第89話4-20フェンリル暴走
魔王が覚醒した幼馴染のミーニャを連れ戻す為にソウマたち姉弟は今日も何処かをさ迷っています。
お姉ちゃんに鍛えられながら果たしてソウマはミーニャを連れ戻せるのか!?
熱い姉弟(師弟)の物語です。
出番がありませんでしたわ‥‥‥(エマージェリア談)
「流石に此処まで来るといるかぁ」
シェルさんはまだ遠いサボの港町を見ていた。
エルフ族であるシェルさんの視力はとても良く、僕たち人間では見ない距離も良く見える様だ。
「町は魔王軍に占拠されていると言う事ですの?」
「ええ、そう言う事になるでしょうね。しかしその規模が分からないと下手に手出しが出来ないわね‥‥‥」
「そんなのばばっと目に映るのからやっちゃえばいいじゃないの!」
エマ―ジェリアさんの質問にシェルさんは慎重に答えるけどセキさんは既に肩をこきこきさせている。
ちゃきっ!
「そうですね、セキさんの言う通り邪魔するやつは切り捨てましょう!」
姉さんはそう言いながらポーチからアイミまで引っ張り出す。
今までアイミの巨体は目立つからとか言ってポーチにしまっていたのにどう言う風の吹き回し!?
「んじゃ、行くか!」
「はいっ! さっさと片付けて宿屋に行きましょう!! ソウマ待っててね、お姉ちゃん頑張って来るから!!」
ぴこっ!
そう言ってセキさんと姉さんはサボの町に向かって突っ込んでいった。
「あ、ちょっと! もう、仕方ないわね、エマ、ソウマ援護するわよ!」
「セキはまだしも、フェンリルさんまで狂暴になったのですの!?」
「姉さんたまにおかしくなるからね。エマ―ジェリアさん僕も行きます!!」
セキさんや姉さん、アイミが突っ込んでいったその後を仕方なく僕たちも追う。
まだ結構町まで距離があると言うのにセキさんや姉さんは全力疾走で突っ込んでいく。
アイミは二人の後を飛んで付いて行く。
あの二人って疲れを知らないのかな?
流石に土煙を上げて走って来るセキさんと姉さん、アイミにサボの港町を占拠していた魔王軍も気付いたようだ。
町の外に悪魔たちが数体出てきた。
しかしそんな悪魔たちを姉さんたちは瞬殺で弾き飛ばす。
それに驚いた魔王軍の連中が次々と町の出入り口に集まり始めた。
「まあ結果魔王軍だけ出てきたからいいか。って、あれれ? エマは?」
「まだ後ろの方です。あ、こっちにも気付いたみたいです!」
セキさんや姉さん、アイミを取り囲む悪魔たちはどんどんとその数を減らすけど数体が後追いの僕たちに気付いてこっちにもやって来た。
僕はシェルさんの前に出てショートソードを構えるけどこっちに来る前にシェルさんが精霊魔法でその悪魔たちを吹き飛ばす。
どかーん!
「はぁはぁ、や、やっと着きましたわ。さあ、不浄な者はこの私が‥‥‥ あらっ?」
エマ―ジェリアさんが僕たちに追い付いて来た頃には既にサボの港町から魔王軍は出て来ていなかった。
ほとんどがセキさんと姉さん、アイミで倒してしまい、漏れ出てこちらにやって来たのもシェルさんの精霊魔法で瞬殺されてしまった。
「エマ―ジェリアさん、お疲れ様です。どうやら片付いたようですね?」
「え、ええぇとぉですわ‥‥‥」
まだ少し息が上がっているエマ―ジェリアさんはその光景を見て瞳をぱちくりとしている。
「さてと、終わった。どうやらこれで全部だったみたいね?」
シェルさんはパンパンと手を叩いて埃を払い僕たちの所までやって来た。
あっけに取られているエマ―ジェリアさんを見て不思議そうにしている。
「どうしたのエマ?」
「い、いえ、凄いのは分かっていましたがこうもあっさりと終わるとは思いませんでしたわ」
「そうですねぇ、セキさんと姉さん、アイミがやたらと張り切ってましたからね。僕も何もしないで終わりました」
余計なケガしないで済んだとニコニコしているとエマ―ジェリアさんは僕を見て大きくため息をついた。
「ソウマ君、活躍出来なかったと言う事に何も思わないのですの?」
「ケガしないで済んだのでうれしいですけど?」
僕がそう答えるとまたまた大きくため息をつく。
そんなエマージェリアさんにシェルさんはポンと頭に手をつき言う。
「まあいいじゃ無いの。ここまで簡単に片付くとは思わなかったけどね。さて、町に行ってみましょう」
「はい、シェル様ぁ!」
エマ―ジェリアさんはにこにこしながらシェルさんの腕に抱き着いて港町に向かうのだった。
* * *
サボの港町は魔王軍に占領されていたと言う割には普通だった。
お店も露店も普通に営業をしている。
不思議に思い近くの人に聞いてみても魔王軍とか言うおっかなさそうな連中も特に何もしないし、逆に治安維持に役立っていたと言うから驚きだった。
「そうさね、見た目はおっかない連中だけどあれらのお陰で夜も女の子一人で歩いていても問題無いからうちらにしてみれば大助かりだけどね」
「そうそう、港の改修工事も手伝ってくれるし、なんたって馬鹿力があるから大助かりだったよ!」
町の人々は口をそろえてそう言う。
「あの、この町の衛兵とか領主様はどうしたのですの?」
「ああ、あいつらなら‥‥‥」
エマ―ジェリアさんはあまりの事に思わずそれを聞いてしまった。
しかし町の人たちはにこにこ顔で言う。
「ろくでも無い領主と衛兵たちは魔王軍にあっさりとやられて魚の餌になったよ。まあ、今までひどい事ばかりやって来た連中だからいい気味だがな」
「まったくだ、あいつらのお陰でこちとら食うにも困っていたってのによ!」
「ほんとだよね、税も取るばかりでさ!」
なんか前の領主様や衛兵さんたちってかなり評判が悪いようだな。
「そ、それでも相手は不浄の魔王軍ですわ! 皆さんはそれでもいいのですの!?」
納得のいかないエマージェリアさんはなおもそう町の人たちに訴えかけるが「なにが問題なんだい?」とか「むしろ魔王軍のお陰で町が平和になったんだからそっちの方がいい」とか言われる始末。
「そ、そんなですわ‥‥‥」
聖職者で聖女であるエマ―ジェリアさんにしてみれば衝撃だっただろう。
でも町の人たちは口々にそう言っている。
「おいっ! 大変だぞ!! さっき町の外で大乱闘が有って誰かに魔王軍が全滅させられたぞ!!」
「「「「な、何だってぇ――――!!!?」」」」
誰かが先ほどの大乱闘を伝えに来た。
そしてその話を聞いた町の人たちは慌てふためく。
露店はあっさりと店じまい。
お店もクローズの看板を出してみんな家の中に逃げ込む様に消えていく。
「えーと、なんか魔王軍退治した方が混乱しちゃったような‥‥‥」
「しまった、さっきの串焼きのお店も閉まってる!!」
ぴこっ?
「あ~、これじゃあ宿屋も閉まっちゃいそうですね?」
「!?」
僕は周りを見ながらどんどん店じまいしている様子を見てそう言う。
すると姉さんが僕の腕を取りシェルさんに慌てて言う。
「シェ、シェルさん! 早く宿取りましょう!! 約束通りソウマと私は二人っきりの部屋で!!」
「はぁ? みんなで大部屋でもいいんじゃないの、姉さん?」
「あ~、まあ約束だしフェンリルはそれで今まで我慢してきたんだもんね~。はいはい、それじゃあ宿屋を見つけましょう」
シェルさんのその言葉を聞き終わるかどうかで姉さんは僕の手を引っ張って宿屋を探し始めるのだった。
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