第208話9-1女神の間
ついに女神エルハイミに会い、姉のフェンリルを返してもらおうとするソウマ。
そんなに簡単に返してもらえる?
ドタバタに拍車がかかりソウマの前途は多難です。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
ソウマっ!(フェンリル談)
どがぁんッ!
僕は最後に扉か何かを突き破り床に転がる。
そして意識がもうろうとして何が何だか分からなくなる。
「な、何なのですの!?」
「あ、あれはアイミの【特殊技巧装着】!?」
聞こえた声は間違いなくエルハイミねーちゃんとフェンリル姉さんの声だった。
僕はその声を聴いただけで何故か安心してそのまま気を失うのだった。
* * * * *
「ソウマ、ソウマぁ~。起きて、朝よ? もう、起きないんとお姉ちゃん悪戯しちゃうぞ?」
いつもの朝にいつものように部屋にフェンリル姉さんが僕を起こしに来る。
いつも不思議に思うのだけど、なんで僕が目覚めると同時に姉さんは僕の部屋に入って来るのだろう?
両親を早くに亡くし、二人っきりで生活している僕たち。
姉さんはとても美人で、胸も大きく村の男たちのあこがれの的になっているはず。
でも村一番強い剣士だから姉さん曰く「私に勝ったら付き合ってあげてもいいわよ?」とか言いながら告白してくる人全部を叩きのめしていた。
「私と付き合おうなんて百年早いわ。出直してきなさい」
何時もそう言ってその後かならず僕をチラ見して「お姉ちゃん強いでしょ?」とか「ソ、ソウマもお姉ちゃん応援してくれるよね?」とか「や、やっぱり私より強いやつなんかいないから、か、彼氏とかできないなぁ~(ちらっ)」とか言って全然誰かと付き合うそぶりを見せない。
姉さんはもう十七歳になる。
僕だってもう十二歳……
あ、あれ?
この一年で僕はもうすぐ十三歳になるはず?
って、そう言えば姉さんは!?
慌てて姉さんを見ると何故かすごく遠くにいる。
僕は姉さんのもとに行こうと走るけど全然追いつけない。
それどころか姉さんは僕に背を向けてどんどんと遠くへ行ってしまう。
「姉さん、フェンリル姉ぇさぁ~ん」
風に真っ赤な髪の毛がなびき、父さんと母さんのお墓の前で姉さんは僕から離れて行ってしまう。
一生懸命に背を向けて歩く姉さんに駆け寄ろうとするのに、まるで時間の流れがゆっくりになってしまったかのようにゆっくりとしか僕は駆けて行けない。
「姉さぁん! フェンリル姉ぇえさぁあああぁぁぁぁぁん」
どんなに両の手を広げ走って行っても届かない。
姉さん、姉さぁあぁぁぁぁぁんッ!!!!
*
「はっ!?」
「ソウマ! 気が付いたのね? ソウマ、ソウマぁっ!!」
涙目のフェンリル姉さんの顔が目の前にあった。
フェンリル姉さんは僕に抱き着く。
「え? ええぇ? フェンリル姉さん??」
ふわっと香る姉さんの香り。
抱き着いてくるけど僕の胸は姉さんの大きな胸に押しつぶされてちょっと苦しい。
「ふぇええええぇぇぇぇぇん、よかったぁーっ! ソウマ三日も寝たままなんだもん、お姉ちゃん心配で心配で!!」
「へっ? 三日??」
「ふう、やっと目が覚めたようですわね? もう、せっかく良い所で邪魔するのですもの。ソウマのいけずぅですわ!」
声のする方を見るとエルハイミねーちゃんがいた。
「ソウマ君、よかったですわ」
「ソウマ君! くうぅ、フェンリルさんやっぱりあなたは敵です!!」
「おお、気が付いたかソウマ。あ、エルハイミ母さん骨付き肉追加ね!」
「お兄ちゃん、このおっきな人がお姉さんですか…… ううぅ、本当におっきいです。私、将来ここまで大きくなるかななぁ…… (自分の胸をペタペタ触る)」
「おお、ソウマ、気が付いたかぁ~ (お肌テカテカ)」
『ソウマ君、大丈夫? (こっちもお肌テカテカ)』
『ミーニャ様、落ち着いてください、また女神様に叱られますよ? (さらにお肌テカテカ)』
「ふんっ! いやはや良かった良かった、はぁっ! (見事な筋肉ポージング)」
ぴこっ! (しゅたっと片手をあげる)
そして周りからもみんなの声がする。
「気が付いたか、ソウマよ。見事だったぞお前の攻撃。この俺にあそこまで手を煩わせるのは久しぶりだった。お前は良き戦士になれるな」
さらに僕を見下ろすその影は人の姿に戻ったあの鬼神!
「え、ええぇとぉ……」
僕は姉さんに助けられながら起き上がる。
そこは明るい少しピンクや黄色、そして暖かな日差しと言うかそんな感じのまるで天国のような場所だった。
そんな僕はふかふかのベッドに寝かされていたようだけど、今はみんなに取り囲まれている。
「もう、ソウマ無理しちゃだめじゃない! でも、ソウマがお姉ちゃんの為にここまで来てくれるなんて…… もうこれは『愛』ねっ! ソウマ、やっぱりお姉ちゃんソウマの事諦められないよぉっ!!」
「ぶっ!」
そう言いながらフェンリル姉さんは僕に抱き着くのだけど、相変わらずあの大きな胸に顔が埋まり呼吸が困難になる。
「「「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁぁぁぁっ!!!!」」」
途端に上がるエマ―ジェリアさんとミーニャ、そしてタルメシアナちゃんの声。
「ふう、全く。ソウマになってからジルはモテモテですわね? しかしやっと目が覚めた。これでちゃんとお話が出来ますわね?」
「ぷはぁっ! お、お話し?」
何とか姉さんの胸から顔を脱出させ、僕はエルハイミねーちゃんを見る。
するとエルハイミねーちゃんは人差し指を、びっ! と立てて僕に向かって言う。
「そうですわ、とぉおっても重要なお話ですわ!」
珍しくエルハイミねーちゃんの顔は真剣だったのだ。
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