第199話8-23守る者その二
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
やぁあっと補充出来ますねぇ~♡(ソーシャ談)
ガーディアンのウリールを大人しくさせ、僕たちは先を急いだ。
ウリールのいた部屋の奥に扉が有ってそこを通るとまた通路になっていた。
「ソウマ、さっきはあいつが隙を見せたから簡単にタルメシアナがクリスタルに触れられたけど、あいつの実力は実際にはあんなもんじゃなかったわ。この先も気を付けてね」
「はい、あ、次の扉が見えてきました!」
セキさんと先を急ぎながら前を見ていると次の扉が現れた。
先ほどの扉と同じだけど、次のガーディアンだってどんなのだか分からない。
僕は扉の取っ手に手をつく。
「みんな、開けるよ!」
そう言いながら取っ手をひねって扉を開ける。
すると先程のウリールがいた部屋と同じような場所に出る。
ただ違うのは部屋の真ん中に椅子に座って一人の女の子が横笛を吹いている事だった。
「この子が次のガーディアンですの?」
エマ―ジェリアさんがその子を見ると彼女はゆっくりと横笛を吹くのをやめてこちらに顔を向ける。
背中に四枚の白銀の翼を持ち、背中まである長い真っ白な髪の毛が違和感を感じるけど、まるでお人形さんの様なその顔は開かれた青い瞳に思わず吸い込まれそうな位に奇麗だった。
「ちょっと、ソウマ君? 何あんな奴に見とれてるのよ!?」
ミーニャがいきなり僕の耳を引っ張る。
「痛たたたた、何だよミーニャ痛いじゃないか?」
「ソウマ君が敵に見とれてるのが悪いの!」
ものすごく不機嫌になるミーニャ。
しかしその女の子は僕たちのそんな様子を見てクスリと笑う。
『ここへ人が来るのは久しぶり。でも女神様からなにも連絡が来ない。だからあなたたちはここ通っちゃだめ』
彼女はそう静かに言う。
「そうもいかないのよね、お姉さまに会いに行かなきゃならないのよ、あたしたちは!」
言いながらミーニャは手を振ると金物を引き裂くような音がした。
ギィギャァギャギャギャギャギャ!!
「なっ!? あたしの空間操作を邪魔するの!?」
『いきなり空間を動かすのは危ない。そう言う事しちゃだめ』
言いながら彼女は手を振る。
ギィイィヤァン!!
ぱきーんっ!
耳障りな音がして最後にガラスが割れるような音がした。
「なっ!? 完全に空間操作を断ち切った! あんた何者よ!?」
『私はラファール。女神様にここを守るよう言い付けられた者。あなたたちこれ以上先に行っちゃだめ。でないと私があなたたちを殺す事になる……』
物悲しそうにそう言うラファールと名乗るその少女。
しかしミーニャはそれを聞いて肩を揺らし笑う。
「くっくっくっくっくっ、このあたしに啖呵切っておいてただで済むと思うの!?」
そう言ってミーニャは魔力を高める。
しかしラファールは何も言わず静かに寂しそうにミーニャを見る。
「喰らえ! 空間断絶!!」
ミーニャはどうやら空間をずらしラファールを捕らえようとしたようだ。
いや、空間がずれたら体がずたずたに切り裂かれてしまう!
「ミーニャ、それはやり過ぎじゃ!」
思わず叫ぶ僕にしかし聞こえてきたその声は驚くモノだった。
『無駄よ。私の能力は全てを無に帰す力。女神様に与えられたリル様の力と同じ。この世界の全てを無に出来る力……』
ぐぎゃぁああああんっ!
またまた耳障りな音がして最後にパキーンと言う音がしたかと思うとミーニャが驚く。
「嘘っ!? あたしの空間断絶を消した!?」
『わかったら大人しく帰って。これ以上何をしても無駄……』
「だからと言って引ける訳無い! 【炎の矢】よっ!!」
言いながらミーニャは大量の【炎の矢】を出現させ一気にラファールに撃ち込む。
数千はあろう【炎の矢】が一気にラファールに押し寄せる。
『無駄なのに……』
しゅぼぼぼぼぼぼぼぼ!
しゅんっ!
「なっ!?」
それがラファールに殺到してぶつかる寸前に全て見えない壁に吸い込まれるかのように消えていった。
「ミーニャ、下がりなさい! あたしが!!」
「だめっ! こいつに物理的攻撃するとセキちゃんのその手足が持っていかれるわ! こいつ、本当にマナを分解して魔力と魔素に還元し、消し去っている……」
『そう、それが私の能力。女神様が私に与えた力なの。だからこれ以上無駄な事はしないでほしい……これ以上殺したくないの……」
そう言いながらラファールは悲しそうに涙をにじませる。
「あなた、ガーディアンの癖に戦いを躊躇するのですの?」
『女神様の言いつけは絶対。だからこの部屋に来る人は女神様のお許しがなければ通しちゃだめ。ずっと、ずっとそうしてきた……』
エマージェリアさんのその問いにぽろぽろと涙を流すラファール。
なんか様子が変だ。
エルハイミねーちゃんの言いつけを守っている様だけど、本人は戦うのが嫌いなようだ。
「だからと言ってこっちも引く訳にはいかないのよ! 魔力を循環させる、この一撃にかける!!」
ぱんっ!
ミーニャは両の手を目の前で叩きそして魔力を循環させる。
そしてそれを右手に集め、まるでスクリューの様に練り上げる。
そして右手にまるでランスのようなぐるぐると回る魔力の塊を作り上げる。
「物質は魔素が魔力に、魔力がマナに、そして物体になる。ならばそれを連続して生成させぶつければ分解消滅する前に届くはず! この法則、たとえ貴様でも覆す事が出来ないこの世の真理! 我が魔力、すべてこの一撃にかける!!」
『無駄よ……それでもどんな攻撃も私には通じない。無駄なのよ……』
ぴくっ。
ミーニャは一瞬そのラファールの言葉に眉を動かす。
そして刹那ソーシャさんを見るとまたラファールを睨み言う。
「この世界の理、等価交換の原則を無視なんて出来ない! あたしの魔力が尽きるのが早いか貴様の能力処理が間に合わなくなるか勝負よ!」
どんっ!
そう言いながらミーニャは右手のぐるぐる回る魔力のランスをラファールにぶち込む。
キンっ!
しかしその先端がラファールの顔の前にぶつかる瞬間、見えない壁に阻まれ止まる。
そしてその切っ先からどんどんと消え去るけどミーニャのそのランスはどんどん再生してそれを押しやる。
「うぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
わずかだけど、その分解消滅するのが遅れラファールの顔先にそのランスの先が近づく。
『確かに消し去る力と作り上げる力、あなたの方がわずかに強いけど何時までその魔力が持つの? もう止めて、私の能力に魔力は必要ない。どんな攻撃でも私には届かないの……』
しかしミーニャは力押しでその魔力で練り上げたランスをぐりぐり回しながら押し込む。
どんどん消されるもそれでもまたわずかにその切っ先がラファールの顔に近づく。
『む、無駄だと言っているのに……』
そう言いながらもラファールが驚きに目を見開く。
だってミーニャのそれはまた少しラファールの顔に近づいたからだ。
「こなくそぉおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
ミーニャはそう言ってさらに右手を押し込む。
しかし
ずりゅん!
しゅぼっ!
「くぁああああああああああぁぁぁぁあぁっ!!!!」
いきなり魔力のスクリューが消えてミーニャの右手がラファールの顔に吸い込まれると思ったら肘から先が消し飛んだ!
慌てて無くなった右手を引っ込めこちらに転げ来るミーニャ。
「ミーニャっ!! エマ―ジェリアさん、治療を!!」
「はいですわ! 【治癒魔法】!!」
無くなった右手を押さえ転げまわるミーニャ。
僕は慌ててその傷口を押さえ、そしてエマ―ジェリアさんが【治癒魔法】をかける。
「ミーニャしっかりなさいですわ!!」
瞳を金色にしてあの心臓から大量に魔力を放出してミーニャの腕を治癒してゆく。
この【治癒魔法】は込められた魔力に応じて腕さえも再生できる。
エマ―ジェリアさんはエルハイミねーちゃんにもらったあの心臓のお陰で破格の魔力を生み出せる、僕と同じように。
しかし苦しみながらもミーニャはラファールを見てこう言う。
「だから無駄だと言ったのに、もう、諦めてと貴様は言う」
『だから無駄だと言ったのに…… もう、諦めて…… えっ?』
ラファールはミーニャが言ったのと同じことを言って驚く。
そしてさらに驚きの声を上げる。
『きゃぁっ! な、なにっ!?』
『うふふふ、可愛らしい女の子は大歓迎です。ミーニャ様のお許しもありますし、私が素敵な世界に連れてってあげますよ』
驚くラファールの後ろにいつの間にかソーシャさんが現れて羽交い絞めにしている。
「貴様は言った、『どんな攻撃』も消し去ることが出来ると。しかし『攻撃』でなければどうかしら?」
ミーニャは左手でラファールを指さす。
ずばぁあああぁぁぁぁん!
『なっ、そんなっ! んぁっ! 嫌ぁ、変な所触らないでぇ!』
『良いですねぇ、芳醇な少女の香り、若々しく力にみなぎっています。美味しそう』
そう言いながらソーシャさんはラファールを羽交い絞めにする手の動きが絶妙に活発になって行く。
「タルメシアナ! 今よ!!」
「あ、は、はいっ!」
とことことこ、ひょいっ!
ぴたっ!
『あっ!』
タルメシアナちゃんがとことこと走って行って飛び上がりラファールの額のクリスタルに手をつく。
途端にラファールは小さく声を上げたかと思ったらぐったりとソーシャさんに体を預ける。
「これで良いわね。ふう、エマ助かったわ」
再生された右腕をにぎにぎと動かし確かめているミーニャ。
それを見てほっとして息を吐くエマ―ジェリアさんだったけど、いきなり僕とタルメシアナちゃんを引っ張って向こうの扉に駆け出す。
「わわわわっ、ど、どうしたんですかエマ―ジェリアさん!?」
「エマお姉ちゃん、なに? なに!?」
「良いからソウマ君とタルメシアナちゃんは速く行くのですわ!! もう、ミーニャあなたも今は自重させなさいですわぁっ!!」
真赤になって騒ぐエマ―ジェリアさん。
どうしたって言うんだろう?
「何よ、別にいいじゃない。お姉さまたちもやっている事だし」
「だからと言って、こ、こんな所でですわっ!!」
なんか大慌てなエマ―ジェリアさん。
と、セキさんもフォトマス大司祭様も一緒になってこちらにやって来る。
「とりあえず二人目も何とかなったし、ミーニャは魔力大丈夫なの?」
「まだ半分くらいあるわよ。あれはソーシャをけしかける為の演技よ。もっとも、エマの【治癒魔法】には期待していたけどね」
「そんな所で期待して欲しくないですわよ……」
エマージェリアさんはぶつぶつ言いながら扉をアイミに開けてもらって進んでいく。
『はうぅううううぅぅっ! んはぁんっ、ら、らめぇぇええええええええぇぇぇぇ♡!!』
なんか後ろの方でラファールの変な悲鳴が聞こえてくるのだった。
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