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第34話 有能なシュバルツ

暗くなる前に何とかダンジョン都市ダグエーテラに到着した。途中に村があったが通り過ぎて先を急いだのだ。

俺は街から少し離れた所からシュバルツを伴って街の入口に向かった。警備兵が出てきてちょっと揉めたが、従魔のタグを見せて事は収まった。治安が悪い街ということで、シュバルツを連れていれば威嚇になると思ったのだ。コートの黒いフードを深く被り直して俺はダンジョン都市ダグエーテラの入り口をくぐった。

早速スキル屋を探したが、時間が遅かったので閉まっていた。また明日来よう。

ちょっとお高めの宿屋に泊まることにした。一般的なクラスの宿屋も覗いたが、食堂にいたガラの悪そうな人たちの探るような目線が怖かったからだ。宿屋では当然シュバルツは影の中だ。宿の食事はダンジョン産の魔物肉をメインに扱っているようだ。ダンジョンを中心に経済が回っている都市なんだなと改めて思った。

翌日、早朝からスキル屋は開店していないと思うので、冒険者ギルドを覗いてみることにした。シュバルツがギルドの入り口に嵌ってとても悲しそうな顔をしている。折角いい感じで威嚇しながらここまで来たのに締まらないな。これだからシュバルツは残念なんだ。

『私は残念ではありませんよ。私は気高い霊獣なのですよ。』

『はいはい、分かってるよ。』

とりあえず影の中に戻ってもらった。

『大体、人間用の扉が小さすぎるのですよ。霊獣に対する敬意が足りないと思います。』

念話で何か文句を言ってるのが聞こえるが無視することにした。

早朝だというのに依頼掲示板の前には人がほとんどいなかった。レイクスやリビアではこの時間は依頼争奪戦なのだが。やはりこの街はダンジョン目当ての人たちばかりなのだ。盗賊の討伐依頼書もあるが、これでは誰も受注しないだろう。どんどん治安が悪化していくわけだ。ダンジョン都市周辺の治安維持は冒険者は当てになりそうにない。領主側のみで対応するしかないだろう。人気のあるダンジョンの扱いは難しそうだな。


ギルドの酒場で時間を潰すことにした。ここの酒場には珍しく紅茶があったのでそれを注文した。カウンター席に座ってまずは一口。うん、おいしくはないな。シルビアさんの淹れてくれた紅茶が懐かしい。

ここで朝食をとる人たちは割といるので聞き耳を立てているが、聞こえてくるのはやはりダンジョン関係の話ばかりだ。受注する依頼をパーティで相談したりといった会話はなさそうだった。

俺の隣にガタイのいい男が座って話しかけてきた。

「よお、兄ちゃん。ダンジョンに潜るのなら俺たちと組む気はねえか?」

「悪いが断る。今日中にはこの街を去るつもりなんだ。」

俺は冒険者と話す時は商売人口調をやめることにした。こんな街だと舐められると思ったからだ。

「そうなのか、それは残念だ。逸材だと思ったんだがなあ。」

「なぜ逸材だと思ったんだ?」

「強そうな従魔連れてたじゃねーか。あんなもんけしかけられたらオリハルコンの剣向けられるよりこえーよ。」

オリハルコンの剣を向けるというのはこの世界の慣用句みたいなもんなのかな。オリハルコンの剣がどんな物なのかは知らんけど。

「それに兄ちゃん自身も相当できるだろ。俺の看破で何も見えない。」

看破スキル持ちか!俺がすごく欲しいスキルの一つだ。看破があれば相手のステータスが見れる。盗賊の強さもはっきり分かるようになる。情報があれば安心感も勝率も大きく変わる。

俺は隠蔽スキルだけは霊獣補正でスキルレベル上限に達しているからな。相手からしてみれば、他のスキルも同じように高レベルのスキルを保有していると思うわけだ。実際は俺は弱いのだが。

「勝手にステータス覗こうとする奴と組みたがる奴はいないと思うぞ。他を当たってくれ。」

「悪かったよ。邪魔したな。」

そう言って男は自分のパーティが待つテーブルに戻っていった。

男が去ってからシュバルツから念話が入ってきた。

『主殿、看破スキルでしたら私使えますよ。』

『は?使えるの?そんな重要なことは早く言えよ!』

『だって聞かれなかったですから。』

そう言われてみれば、どの程度戦えるのか?という質問しかしていなかった気がする。

『他には何ができるんだ?隠さずに全部言うんだ!』

『私自身にできるのはそれくらいですよ。あとは気配察知とか主殿も持っていらっしゃるスキルですよ。』

『ちなみにさっきの男を看破してもらってもいいか?あいつの看破スキルのレベルはいくつだ?』

シュバルツに影から頭だけ出てもらう。

『5ですね。』

『そうか・・・。シュバルツの看破レベルと有効距離がどのくらいか教えてくれるか?』

『私は10ですね。距離はあそこのトンガリ帽子を被ったマッチョのエルフの男性のあたりまでですね。』

スキルレベル上限で大体、射程15mくらいか。

『分かった。今後は頼りにさせてもらうよ。急にシュバルツが有能になったな。』

『私はいつでも有能ですよ。主殿は契約魔法も使われませんし、もっと私を頼っても良いのですよ。』

『ちょっと待て。俺が契約魔法を使ってないというのはどういう意味だ?』

『あれ?契約魔法の使い方ご存知ではないのですか?』

『契約魔法でできることがあるのか?知らんぞ、俺は。』

『なんと、そうでしたか。てっきり私に遠慮されていらっしゃるのかと思っていましたよ。契約魔法は契約した対象の力を借りることで、身体能力が向上すると言われておりますよ。』

『試してみたい。シュバルツの力を貸してくれ。』

『はい、どうぞ。』

・・・?何か変わったのか?あ、目がちょっと良くなってるような気がする。

『うん、違いがよく分からんな。街を出てから検証してみるか。』

『はい。まだスキルレベルも低いですからね。今はそんなに変わらないかもしれませんね。』

契約魔法のレベルが上がればより大きく身体能力が向上するわけか。

『ちなみに契約した霊獣が複数いた場合はこの効果は重複するのか?』

『それは私にも分かりませんね。でも多分重複すると思いますよ。』

勇者伝説では複数の精霊が登場していた。勇者が強かった理由はこれだ、重複する可能性は高いな。ジャレッド先生に今度報告しておこう。


さて、そろそろ当初の目的を果たしに行くか。

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