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第45話 デミグラスソースを手に入れろ

レラーグの街に到着し、オクスリビア子爵領内に入った。


今日はここに泊まろう。清潔そうな宿屋を選んで、ついでに飯も食っていくことにした。夕食として出てきたのはブラックブルのシチューだった。肉の味の濃いビーフシチューだ。店主自慢のメニューらしい。もちろん旨かったのだが、それどころではない。ビーフシチューということはデミグラスソースも使っているはず。これがあればトマトソース一辺倒のローレンス商会が生まれ変わることができる。それに普通のハンバーグを食べれるではないか。何としてでもこのレシピを知りたい。俺にはデミグラスソースの作り方なんて全く分からん。

俺は夕食のピーク時間が去ったと思われる頃、受付にやってきた。

「すまない。店主と話がしたいのだが、お会いできないだろうか?」

「今の時間なら大丈夫だと思いますよ。お待ちくださいませ。」

身長2mはありそうな強面のおっさんがやってきた。

「俺が店主のバートだ。何か用か。」

「リビアから参りました。商人のルノと申します。先程頂いたシチューは大変美味しかったです。」

「そうか。それで何の用だ。」

俺はビールジョッキタンブラーを二つ取り出して缶ビールを注いで片方差し出した。

「取引がしたいのです。先程のシチューのレシピを教えてください。」

「断る。あれはうちの看板メニューだ。真似されるわけにはいかん。」

「こちらはシチューとして使う予定はありません。他の料理にかけるソースとして使いたいのです。リビアでは今、ハンバーガーという料理が流行しているのですが、このソースを使えばもっとおいしくできると思ったのです。」

「噂のローレンス商会か・・・。」

そう言ってビールを一口飲んで、おっ?という顔になった。

どうやらローレンス商会やハンバーガーを知っているらしい。ビールも口にあったのかもしれない。飲み進めている。

「おや、ご存知でしたか?」

「ああ、俺は食ったことないがな。最近、客の間で噂になっているから話は聞いている。リビアに行ったら必ず食うべきだってな。」

俺はマジックバッグから出来たてのハンバーガーセットを取り出す。

「こちらがそのハンバーガーセットです。ちなみに考案したのは私です。使用している特殊な調理器具を作っているのも私です。」

「丁度、晩飯がまだだったんだ。頂こう。」

「どうぞ、そのお酒ともよく合いますよ。」

「ふむ、形が変わっただけのサンドイッチかと思ったが、中の肉はミンチか。手間のかかることをやっているな。」

ミンチ肉自体は元々この世界にはあった。ただ包丁で頑張って叩き潰さないといけないから大変なのだ。

「ミンチ肉を作る器具を頑張って作りました。大変でした。」

「なるほど。手軽に作る手段があるわけか。こっちのは芋か。これは確かに酒に合うな。こっちの肉はフォレストバードか。うん?これもミンチか?」

「そうですね。ミンチ肉を油で揚げたものでチキンナゲットといいます。芋も同様に油で揚げたものですね。フライドポテトといいます。私がレシピの対価として用意しようと思っているのはこの油であげる器具です。」

「このハンバーガーのトマトソースをうちのソースに変えるのか。このままでも十分美味いと思うのだが。」

「実は飲食部門は商会長の思いつきで突貫で作られたんです。そのため、お恥ずかしいことにローレンス商会にはまともな料理人がいないのです。全ての料理でトマトソースを使いまわしている状況でして。」

「それは客も飽きるだろうな。そう言われてみればこのチキンナゲットもトマトソース付けて食べるんだもんな。」

「ソースとして使うので、頂いたレシピをそのまま使うことはありません。ソース用に味を調整することになると思います。何とかご検討頂けないでしょうか。」

「うーむ。ミンチを作る器具はもらえないのか?」

「ミンサーもですか・・・」

俺はローレンス商会の従業員ではない。作った器具を他の人に売るなという契約はしていない。売るのは俺の自由だ。しかし、ローレンス商会飲食部門の強みはミンサーにあると言ってもいい。フライヤーだけならたいした損失にはならないのだが。

「フライヤー・・・ああ、油で揚げる器具ですが、こちらを使った新しいレシピをいくつか提供するというのはいかがでしょうか?ミンチ肉を作るミンサーは製造にも時間がかかるもので。」

「そのレシピの内容次第だな。」

俺はカツ丼をマジックバッグから取り出した。

「この料理の上に乗っているものです。トンカツというものです。これは豚肉を使っていますが、オーク肉やブラックブル肉で作るともっと美味しいはずです。そしてバートさんのシチューをソースとして使えば抜群に合います。」

「ふーむ。悪くないな。他には?」

「現物がないのですが、唐揚げという料理です。鳥肉を揚げたものです。ミンチにはしませんので手間はかからないはずです。ちなみにいずれの料理もローレンス商会では販売しておりません。」

「分かった。レシピを提供しよう。」

「有難うございます!フライヤーは二台差し上げますよ。レシピは今から書くのでちょっと待ってください。」

バートさんもレシピを準備して戻ってきた。俺は急いで書き出したレシピを渡した。

「早速、作ってみるとしよう。くれぐれもレシピが流出しないように気をつけてくれ。」

「はい、良い取り引きを有難うございました。」

「ああ、噂のローレンス商会と取引ができるとは思ってなかったよ。」

「ん?私はローレンス商会の者ではありませんよ?レシピはローレンス商会で使いますが。」

「・・・勝手に取引して良かったのか?」

「大丈夫です。作った調理器具を他所で売るなという契約はしておりませんから。ああ、もしフライヤーに不具合があったらローレンス商会に連絡をください。私はあちこち旅していることが多いので。」

「分かった。」

バートさんは厨房に戻っていった。早速新しいレシピを試作するのだろう。


こうして俺はデミグラスソースのレシピを手に入れた。


翌朝、朝食に唐揚げが出てきた。朝から揚げ物は勘弁して欲しい。美味かったけどね。塩レモンでさっぱり頂きました。バートさんは大量に唐揚げを試作したそうだ。旅の飯用にと買い取らせてもらった。オークカツとブラックブルカツはこれから試作らしい。レシピの確認のため、もう一泊していけと言われた。今日の夕食で提供する予定らしい。仕方がないので日中は街の観光をすることにした。昼飯は来る時に立ち寄った従魔OKの酒場に行った。今回はちゃんと入店時にシュバルツとデュンケルを見せて入店の了解を得た。俺達のことを覚えてくれていたらしく、快く入店させてくれた。まあ、忘れるわけもないか、こんな特徴的な客を。

やっぱり良い店だな、ここは。

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