツもよく合わせてくれたな。お陰で血抜きするのが楽になるよ。』

『血抜きするのですか?魔物が寄ってきますよ?』

『うむ、血の匂いでドラゴンが来るのを期待するとしよう。』

デュンケルが土魔法で穴を掘ってくれたので、頭のなくなったバーサークベアを念動力スキルでひっくり返した。俺はしばらく木の上に隠れて様子をみることにした。


血抜きする間、魔物は数匹寄ってきたので討伐した。しかし、ドラゴンは現れなかった。

『そんなに上手くはいかないか。まあ、戦利品ゲットだ。』

バーサークベアを大型の冷凍の魔道具に放り込んで進むことにした。


更に数日進んだ。

そういえばこの森を抜けるとどこに出るんだろうかと考えていると、遠くに建造物のような物が見えた。

近づいていくとシュバルツが警告してきた。

『主殿、この先に大きな気配がありますよ。』

『慎重に近づくぞ。あの建造物らしきものも興味があるな。』

近づくにつれて何かすごい存在感を放つものがいるのが俺にも感じ取れた。

木に身を隠しながらそっと見てみる。

間違いない、ドラゴンだ。話に聞いていたとおり緑色だ。大きさは20~30mくらいあるだろうか。背中しか見えないがすごい迫力だ。森が途切れてこの辺り一帯が開けている。その奥にある建造物は遺跡跡だろうか。崩れている箇所があるが美しい建物だ。ドラゴンの側には綺麗な花畑が広がっていて見事な景色だ。しかし、この美しい景観の中にドラゴンがいるのはミスマッチな気がする。

『シュバルツ、看破は届くか?』

『もう少し近づかないと駄目ですね。怖いのでもう帰りたいのですが。』

『寝ているようだから大丈夫だろう。ほら行くぞ。』

いつでも影の中に逃げれるように準備して、瓦礫の影に隠れながら慎重に近づいていく。

『見えました。グリーンドラゴン。頑強Lv8、風魔法Lv10、水魔法Lv7、植物魔法Lv10、その他身体能力向上系スキル多数有り。どれも高レベルです。固有スキルにドラゴンブレス、飛行スキル。看破できませんが、何か称号を持っています。これは駄目です。化け物です。早く帰りましょう。』

『シュバルツ。このドラゴン、既に俺達の気配に気付いてるよな?』

『ええ、確実に気付いています。この化け物にとって我々など気にするまでもない虫けら同然ということなのでしょう。私は気高い霊獣だというのに失礼な者です。霊獣に対する敬意が欠けていると思います。でも好都合なので早く撤退しましょう。』

『デュンケル、お目当てのドラゴンだぞ。背中しか見えないけど。』

デュンケルが影から出てきた。ドラゴンもだが周囲の綺麗な景色も見て、感動しているようだ。そして、片手を上げてちょっと正面も見てくる、と言ってスタスタと歩いて行った。

『ちょっと待てええええ!デュンケル!戻ってこい!』

デュンケルはサムズアップして大丈夫!と言っている。

あいつはサムズアップ以外のハンドサインを知らないのか?今度他のハンドサインも教えておかないと。いつか「アイルビーバック」とか言っていなくなってしまいそうだ。頼むから無事に戻ってきてくれよ。

デュンケルはドラゴンの正面に回り込んで見えなくなってしまった。

そんなにドラゴンを題材にした作品を作りたいのか。俺は命を賭けてまで作品を作ろうなどと思ったことはない。俺とデュンケルの作品の差は技術やセンスだけの違いではなかったということか。

『主殿。デュンケルはもう駄目です。助かりません。早く帰りましょう。』

『いや、デュンケルはきっと戻ってくる。ゴーレムなら捕食対象としては見られないはずだ。信じて待とう。』

しばらくするとデュンケルはドラゴンの周りを一周回って戻ってきた。その後ろには小さいドラゴンが三匹付いてきている。小さいと言っても全長5~10mはありそうな大きさだが。

『主殿。デュンケルが捕虜になってしまったようですよ。きっとゴーレムは食べれないから私と交換しろとか言ってくるんですよ。私はまだ食べられたくないですよ。むしろドラゴン肉を食べたいですよ。』

シュバルツはもうパニックに陥っているようだ。

『落ち着け、シュバルツ。今のところは敵意は感じない。様子を見よう。』

俺とシュバルツは影の中から頭だけ出してデュンケルを待った。

戻ってきたデュンケルはビールが欲しいと言ってきた。何だかよく分からないが、影の中にあったビールを樽ごと差し出した。もっと欲しいと言われたので、さらに樽を二つ差し出した。

小さいドラゴンたちは樽を持って去っていった。どうやら俺は助かったらしい。

『デュンケル、何があったんだ?お前はドラゴンと会話ができるのか?』

デュンケルは喉が渇いていそうだったからあげただけだと言っている。喉が渇いてる奴に酒飲ますなよ。

『ドラゴンは酒飲んでも大丈夫なのか?』

『主殿、状態異常耐性スキルがあったので問題ないと思いますよ。』

その時、大きなドラゴンが動いてこちらを見てきた。よく見ると大きなドラゴンの向こう側にも同じサイズのドラゴンがもう一匹いた。大が二匹と小が三匹か、家族でここに住み着いているのかな。

依然、敵意は感じない。大丈夫なはずだ。

『シュバルツ、昼寝の邪魔をして悪かったと伝えてくれないか。』

『魔物と会話なんてできませんよ。しかし、襲ってくる気配がありませんね。こんな魔物は初めて見ましたよ。』

大きなドラゴンは建物の方を向いてギャーッと鳴いた。すると一番小さいドラゴンが建物の方に向かって樽を持ったまま飛んでいった。


建物の中にまだドラゴンがいるのか?

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