第196話8-20エムハイミ
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
うん、何言ってるかさっぱりわかんねぇ(リュード談)
「サンダードラゴン、お座りっですわ!!」
『御意』
サンダードラゴンはエルハイミねーちゃんによってしこたま怒られしゅんとしてこの広場でお座りさせられている。
あの後僕たちが来たという事を知ってシェルさんは驚いていたけど、エルハイミねーちゃん…… いや、今目の前にいるのはもう一人のエルハイミねーちゃん、通称エムハイミねーちゃんだった。
壊れた建物や「鋼の翼」はあっさりとエムハイミねーちゃんに修復され、元通りとなり「鋼の翼」は祭事の時に離発着するこの広場に移された。
そしてシェルさんの視線は泳ぎまくっている。
「さて、これは一体どう言う事か説明してもらいますわ!」
「いや、エムハイミねーちゃんもシェルさんも先に服着た方がいいんじゃないの? 風邪ひくよ……」
エムハイミねーちゃんもシェルさんも素っ裸のままでいる。
なんかエマ―ジェリアさんの裸見ているようで落ち着かない。
シェルさんもあの大きな胸をブルンブルンさせている。
なんか姉さんみたいだな。
「あら、そう言えばあなたは…… ジルですの? 転生していたのですわね?」
じっと僕を見ていたエムハイミねーちゃんはそう言って手を振るとあっという間に衣服を身に着ける。
そしてシェルさんもいつもの恰好になっている。
改めてエムハイミねーちゃんは周りも見て首をかしげる。
「ジルに、イオマ、私に似ているのは確かエマージェリア、フォトマス大司祭はだいぶ若返っていますわね? それとこの鎧はゾナーに渡したもの? セキもあの束縛からいつ解き放たれたのですの? なんか小物の悪魔……あら、この子たちってサキュバスですの? アイミまで復活しているし。そしてこの子は……」
「お母さんですよね?」
「タルメシアナでは無いですの? どうしたのですの、こんな所にまでですわ?」
タルメシアナちゃんは首をかしげてしげしげとエムハイミねーちゃんを見ている。
エムハイミねーちゃんは腕組みをしてシェルさんを見る。
「シェル、これは一体どう言う事ですの? ちゃんと話しなさいですわ。でないと貴女の記憶を強制的に見ますわよ?」
「ああぁ~、えっとぉ、この件に関しては本体のエルハイミが既に処理したから別に言わなくてもいいかなぁって。それにタルメシアナがこんな所に来るなんて思いもしなかったし、私も早くあなたの子供が欲しくって……」
そう言いながらシェルさんは決してエムハイミねーちゃんの目を見ようとしない。
「怪しいですわね…… そう言えば少し前から本体のエルハイミとも連結が切られているし、エスハイミとも連絡がつかない。念話も今はセキとは出来ますけどコクたちには未だに出来ませんわね?」
そう言って更にシェルさんに顔を近づける。
既にシェルさんは脂汗をだらだらと流していた。
「大人しくしゃべりなさいですわ」
「ええぇとぉ……」
エムハイミねーちゃんに詰め寄られてシェルさんは渋々と色々を話し始めるのだった。
* * *
「なんという事ですの! 三百年ぶりにティアナが転生して復活していたのですの!? でも、覚醒はしていないとエドガーのお祈りが来ていたはずですわ……」
「だから、今のフェンリルはティアナであってティアナじゃないのよ。だから本体に任せたのに~」
エムハイミねーちゃんはその場にテーブルや机、お茶やお菓子を出してみんなを座らせ話を聞く。
勿論シェルさんからもいろいろ聞き出し、この天界に僕たちが来た理由も話した。
「そう言う訳で、エムハイミねーちゃんフェンリル姉さんを返してよ」
「ジル……では無くて、今はソウマでしたわね。ティアナが復活していたことは喜ばしいですが、完全覚醒をしていないのですわね? しかしエルハイミめ、本当にティアナを独り占めするつもりですの?」
「お母さんはそう言ってましたね。って、このお母さんもお母さんなのかな?」
タルメシアナちゃんはココアを飲みながら首をかしげる。
「タルメシアナは私も母として見てかまいませんわ。エムハイミである私もエスハイミである私も同じようなモノですから」
「ちょっと、それじゃあ私の取り分であるあなたが子連れになるって事? ただでさえコクに先を越されて悔しいってのに、私の取り分であるあなたまでタルメシアナの母親になるってずるい!」
「落ち着きなさいですわ、シェルに子供が出来ても私たちはちゃんと自分の子供として愛しますわよ?」
エムハイミねーちゃんはそう言ってお茶を飲む。
しかし憮然としているシェルさんは納得がいかない様だ。
「もうすぐ生理が来るからその前にもっとたくさん種付してもらわなきゃまた一年待たなきゃじゃない。エルフは生理が一年に一回しか来ないのだからチャンスだってその前じゃなきゃ……」
「だからあなたが戻って来てからは子作りに励んでいましたわよ、ずっと」
静かにお茶のカップをテーブルに置きなながらエムハイミねーちゃんは僕を見る。
「ごめんなさいですわ、ソウマ。今は本体であるエルハイミと連絡がつきませんわ。ティアナの事も気にはなりますが、今までの話を総合すると完全に同じ魂なのに別々の人格が混ざってしまい、本来のティアナでは無くなってしまっていますわね? もし本来のティアナであれば本体のエルハミも私たちと連結をしたままにするでしょうですわ。でないとティアナの争奪戦が私たちの間で始まってしまいますもの」
はい?
エルハイミねーちゃん同士が争奪戦を始める?
どうも理解できない。
「エムハイミ母さん、じゃあ本体のエルハイミ母さんが連結を切っているという事は……」
「セキも分かるでしょうですわ。私とは今近いから念話が復活していますが、同じ近くにいるエルハミには念話が通じていないでしょう? つまりまだティアナを覚醒できなくてあーんな事やこーんな事をしているのですわ!!」
ぐっとこぶしを握ってそれにおこマークを張り付かせるエムハイミねーちゃん。
ふるふると震えている。
「ずるいですわ! 覚醒していないとはいえティアナを独り占めとは!! いいですわ、私も協力して邪魔してやりますわ!!」
だんっ!
思わずテーブルに手を叩き付けて立ち上がるエムハイミねーちゃん。
「ちょ、ちょっとぉ! 私との子作りはぁっ!?」
「そ、それはちゃんとしますわよ、とにかくエルハイミのやつから連結をしてもらうか邪魔してやるかしないと気が収まりませんわ!!」
なんか無茶苦茶な事を言っている。
さっきからエマージェリアさんなんてキャーキャー真っ赤になってずっと騒いでいるし、ミーニャもリュードさんもフォトマス大司祭様も椅子に座ったままエムハイミねーちゃんに対してカチコチに固まっている。
僕はエムハイミねーちゃんにどうすればいいか聞く。
「じゃあ、フェンリル姉さんをどうやって返してもらえばいいのさ、エムハイミねーちゃん?」
「そうですわね、まずは直接この天界の中枢部にある『女神の間』に行くしかありませんわね。さっきから試していますが私でさえ今は空間転移が拒まれていますわ。だから直接『女神の間』に行くしかなのですが……」
そこまで言ってエムハイミねーちゃんは僕たちをぐるりと見る。
「途中には『女神の間』を守るガーディアンたちがいますわ。本来なら私もついて行きたいのですが多分、強力な本体からの結界により私はどうやってもそこへはたどり着けそうにもありませんわ。となれば正規のルートである『女神の間への道』を通るしかありませんわね……」
「げっ!? あの面倒な所を通るの? 私はパスよ、パス! それに早く子作りに戻らなきゃだめよ!!」
エムハイミねーちゃんがそう答えると真っ先にシェルさんが嫌そうな顔してそう言う。
そんなに「女神の間への道」って大変なのかな?
「とにかく、各ガーディアンは私か私の血が濃く出る者が額の水晶に触れれば大人しくなりますわ。ちょうどタルメシアナもいますし、エルハイミもタルメシアナは排除対象にしていないようですわ。タルメシアナが押さえたガーディアンたちの水晶に触れて大人しくさせれば最深部である『女神の間』にまで行けるはずですわ」
そう言ってタルメシアナちゃんを見るエムハイミねーちゃん。
タルメシアナちゃんは瞳をぱちくりしてエムハイミねーちゃんを見る。
「あの、お母さん? 私も行かなきゃだめですか?」
「あなた以外に私の血を引いている者は今ここにはいませんわ。セキは私の魔力により今の姿なので血のつながりとは違うのですわ」
そう言いながらエマ―ジェリアさんも見る。
「エマ―ジェリアも同じハミルトン家の血筋ですが、私の血を引いているわけではありませんわ。残念ながら駄目ですわね」
「でもタルメシアナちゃんを連れてその『女神の間への道』を通って行けば姉さんを返してもらえるんだね、エムハイミねーちゃん?」
「ティアナが覚醒しないのであれば今回のティアナはあきらめなければなりませんわ。でないと純粋なティアナの魂が崩壊してしまう危険性がありますわ。魂とは魔素を抱擁する器、その魔素が器と合致していなければ容易に器は崩壊してしまうのですわ」
「お、お姉さま、それって本当ですか!? じゃあ、あたしの魔王の魂も今のミーニャと相いれなければ崩壊するのですか!?」
思わずミーニャも話に加わる。
「これは冥界の女神セミリア様から聞いた事実ですわ。人間の魂だけでなく、この世界の魂は全て魔素を入れる為の器。魔素の性質はその魂の人物を形成する素。もしそれが合致しなければ器の崩壊が起こり魔素は全て世界に還元されてしまってその人物の魂は完全に消えてなくなるのですわ。それは魔王でも同じ。実は女神でさえそれは同じなのですわ。だから古い女神たちはその魂を安定させるために依り代の天界の星座に鎮座して崩壊を免れているのですわ」
エムハイミねーちゃんは神妙な顔をしてそう言う。
するとミーニャもエマ―ジェリアさんもセキさん、フォトマス大司祭様も大いに驚く。
「そ、それがこの世界の理、真実なのですわね……」
「いくら輪廻転生しても覚醒の重要性はそこにあったのか。だからお姉さまは表層のミーニャと言うあたしと魔王の魂の連結を切った、今のあたしがミーニャのままでいられるように……」
「あたしら竜族も同じって事?」
「しかしそれでは転生を繰り返せばその者が覚醒しない限り常にその魂は危険に犯されるという事になりますぞ?」
なんか分かっている人は一斉にその事をエムハイミねーちゃんに聞く。
正直なんか難しすぎて良く分かんない僕とリュードさんはさっきからずっと頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「あれ? でもそうすると私の魂も誰かの転生なんですか、お母さん?」
「いえ、タルメシアナは私とコクの器を分け与えそしてそこへ私とコクの魔素を注ぎ込んだのですわ。だからあなたはあなた、姿形が同じでもあなたは完全に別ので私たちの娘なのですわ。それはティアナの転生者の子供たち、私の子孫たちも同じなのですわ」
うん、何を言っているのさっぱりわからない。
「しかしそうするとフェンリルさんの魂はティアナ姫となる事が出来なければ崩壊してしまうという事ですの?」
「そう、なりますわね」
エマ―ジェリアさんが難しい話をまとめてくれる。
そしてエムハイミねーちゃんもそれを肯定する。
「そんな! じゃあ急いでフェンリル姉さんを取り戻さなきゃだめじゃないか!?」
僕は思わず席を立つのだった。
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