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第211話9-4引けない気持ち

ついに女神エルハイミに会い、姉のフェンリルを返してもらおうとするソウマ。

そんなに簡単に返してもらえる?

ドタバタに拍車がかかりソウマの前途は多難です。

そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。


そんな、エルハイミねーちゃんが!(ソウマ談)


 エルハイミねーちゃんは何と僕に向かって土下座をした。



 女神であり、僕の姉のような人。

 凄い人で前世では命の恩人でもあった。


 そんなエルハイミねーちゃんが僕に対して土下座している?



 「ちょっ、エルハイミねーちゃんやめてよ! そんな事されたって僕は……」


 「私のこれが誠意ですわ。それほど私はティアナを欲しているのですわ」



 土下座したままエルハイミねーちゃんはそう言う。

 

 心が揺らぐ。


 でも、僕にだってフェンリル姉さんは大切な人。

 母であり、姉であり、師匠であり、そして……



 「僕もフェンリル姉さんの事は好きだ。誰にも渡したくない。だからいくらエルハイミねーちゃんのお願いでもこれは聞けないよ」


 「……どう、してもですの?」


 「……ごめん」



 エルハイミねーちゃんのその言葉にそれでも僕はそう答える。

 そしてそのまましばし時が止まったかのような沈黙が続く。



 一体どれくらいそのままだったのだろう。

 しかしその沈黙はいきなり崩れた。



 「……ひっぐ、うっぐ、ぐすんぐすん」



 え?

 なに??



 「えぐっ、ひっぐ、ふえぇええええぇぇぇぇっぇぇんッ!!」


 「え、えぇっ? な、なにっ!?」



 土下座したままのエルハイミねーちゃんはいきなり大泣きをし始めた。



 「びえーんっ! ソウマの、ソウマの意地悪ぅーですわぁーっ!!!!」



 「は、はいっ?」


 まったく予想していなかった。

 僕の知っているエルハイミねーちゃんなら最後は力づくでも僕に言う事を聞かせようとすると思った。

 絶対に敵いはしないだろうと思って気構えもしていたのに。



 「ふぇええええぇぇぇぇぇん、ティアナぁーっ! ティアナぁーッっ!!」


 「あ、あの、エルハイミねーちゃん?」


 「ソウマなんか嫌いですわ! 意地悪ですわ! 酷いですわぁーっ! びえーんっ!!」



 とうとう女の子座りして上を向いてぐしゃぐしゃに泣きじゃくるエルハイミねーちゃん。

 両の手を握りしめ目の前に持って行ってわんわんと泣いている。

 女神様にあるまじきその姿。

 ああ、鼻水まで垂れて来てる!!



 「ちょ、ちょっと落ち着いてよエルハイミねーちゃん!」


 「ひっぐ、落ち着いたらティアナくれますの?」


 「いやそれは……」


 「ひっぐ、びえーん! やっぱりソウマ意地悪ですわぁーっ!!」



 ああっ!

 どうしようこれ!


 僕、女の子が泣いた所に出くわした記憶がない!

 いつも僕が泣かされるからこう言った場合どうしたらいいのさ?


 そんな事を思っていたらふっとフェンリル姉さんが現れる。


 

 「だから言ったじゃない。ソウマの気持ちは変わらないって…… 好きよエルハイミ。でも今の私はフェンリル。フェンリルが愛する者はティアナも愛してしまう。だから今の私はソウマが好きなの……」


 「でも、でもティアナは約束しましたわ! 三百年前今度こそ私と一緒になってくれるって!!」


 「……ごめんねエルハイミ。でもこの気持ちは変えられないの。私とフェンリルが分かれる事が出来なければこの気持ちはティアナである私も変えられない。だって、フェンリルは魂からソウマを欲しがっているのだもの」


 「フェンリル姉さん……」



 フェンリル姉さんはそう言って僕に微笑みかける。



 「ソウマ強くなったね。お姉ちゃん嬉しいよ。お父さんやお母さんにもこれで顔向けが出来る。ソウマを立派な男にするって約束したんだもん……」



 姉さんは泣きじゃくるエルハイミねーちゃんを抱きかかえ起たせる。



 「ほら、泣いてちゃ可愛いい顔が台無しじゃない。あなたは女神としてこの世界を守らなきゃならないのでしょう?」


 「そ、それはティアナの為ですわ! 私にはティアナしかいない、他の物なんかどうでも良いのですわ! ティアナぁッ!!」



 そう言ってエルハイミねーちゃんはフェンリル姉さんに抱き着く。

 しかしフェンリル姉さんは首を横に振る。



 「あなたは分かっていないわ。あなたが愛したのは最初の私。ティアナだけ。でもそれはどんなに転生してどんなにあなたに愛されても違うの。あなたの本心は最初のティアナが欲しいの」


 「そ、そんな事ありませんわ! 私は転生したティアナだって大好きで、あなたが死んでしまうたびに涙にうち日枯れそして世界中にあるあなたのお墓には必ず年に一回はお参りに行っているのですわ……」


 「エルハイミ…… でもあなたは必ず私を『ティアナ』って呼んでいるでしょう? そして最初の私の好きな物だけを選んで与えてくれるわよね?」


 「そ、それは…… だって、ティアナが好きだったから……」


 そこまで言ってエルハイミねーちゃんは黙ってしまう。

 フェンリル姉さんは上を見ながらぽつりぽつりと言い始める。



 「私はエルハイミが好き。それは魂の根幹にまでなっている。嘘じゃないわ。だから何度転生してもあなたが好き。でも今の私の魂は、ううぅん、もう前からなのかな? 何度も転生して、いろいろな人と出会って、そしてその都度あなたが居たわ。でもね、私の魂にも私が好きになった人たちが焼き付いている。それはエルハイミを好きなのと同じ、変えられない魂の根幹になってしまっているの……」



 「そんな、ティアナが浮気癖あるのは知ってますわ。でも、それでも最後は私のもとにいてくれさえいれば……」


 「それと同じ思いが今の私の魂の中にたくさんあるのよ。だから私はティアナでいられない。今はフェンリルになってしまうの……」



 フェンリル姉さんはそう言ってエルハイミねーちゃんの額に優しくキスをする。



 「ごめんね、エルハイミ。このフェンリルの人生ではあなたを愛する事は出来ないの。私はソウマが好きなの」


 「ティアナ、待ってくださいですわ、ティアナぁッ!!」



 フェンリル姉さんはそう言ってエルハイミねーちゃんから離れる。

 そして僕のそばまで来てぎゅっと僕を抱きしめる。



 「ソウマ、お姉ちゃんね、とてもうれしいの。ソウマがここまで強くなってそして私を助けに天界まで来てくれるなんて。好きよソウマ、弟としてではなく、一人の男性として好きよ」


 「え”っ!? フェンリル姉さん!?」



 姉さんはそう言って僕に口づけをする。


 姉さんが弟としてではなく一人の男性として僕を好き?


 驚く僕の唇に姉さんの唇が重なる。

 それはいつもと違う、僕を本当に求めるキス。

 思わず背筋がびくっと痺れるほどのキス。






 「認められませんわ…… ティアナが私を捨てるなんて…… あってはならないのですわ、ティアナは、ティアナは私のモノですわっ!!」






 どんっ!!



 エルハイミねーちゃんから今までのどんなものより、そしてきっとこの先だって感じる事がないほどの威圧感が噴き出す。

 突風が吹いたのではないかと思う程のそれはしかし、風ではない。

 あまりの凄さに思わず顔の前に腕でそれを防ごうとする。




 「ソウマがいるから、ソウマさえいなければ!!」



 

 その威圧感は一気に殺気に変わる。

 僕はそれを浴びガチガチと歯を鳴らす。

 脚だって自然とぶるぶると震える。


 それほどまでにエルハイミねーちゃんが僕に向ける感情は尋常ではない。








 「ティアナ、私は、私はぁっ!!」









 ばっとこちらを向くエルハイミねーちゃんは血の涙を流していたのだった。 

  

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