第209話9-2エルハイミ
ついに女神エルハイミに会い、姉のフェンリルを返してもらおうとするソウマ。
そんなに簡単に返してもらえる?
ドタバタに拍車がかかりソウマの前途は多難です。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
フェンリルさんがお姉さまのもとに行けば最大の障害もいなくなる、くふふふふふふっ(ミーニャ談)
女神様であり、そして前世では僕にとっては姉のような存在だったエルハイミねーちゃん。
人の身でありながら女神にまでなってしまった凄い人。
それもこれも全ては僕の姉であるフェンリル姉さんの、いや、姉さんの前世であるティアナ姫の為だった。
僕の姉は世界最強の師匠であり、そしてティアナ姫の転生者でもある。
そんなフェンリル姉さんは前世の記憶を取り戻し、ティアナ姫として覚醒するはずだったのにどうも今回はそれが上手く行っていなかった様だ。
「それでですわねソウマ、ティアナを完全覚醒させようとしたのですが今のフェンリルの人格がとても強固でティアナの記憶は戻っているのにフェンリルのままでいたいというもう一人の人格が混ざってしまい、私の事は勿論愛してくれるのですがソウマへの思いも消える事が無いのですわ」
とりあえず落ち着いて話がしたいと言ってテーブルに腰掛けお茶を出されエルハイミねーちゃんは語り始めた。
「強引にフェンリルの人格を消すとティアナの魂が崩壊してしまうのでそれは出来ない事ですわ。今までであればティアナが完全覚醒すればたまに浮気もしますが基本ちゃんと私と余生を過ごしてくれていたのですが……」
エルハイミねーちゃんはフェンリル姉さんを見ながらジト目になる。
「浮気者のティアナは今回の転生でも私の所に留まれないと駄々をこねるのですわ」
「あ、いや、だからあなたの事は好きよ? でも今のフェンリルとしては女の子同士で何て考えられないし、ソウマの事やっぱり諦められないし……」
フェンリル姉さんがそう言うとエルハミねーちゃんはため息をついてから僕を見る。
「三百年前、エルフのリルとルラがやらかしてこの世界が崩壊しかけましたわ。その時に転生していたティアナはシェルのお陰で発見が遅れ他の人に手を出していて、あまつさえは幸せな家庭まで築いていましたわ!!」
ぱきんっ!
エルハイミねーちゃんの持つティーカップがいきなり割れた。
「あらあら、失礼しましたわ。はい、これで元通りですわ」
エルハイミねーちゃんは慌ててそのティーカップを元通りに直してこぼれたお茶もカップの中に戻す。
まるで時間を巻き戻したかのようだった。
「んんっ、とにかく三百年前は私はこの世界の崩壊を防ぐためにギフト持ちのリルの『全てを消し去る力』に対して『あのお方』のお力まで総動員して崩壊を防いでいたのですわ。だから本体にほとんどの能力を引き渡し、分体のエムハイミとエスハイミにティアナの転生者の気を引かせようとしたのですが、残念ながらその思いは通じませんでしたの。仕方なくその時のティアナの人生はあきらめ、その時のティアナに約束してもらったのが『次の人生はあなたにあげる』だったのですわ。私、その言葉を糧にずっとこの世界の崩壊を防ぎ修復を続けてきたのですわ。それなのに、それなのにぃっ!」
いつの間にかハンカチを口に感で「きぃいいいいいぃぃぃぃっ!」と引っ張っている。
「やっと見つけたらジルの村からは出ているわ、記憶が戻ったのに私には会いに来ないわ、あまつさえはまた浮気をしているわでやりたい放題! 流石に三百年も待たされたし、約束が有るので今回の人生は私も諦められませんわ!! だからソウマ、ティアナを私にくださいですわ!!」
だんっ!
テーブルに両手をついて体を乗り出し、ぐぐぅっっと僕の顔に自分の顔を近づける。
「エ、エルハイミねーちゃん、近い近い!」
ものすごい気迫を感じる。
エルハイミねーちゃん、昔からティアナねーちゃんの事大好きだったしなぁ。
最初のティアナねーちゃんに妾がいても見えない所での浮気なら仕方ないとか言って許してたもんなぁ。
でも……
「エルハイミねーちゃん、エルハイミねーちゃんにとってティアナねーちゃんがとても大切なのはわかるよ。でも、今の僕にもフェンリル姉さんはとても大切な家族なんだ。このまま姉さんを渡す事は出来ないよ」
「どうしてもですの?」
「どうしてもだよ」
「……」
瞳と瞳を合わせて瞬きもせず僕たちはそう言う。
そしてエルハイミねーちゃんはしばし沈黙をする。
「どうしてもだめですの? こんなにお願いをしているのに……」
「ごめん、フェンリル姉さんは僕にとって最後の家族なんだ。そりゃぁ将来は姉さんも誰かと結婚してしまうかもしれないけど、今は僕の姉さんであって欲しんだ……」
「お姉ちゃんはソウマと結婚するからずっと一緒よ!!」
姉さん、今真面目な話してるんだから茶化さないで欲しんだけど……
「ティアナ……あれ程お願いして体にも仕込んだというのにまだあきらめてくれないのですの?」
「ちょっ、エルハイミそれ言っちゃダメぇ! ソウマ、お姉ちゃんちゃんとまだ処女だよ? ソウマの為にちゃんと処女だけは守ってるよ!?」
「いや、姉さん何言ってるか分からないから。エルハイミねーちゃんもフェンリル姉さんに酷い事してたの?」
「する訳がありませんわ! むしろ最後の方はティアナだって良くなって喜んで……」
「あ”ーっ! だめっ! それ以上言っちゃダメぇっ!!」
まったく、何が有ったか分からないけどやっぱりフェンリル姉さんを渡すわけにはいかない。
「そう言えば、エスハイミねーちゃんもエムハイミねーちゃんも連結切られて頭に来たからエルハイミねーちゃんの事邪魔しろとか言ってたな……」
「ぎくっ! あ、あれはほら、ティアナの説得に集中する為であり、決して誰かに邪魔されるのが嫌とかではなくてですわね……」
「エルハイミねーちゃん……」
「そ、そうだ、ティアナ以外の事でしたら私に出来る事なら何でもしてあげますわ! ソウマの望みはティアナ以外であれば何でもかなえてあげますわ!!」
脂汗を流しながらエルハイミねーちゃんは僕にそう提案する。
「(こそこそ)フェンリルさんがそのままお姉さまのもとに行けば最強の敵がいなくなるわね?」
「(こそこそ)女神様も今の所は温和のご様子ですわ。フェンリルさんには女神様のもとに行かれてソウマ君の後の事は私が!」
「(こそこそ)このお母さんうちのお母さんよりやはりすごい力を持っていますね? ソウマお兄ちゃんもお母さんに逆らわなければいいのに。それにお願いすればあの胸のおっきいお姉さんにだっていつでも会えると思うのになぁ」
なんかミーニャやエマ―ジェリアさん、タルメシアナちゃんまであっちでこそこそ話してる。
姉さんのことを心配してくれているのかな?
「そうですの…… どうしてもティアナを譲ってくれないというのですのね…… ソウマ、この私がここまでお願いをしているというのに聞いてはもらえないというのですわね?」
ゆらぁ~
エルハイミねーちゃんは下を向いたままゆらりと立ち上がる。
「ちょ、ちょっとエルハイミ落ち着いて!」
「むっ? 我が主よ、ソウマは良き男だぞ。この少年の将来は楽しみなのだが」
フェンリル姉さんも鬼神も思わず立ち上がりエルハイミねーちゃんにそう言う。
しかしエルハイミねーちゃんは肩を揺らし笑い始める。
「うふふふふふですわぁ…… ソウマ、ソウマの思いが強いのは分かりますわ。でも私の思いだって負けてはいませんわ。それを見せてあげますわ! それでもソウマが耐えられるのなら今回のティアナは諦めますわ!!」
エルハイミねーちゃんはそう言って僕に手を差し向けるのだった。
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