第191話8-15空
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
これって戦艦じゃないんだ……(ミーニャ談)
「じゅげむじゅげむごこうのすりきれブリキにタヌキにせんたっき、やって来い来い鋼鉄の翼ぁッ!!!!」
はーはーはー
約三時間大司祭様は休むことなく呪文を唱えていた。
しかしそれもやっと終わりを告げ、最後の方が唱え終わり大司祭様はぜーぜーと息を吐きながら最後に力ある言葉を唱え終わる。
きんっ!
ずざざざざざぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁ
途端に鎖が切れて離れ落ちていくような音がして「鋼の翼」が一瞬光りその封印が解ける。
「はーはー、ふ、封印が解けました。こ、これでやっと『鋼の翼』まで行ける‥‥‥」
ばたっ!
それだけ言って大司祭様はその場に倒れる。
「きゃーっ! 大司祭様ですわぁっ!!」
「ちょ、何、力尽きちゃったの!?」
「あ~、終わりましたか? あれ、倒れちゃった。じゃあこれ飲んでもらいましょう」
エマ―ジェリアさんとミーニャは何だかんだ三時間近く呪文詠唱を聞いていてその間うんうんと唸っていた。
かなり興味が有る魔法だったらしく、僕たちのお茶会には参加していなかった。
しかし大司祭様が倒れて流石に僕らも驚き、タルメシアナちゃんがポーチから回復ポーションを取り出し持って行く。
「はい、これ飲んで下さい!」
タルメシアナちゃんはそう言いながら大司祭様にそれを飲ませる。
すると途端に大司祭様の体が光り力がみなぎる。
カッ!
「ふぅぉぉおおおおおおぉぉぉぉっ! みなぎぃるぅううううぅぅぅっ!!」
大司祭様はその場で立ち上がりズビズバーンと言う効果音と共に直立になり片手を上げて踵を打ち鳴らしびしっと立ち上がる。
「女神様のぉぉお力はぁ、世界一ぃいいいいぃぃぃっ!!!!」
うん、なんかものすごく元気に有っちゃったね?
心なしか体も一回り大きくなったような気がする。
「タルメシアナ、一体何飲ませたのよ?」
「はえ? もしかしてこのポーションって人間に飲ませるとまずかったのでしょうか? 単なるフルポーションのはずなのですが??」
えーと、確かフルポーションって伝説級とされているポーションじゃなかったっけ?
飲めば死んでさえいなければ欠損した腕や足どころか、失明や老化でさえ回復するとかしないとか……
「す、すんばらすぅぃですぞ! 体に力がみなぎっておりますぞ!! 心なしか服もきつくなっているような!」
「いや、あんた誰だよ? あの大司祭様何処いっちまったんだよ?」
なんか筋肉を盛り上げてポーズを繰りかえす大司祭様。
筋骨隆々になり、白髪もほとんどなくなり、やたらと元気になっている。
『ああっ! 生命力あふれる男ぉ! ソウマ君も良いけどたまにはこう言うのも食べたいわぁ♡』
『私は遠慮しておきます。どうも男はがさつで。やはりミーニャ様のような美少女が甘くておいしいですからね』
ふっ、はっ! とか言いながら次々とポージングしている大司祭様。
既に別人になっちゃっている。
何故かそんな大司祭様を見てリリスさんはよだれを垂らす。
「タルメシアナ、あんた今後あたしらのモノむやみに人間に与えちゃだめよ?」
「うううぅ、分かりました。なんか大司祭様怖いです、お兄ちゃん」
セキさんに咎められ僕の後ろに隠れるように逃げ込むタルメシアナちゃん。
途端にミーニャやエマ―ジェリアさんがぴきぴきと頭におこマークを張り付かせる。
なんでなんだろうね?
「さてと、待ちに待った封印も解けた事だし、『鋼の翼』に乗り込もうぜ!」
リュードさんはそう言ってつり橋を見ながら親指を立てて指さすのだった。
* * *
乗り込んだ「鋼の翼」は正しく空に浮かぶ船のようだった。
ややも細長いその船体は帆船とは違い中央に艦橋が有った。
「なんか普通の船とは違うみたいですね?」
「うーん、ガレント海軍やシーナ商会の鉄の船に似ているわね?」
「確かに船体自体も鉄で出来ていますわね?」
甲板に立ってその様子を見る僕にミーニャは周りを見ながらそう言う。
エマ―ジェリアさんも手すりなど触ってそれが鉄で出来ている事を確認している。
「それでどうやってこれを動かすんだい?」
「それでしたらまずは艦橋に上がりまして女神様が毎回お告げで教えてくれますこの『鋼の翼』を起動させる力ある言葉を唱えればよいのです、はっ、ふっ!」
リュードさんの質問に大司祭様はまだいろいろなポージングをしている。
なんか動いていないと落ち着かない様だね?
「タルメシアナ、力る言葉って知ってるの?」
「はい、クロエさんから次の新しくアップデートされた呪文を教わっています。水晶のある部屋に行って私が席に着いたら誰かが『艦長』と呼んでください、そしたら私が力ある言葉を唱えれば起動するはずですから」
セキさんの質問にタルメシアナちゃんは元気に応える。
なんか面倒くさいけど、これだけのモノを起動させるんだいろいろと手順が有るのだろう。
僕たちは大司祭様のいろいろなポージングを見せつけられながら艦橋へと行くのだった。
* * *
「ここね? 確かに水晶が有るわね、ああ、その椅子がそうね?」
ミーニャがその船室を見て興味深そうにしている。
エマ―ジェリアさん、リュードさん、セキさんにリリスさん、ソーシャさんにアイミもぞろぞろと中に入ってゆく。
「ここですね、それじゃあ座ります」
タルメシアナちゃんはそう言って水晶の後ろにあるひときわ高くなっている椅子に座る。
そして僕に向かって言う。
「ソウマお兄ちゃん、始めます。私にさっきの言葉を言ってください」
「うん、分かったタルメシアナちゃん。それじゃ、『艦長』!」
「『艦長では無い、船長と呼べ』。はい、これで良いはずです」
タルメシアナちゃんに僕が言葉をかけるとタルメシアナちゃんは力ある言葉を唱える。
すると正面の水晶が輝き出し始めあちらこちらが動き出す。
「おおぉ、いよいよ『鋼の翼』が動きますぞ! いよいよ天界への道が開くのです、ふんっ!」
大司祭様はそう言いながらここ一番の笑顔で背中の筋肉を盛り上げるポージングをする。
ゴゴゴゴゴゴゴぉ…‥‥
「鋼の翼」はいよいよ動き出し、空へ舞い上がり始めるのだった。
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