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第59話 ドラゴン探しの旅へ

酒場オープンまではデュンケルとアクセサリーコーナーの商品作りを頑張った。シュバルツはずっと酒場に入り浸って試作品のおつまみを食べている。暗いし静かだから影の中にいる感覚なのかもしれない。

ダンジョン産の宝石を使った商品はデュンケルに任せた。低価格帯のアクセサリーのデザインを俺が考えて形作り、デュンケルがそれを元に綺麗に仕上げるといった感じだ。デュンケルの金属加工技術はやはり見事だ。今、髪飾りを作っているようだが、こんなに繊細で複雑な加工は俺にはできない。

男性用の商品も作ったがあまりデザインが思いつかなかった。デュンケルもイメージが沸かないようで困っていた。女性用のものは次々と商品を生み出していくんだがな。見事な彫金細工の手鏡まで作ってるし。

仕方がないので商品の少なさを誤魔化すために、女性用の物と対でペアルックにしたり、サングラスを置いてみたりした。卓上サイズの霊獣たちの像も置いてみた。

うむ、結構いい感じになったぞ。ワイバーンを霊獣たちが取り囲んで戦ってるみたいだ。


ネクタルの酒場のリハーサルの日がやってきた。

結果としては、大体想像していた通りの反響だった。

キアラさんはルーベンさんを見る度に必死で笑いを堪えているし、ロドリゴさんはカウンターで満足気に飲んでいる。キャノンも自身の等身大サイズの像を見て満足そうだ。フィデルさんも今までにない酒場ができたと、大変満足されているようだ。

ただ、アクセサリーコーナーに関しては、フィデルさんは不安を感じているようだった。以前デュンケルが作った大きなワイバーン像は売ってくれという声が結構あったらしい。俺やデュンケルに負担をかけないようにするために断っていたそうだ。今回の卓上サイズの像はすぐに売り切れる可能性が高いとのことだ。

デュンケルは俺が寝てる間は暇だから、一部の商品に限り量産してもいいという答えを返してきた。ただ、大型の作品や本気で作った作品は一点物にしたいとのことだ。低価格帯のアクセサリーと卓上サイズの像は量産することになった。一点物はとんでもない高額の値段に変更された。あれはアクセサリーというより、美術品レベルだからなあ。フィデルさんも店にあるだけで話しのネタになるから、売れなくてもいいと言っていた。

更に、富裕層向けの酒場を混雑させないため、向かいの本店の飲食ブースも夜営業して、新作のビールはそちらでも提供することになった。一般客はこちらにご来店頂こうというわけだ。


そして満を持して酒場オープンの日を迎えた。

予定通り酒場に行列ができることはなく、フィデルさんが招待した懇意にしている方々がメインのお客様となった。本店の飲食ブースは大変混雑しているようだが、きっと料理長が頑張ってくれているはずだ。


俺も気になってこっそり様子を見ていたのだが、反響はなかなか良さそうだった。フィデルさんが自信満々といった感じで、招待したお客様を迎えて挨拶している。

俺の作った酒場はこの世界の人にも受け入れられたようだ。安心した。新規事業の立ち上げってすごく不安になるね。

デュンケルの作品コーナーもちらほらと売れているようだ。あんまり売れても困るので丁度いい感じかな。ただ、みんな足を止めて見入っている。間違いなく話のネタになっていることだろう。


酒場が順調なスタートを切ったのを見届けたので、次は二度目のダンジョン出張になるのかなと思い、フィデルさんに確認してみた。しかし、ダンジョン出張はしばらく先になりそうだと言う。何でも至急調べなければならないことができたらしい。


しばらく自由に過ごせそうなので、俺は次の旅の計画を練ることにした。

訓練場で冒険者の人たちからいろんな話を聞いていて、行きたい場所、見てみたい場所はいくつかあるのだ。

大岩をくり抜いたり、岩壁を掘り進めたりして作られた地下都市と呼ばれる場所。魔道具作りが盛んな魔道具の聖地と呼ばれる街。空に浮かぶ島。巨大な湖に浮かぶ水上都市。国内だけでも行ってみたい場所はたくさんある。どうしようかなと迷っているとデュンケルがやって来た。その手には勇者伝説の絵本がある。デュンケルは新しい作品のイメージを養うためにいろんな本を読んでいる。シュバルツもよく一緒に本を読んでいる。その中のとあるページを指差して、これを見に行きたいと言っている。

指差しているのは真っ赤なドラゴンだった。

いやいやいや、それは無理だよ。確か秘境のような奥地や高い山の頂上付近に生息していると言われているみたいだけど、具体的にどこにいるのか分からんよ。それに人類の生存圏内に現れれば国軍が討伐に乗り出すような魔物だぞ。危険過ぎるよ。

どうやらデュンケルは作品の題材にするために本物を見たいらしい。作品のためなら命も賭けるのか。

え?遠くから見るだけでいいからシュバルツがいれば大丈夫だって?うーん、分かったよ。調べるだけ調べてみるよ。まあ、俺もドラゴンには興味はあるからな。遠目で見るだけなら大丈夫か。

どうやって生息地を調べようか。まずはシュバルツに聞いてみるか。以前はあちこち移動してたらしいし。

シュバルツは酒場の霊獣用個室で今日も飲んだくれているはずだ。


『シュバルツ、やっぱりここにいたか。』

『おや、どうされましたか?主殿。一杯飲んでいかれますか?』

『真っ昼間から酒は飲まんよ。聞きたいことがあるんだ。ドラゴンを見たことはないか?』

『ドラゴンとは何ですか?』

『これだ。この本に描いてあるこの魔物だ。』

『どれどれ・・・うーん、これは大きな魔物なんですよね?翼もあるようなので空も飛びますよね?』

『そうだ。どれくらいの大きさかは分からんが、かなりの大型の魔物だと思われる。種類によっては空も飛ぶと思うぞ。』

『この描かれているものとは違いますが、似たようなものは見たことがありますよ。と言っても空を飛んでいるのを遠くから見ただけですが。私が見たのは緑色でした。大きさはワイバーンより遥かに大きかったので、よく覚えていますよ。』

『おお、本当か。そこまで案内してくれ。デュンケルがドラゴンを見たいと言ってるんだよ。』

『結構昔のことですからね、正確な場所までは覚えていませんよ。それにここからそれなりに距離も離れていますよ。』

シュバルツから詳しく話を聞いていき、大体の方角とおそらくこの辺だろうという場所の当たりはつけた。俺がこの世界に来た時の場所の方角だ。この子爵領は内陸に向かって開拓された領地だが、まだまだ深い森が広がっている。おそらくその奥地に緑のドラゴンの生息地があるのかもしれない。その方角の一番最後にある街に行って目撃情報がないか聞いてみるか。地図にはトラッキアの街と書いてある。スピーダーなら2日で行けるかな。


デュンケルはしばらくは商品の納品は問題ないということなので、早速トラッキアの街へ向かった。

すごく頑丈そうな壁に囲まれた無骨な雰囲気の街だった。森が近いから魔物を防ぐためなのだろう。

冒険者ギルドに行き、ドラゴンの情報収集することにした。受付の人に尋ねてみると、奥地まで行った高ランク冒険者の人たちからの報告で空を飛んでいるドラゴンの目撃例が数件あるということだ。目撃されたのはいずれも緑のドラゴン。シュバルツの証言とも一致する。目撃された地点を教えてもらって地図に書き込んでおいた。森の中をこの距離進むのは相当時間がかかりそうだ。だが、空中走破すれば数日で辿り着けるだろう。生息地はそこよりももっと奥だと思われる。行けるところまで行ってみるか。


森の手前には村があった。開拓村といったところかな。強そうな冒険者パーティも何組かいる。森の奥地は貴重な薬草の宝庫らしく、割の良い採取依頼があるそうだ。冒険者の人たちは親切にもその薬草の絵が描かれた資料まで見せてくれた。その薬草とそっくりな植物が10種類くらいあるらしい。この葉脈の色が微妙に水色で、葉の付け根が~と語ってくれたが、そんなもん分かんねーよ!冒険者ってのは植物学者なのか?やっぱり冒険者はすごい人たちなんだな。この広大な森の中から特定の植物を探し出すなんて俺には無理だ。

話はとても面白かったので、お礼にネクタルの酒場謹製のソーマをプレゼントした。ついでに最近オープンしたすごい酒場なんです、と宣伝しておいた。高ランク冒険者は金持ちなはずだからな、金払いも良いだろう。


森に入ってからは順調に進み、ドラゴンの目撃情報のあったらしい場所あたりまでは問題なく辿り着いた。道中に魔物にも遭遇したが、もっと魔物密度の高い海ダンジョンを経験していたので、そこまで苦労はしなかった。しかし、ここからは情報が全く無い。ドラゴンの生息地はもっと奥地だろう。ドラゴン以外の脅威度の高い魔物もいる可能性もある。デュンケルの新たな作品のためにも頑張ってやろうではないか。

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