第47話 誰が為に
夜、ローレンス商会の裏の訓練場を借りて大宴会を開催した。
ジャレッド先生や酒蔵の従業員、商会の若者たち従業員も呼んで、お土産の海産物を盛大に振舞った。この日のためにバーベキューコンロも増産しておいたのだ。バーベキューコンロは宴会後に商会に買い取ってもらう約束になっている。製作はデュンケルが主に頑張ってくれた。
新鮮な海産物など初めて食べるという者がほとんどで大変好評だった。ドワーフの皆様方が缶ビールを飲みまくってくれたので、空き缶が大量に手に入った。大量に貯めこんでいた焼き鳥の缶詰の中身も、鍋で温めておいたら綺麗になくなってくれた。宴会を定期的に開催した方が空き缶が手に入りやすいかもしれない。
フィデルさんが港町遠征の方針を表明したり、酒造部門からも試作のビールの試飲会が行われたりした。更にはデュンケル作の迫力満点のワイバーンの金属像が登場して、ワイバーンの肉が振舞われたりと、宴会は大変盛り上がった。
この商会は本当に良い人材を集めたものである。この人たちを見ていると部外者の俺もなんだか楽しくなってくる。この商会をもっと応援したい。この素晴らしい仲間が集うローレンス商会をもっと多くの人に知ってもらいたい。そのための一歩として酒造部門を成功させてみせよう。自分が飲みたい酒を造ってもらえればそれでいいと思っていたが、この商会のためにも頑張ってみようと思う。
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それからは醸造所のリフォームをメインに活動した。部屋全体の魔道具化もうまくいったと思う。常に一定の温度が保たれるように調整するのは苦労したが何とかなった。入り口には効果があるのか分からないが、除菌の魔道具を備えた除菌ルームも作った。醸造所内は土足厳禁で専用の作業着を用意して着替えてから入るように徹底した。醸造所にクリーンのスキルを使いまくったせいかスキルレベルも上がってた。
酒造りは俺は門外漢なので、酒造職人の人たちの意見を取り入れながら設備を造設していき、稼働できる体制が整った。俺にできるのはここまでだ。あとは職人たちに頑張ってもらうしかない。
ローレンス商会は相変わらず繁盛している。
デミグラスソースを使ったハンバーガーも完成してメニュー入りを果たしたのだ。
料理長は俺の期待通り、いや期待以上のソースを完成させてくれた。
結局、従来のトマトソースのものと二種類販売することになったようだ。チーズは別料金でトッピングシステムとなっている。
連日、飛ぶように売れているようだ。
デミグラスバーガーというやたら強そうな名前が受けているらしい。冒険者の方々が仕事に向かう前の景気付けに食べて行くんだとか。
もちろん俺も食べた。デミグラスソースは濃い肉の味と相まって、最高のハンバーガーが完成したと思っている。
デュンケル作の大きなワイバーン像は店内に飾られていて、こちらも大変注目を集めている。丁度、ワイバーンの革を使った製品を推していくところで、店内にワイバーンコーナーが設けられていたのだ。そのコーナーに飾りたいんだとフィデルさんがすごく欲しがったので、デュンケルの了解をもらって販売した。この金属像の噂を聞きつけた彫刻マニアの領主がわざわざ商会に見に来たらしい。大変絶賛していたそうだ。ワイバーン像の首元には『デュンケル』のサインが刻まれている。いずれデュンケルは金属彫刻家として名を馳せるのではないだろうか。
スピーダー二号機もようやく完成したので、試運転も兼ねて狩りに行くことにした。足を伸ばしていつもの狩場とは違う森に行ってみるかな。
森に到着。うむ、スピーダーに異常はないな。二人乗り用なので今度シルビアさんをドライブに誘ってみようかな。
空中移動で奥地まで入っていつものように狩りをする。それなりの成果を得た頃、帰ることにした。森の中を歩っているとシュバルツが声を掛けてきた。
『主殿。あれを見てください。』
示された方を見ると木の上にリスがいた。
『何だ?ああ、リスじゃないか。あれがどうしたんだよ?』
『あれは霊獣ですよ、主殿。』
『本当か?普通のリスにしか見えないぞ?』
『間違いないですよ。気配からは地属性だと思います。』
『おお!地属性か!ぜひ同行してもらえないか、交渉してくれ。シルビアさんに紹介したいんだよ。』
『無理です。気をつけてください、主殿。』
『どうしたんだ?』
『あの者はとても好戦的な性格のようです。全く交渉の余地はなさそうです。私とは気が合いそうにないので、影の中に隠れていますね。』
そう言ってシュバルツは影に潜っていった。
『おい!ちょっと待てよ。俺は意思疎通がとれないんだぞ。』
『がんばってください、主殿。』
何とかして同行してもらえないものかな。しかしどう見ても普通のリスなんだがな。
「あー、良かったら同行してもらえないだろうか?君と相性の良い地属性の美人なお姉さんを紹介してあげるから。」
伝わるのかな?と思っていると、リスはスッと立ち上がった。そしてトントンと小さくジャンプしながらファイティングポーズをとりだした。
とても可愛らしい光景なのだが、俺の直感スキルと危険察知スキルが警鐘を鳴らしていた。リスが木の上から飛び降りてくるのに合わせて、俺は後ろに飛び退いた。
ドンッ!という音とともに、リスの小さな拳が地面に小さなクレーターを作った。
更にリスが足を踏み込むと数メートル程、地割れが起きた。
うーむ、初めて地属性魔法を見た。確か地属性魔法は攻撃特化だったよな。戦闘系の属性魔法の中でも珍しくシールドの魔法がないのだ。地面の上にいる時限定で身体能力の向上効果と、その身体能力に応じて魔法の威力が増幅する。霊獣と言うからにはおそらくスキルレベルは上限の10だろう。それでこの程度の威力なのは、このリスが小柄で身体能力が低いためか。
交渉が無理となると捕獲するしかないか。
俺はリスの攻撃を躱しながら、接近して俺の影を踏むように誘導した。
リスが俺の影を踏んだ瞬間に影潜スキルを発動させると、リスは俺の影空間の中に落ちていった。捕獲成功だ。
シュバルツが焦ったように念話を飛ばしてきた。
『主殿!何故この者を中に入れるのですか!ああっ!デュンケル!大丈夫ですか!』
影の中は大変なことになっていそうだが、無事を祈ろう。
『帰るまでがんばってくれ、シュバルツ。』
とりあえずシュバルツとデュンケルはシュバルツの影の中に避難したようだ。
急いでシルビアさんのところへ向かおう。
しかし、こんな危ない奴を紹介しても良いのだろうか。
俺、嫌われないかな・・・。




