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第15話 遭遇

数日後、冒険者ギルドの依頼掲示板を眺めている。受注はできないが、情報収集のためだ。危険な魔物が発生している地域とかは避けたいからな。あとは護衛依頼なんかの相場額なんかを参考までに確認しているというわけだ。新人冒険者向けの狩場は今日も安全そうだな。よし、行くか。


森に入ってしばらく経つが、今日は未だ戦果ゼロだ。まあ、こんな日もあるか。あまり奥に行くのは危険だ。それに何となくいつもと様子が違う。たぶん誰かが通った後のような感じがする。時間はまだ早いが、街に戻るかな。そう思った時、森の奥から何か叫び声が聞こえた。

高所に移動し、身を隠しつつ気配を探る。こっちに向かってきてるな。

再度、叫び声が聞こえる。声が近づいてくる。

「だれか!だれかいないか!助けてくれ!」

2人が走ってきているな。何かに追われているのか?相手が何か分からないと助けようがない。

む、さらに遠くから何かくる。速いぞ。フォレストウルフか!これは助けるのは無理だ。無視しよう。

これまでフォレストウルフを見かけたことは何度かあった。だが、俺はいつもこいつを避けていた。何故なら必ずこいつらは5匹以上の群れで行動する習性があるからだ。単体で見ればたいした驚異ではないが、ソロで5匹以上も相手は無理だ。無理すれば3匹くらいはいけると思っているが、俺は無理はしない。

敵は5匹だな。うん、直に彼らは追いつかれるだろうな。ん?あれは先日のライル君とソフィーちゃんじゃないか。

今、彼らは俺の真下を通過していった。彼らも敵が迫ってきているのを確認したようだ。ソフィーちゃんは逃げ切れないと判断したのか、振り返って棍棒を構える。

おっ!迎え撃つ気か!3人でなら勝算はあるな!それなら加勢してやるか。

丁度、敵が真下を通過するタイミングで、俺は飛び降り必殺のロッドの一撃で一匹の頭を粉砕する。

「加勢する!3匹仕留めるから残り1匹ずつ殺せ!」

俺は叫びながら2匹目をロッドで横薙ぎに殴り飛ばす。3匹目が俺に気付いて襲ってきていたが、障壁スキルにぶつかって倒れた。障壁を消して、倒れた3匹目の頭にロッドを振り下ろす。2匹目に殴り飛ばしたやつもまだ息があるようで、よろよろと起き上がってきたので止めを刺す。

2人は仕留めただろうかと見ると、ソフィーちゃんは足を噛まれ負傷しながらも、なんとか棍棒で叩きのめすところだった。ライル君はどこだろうかと思ったら、もう少し先で背後から敵に押し倒されていた。

あいつ、一人だけ逃げようとしてたのか!

急いでライル君の方に向かい、最後の一匹をロッドで殴り飛ばす。もちろん、きっちり止めを刺す。

ライル君の状態を見るが、首を噛まれていて既に事切れていた。

ボロボロになったソフィーちゃんも足を引きずりながら、こちらにやってきた。

「すまない、ライル君は助けられなかった。君はソフィーちゃんだったね。怪我をしているようだけど、ポーションは持ってるかい?」

「いえ、持っていません・・・」

俺は先日購入した下級ポーションを取り出して差し出す。

「これを飲むんだ」

「いえ、お金がないので・・・」

「お金はいらない。怪我が悪化しないように飲んでおけ。」

「分かりました・・・」

ソフィーちゃんはパーティの仲間が死んだ姿を前に茫然としている。

「それを飲んだらすぐに移動するぞ。血の匂いで他の魔物が寄ってくるかもしれないからな。」

フォレストウルフは毛皮が売れるのだが、解体している時間はない。潜影スキルで影空間に2匹を放り込み、1匹を担いで持っていくことにした。2匹はもったいないが、捨て置く。ライル君の冒険者証を回収して、彼の遺体はスコップで掘った穴に埋葬した。穴が浅いので掘り返されるかもしれないが、こちらにも余裕がない。こういった状況に遭遇した場合、故人の冒険者証を回収してギルドに報告・提出することになっている。死体は放置しても罪に問われることはない。

森から出た所で手早くフォレストウルフ3匹の毛皮を剥ぎ取る。

街へ入る前にクリーンをソフィーちゃんにもかけておいた。かなり汚れてたからね。冒険者ギルドの酒場に行き、ソフィーちゃんを座らせる。彼女も落ち着いてきたようだったので、適当にジュースを注文して、何があったのか話を聞くことにした。

「あの、今更ですが助けて頂いてありがとうございました。」

「うん、ライル君を助けられなかったのは残念だったけどね。もう落ち着いたかい?」

「はい、もう大丈夫です」

「結構森の奥まで入っていたようだが、何があったんだ?」

話を聞いたところ、彼らはもう一人メンバーを増やして三人で探索していたそうだ。ところが、10匹ほどのフォレストウルフの群れに遭遇。三人目のメンバーがそこで犠牲になり、二人はその間に走って逃げたそうだ。その後は、俺が登場というわけだな。

「そうか、パーティメンバーを失ったのは気の毒だが、君が気に病む必要はないと思うぞ。冒険者は死と隣り合わせだ。彼らも覚悟はしていただろう。まあ、冒険者ではない俺が、冒険者の心得を説く資格はないかもしれないが。」

彼女は俯いているので、俺は言葉を続ける。

「それに君は最後に立ち向かったじゃないか。そして見事に敵を討伐した。君が生き残ったのは、偶然ではない。君が立ち向かって掴み取ってみせた結果だ。誇って良い、胸を張れ。」

俺はフォレストウルフの毛皮を一枚、マジックバッグから取り出して差し出した。

「これは君が討伐したフォレストウルフだ。持っていくんだ。」

その後は、彼女に付き添って亡くなったパーティメンバーの報告を行い、宿へ帰宅した。


その夜、缶ビールを片手に今日の出来事を振り返る。

俺は初めて目の前で人が死ぬ現場に居合わせた。俺がもっと早く加勢していれば彼は助かったのだろうか?しかし、俺にとって彼らは赤の他人だ。無視しても良かったのだ。ソフィーちゃんが迎え撃つ姿勢を見せたことで、討伐できる可能性が見えたから、利益になると思ったから加勢したのだ。うん、俺の選択は間違っていない。利益を優先した最適な選択だった。あのまま帰ってたら、獲物ゼロだったからな。毛皮二枚分だけだが、収入を得ることができた。うん、良かった良かった。

それでも人があっさり死ぬところを見たのだ。自分がいつその立場になるか分からない。これまでが順調すぎたのだ。これがいつまでも続くとは思わない方が良いだろう。気を引き締めなければならない。


今夜の酒はいつもより苦く感じた。

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