第182話8-7タルメシアナの旅立ち
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
えへへへへ、ソウマお兄ちゃんとお出かけだぁ!(タルメシアナ談)
「やっぱクロエのご飯は美味しいわね!」
セキさんは骨付き肉にかぶりつきながら上機嫌で次の骨付き肉を手に取る。
結局あの後僕たちは迷宮に泊まって休ませてもらう事となった。
「なんかすみませんね、泊めてもらった上にごちそうまでしてもらって」
「かまわぬよ、主様の関係者であり今後タルメシアナ様をおあずけするのですからな。ときにソウマ殿はタルメシアナ様の何処が気に入りましたかな?」
お礼を言っているとクロさんはにこやかな笑顔で僕にそう聞いてくる。
「はい? タルメシアナちゃんですか? とても可愛らしいですし、礼儀正しいですよね?」
「ふむ、純粋にタルメシアナ様のそう言った所に引かれたと。安心しました、どうも主様の関係者には偏った趣味をお持ちの方が多いもので」
「どう言う意味よ、クロさん!?」
「わ、私はソウマ君に責任を取ってもらう訳で、年下だからソウマ君が良いという訳ではありませんわよ!? それに二つしか年も違っていませんわ!」
「偏ったって言われてもな。女よりも男の子の方が良いって気づいちまったからなぁ」
「はむっ、ソウマはいい子だよ?」
クロさんのその言葉に何故かミーニャもエマ―ジェリアさんもリュードさんもセキさんも変に反応する。
しかしクロさんは腕を組み、しみじみと頷きながら言う。
「正直主様の回りには偏った趣味の方が多かった。今後タルメシアナ様がソウマ殿と一緒に行くとなればタルメシアナ様がご苦労するのではないかとこのクロ、心配でなりませぬ。タルメシアナ様、何か有ればこのクロをお呼びください。すぐにでも駆け付けますゆえ」
「はい? クロさん私は大丈夫ですよ? お兄ちゃんも優しいし、皆さんもよくしてくれますよ?」
「ううぅ、タルメシアナ様がお生まれになってたったの四年、もうお嫁ぎになられるとはこのクロ、夢にも思いませなんだ!!」
上を向き拳を握りながらうるうると涙するクロさん。
そして僕の手を取ってぐっと顔が近づいてくる。
「ソウマ殿、是非にも正妻はタルメシアナ様にお願い致しますぞ! 妾や愛人などいくら作ってもかまいませぬから、どうかタルメシアナ様だけは幸せにしてやってくだされ! このクロの一生の頼みですぞ!!」
「え、ええぇっ!? な、何を言っているんですか、クロさん!?」
「クロ様、ちょっと落ち着くでいやがりますよ。タルメシアナ様はソウマの下へ嫁ぐわけではないでいやがりますよ?」
何か大きく勘違いをしているようなクロさん。
つかさず訂正を入れるクロエさん。
しかしクロさんはまだ涙をウルウルとしながら僕の手を握ったまま顔が近い。
「うーん、お兄ちゃんならいいカモ//////」
がたっ!
「なっ!?」
「だ、駄目ですわ!」
しかしタルメシアナちゃんはいきなりとんでもない事を言い出す。
そのせいでミーニャもエマ―ジェリアさんも食事中だというのに思わず席を立つ。
「まぁまぁ、あんたたち落ち着きなさいよ。タルメシアナ、お嫁に行くってどう言う事か知っているの?」
「はい、手をつないだり、一緒にお食事したり、楽しくおしゃべりすることですよね?」
あどけない純真な笑顔ではっきりとそう言うタルメシアナちゃん。
それを聞いてミーニャもエマ―ジェリアさんも一旦席に座り直す。
するとセキさんはタルメシアナちゃんに骨付き肉を「びっ!」と向けて言う。
「タルメシアナ、お嫁に行く前にもそう言う事しても良いのよ? でも最初はお友達からね。分かった?」
「はいっ! お兄ちゃん、お友達からお願いします!」
にこやかにそう言うタルメシアナちゃんにこの場にいるみんなが大きく息を吐くのだった。
* * * * *
「本当に子作りしているのね、あの二人……」
「当分部屋から出てこないでいやがりますよ。タルメシアナ様の時なんか数年間も部屋にこもったままでいやがりましたからね」
「次のお子も楽しみですな。そうそう、タルメシアナ様、このポーチをお持ちください。エルフの魔法のポーチにございます。このクロ、タルメシアナ様がご不便無いようにいろいろなものを入れておきました。どうぞ道中もお健やかに」
迷宮からあの箱で地上に出て来た僕たちはクロエさんやクロさんの見送りをしてもらっている。
セキさんはあきれた感じで地面を見てそう言っているけど、本当にエスハイミねーちゃんたちはあれッきり姿を見せなかった。
「め、女神様は慈愛のお方。お、お子を設けるという事は、す、素晴らしい事ですわ……//////」
「ま、まあ、お姉さまも大変でしょうけど、コクちゃんも好きよねぇ//////」
『はぁ、魔力もらえたけど、物足りない‥‥‥』
『せっかく好みの黒髪の少女が目の前にいたのに残念ですね』
ぴこぴこ
エマージェリアさんやミーニャはなんか赤い顔している。
リリスさんたちは補給できなかったとか騒いでいたけど、魔力をもらえば大丈夫らしいので問題無さそうだね?
アイミは手を振りクロさんとクロエさんに別れの挨拶をしている。
「さてと、馬車の準備が出来たぞ。みんな乗ってくれ」
リュードさんがそう言い、みんな順次馬車に乗って行く。
するとタルメシアナちゃんがクロさんとクロエさんの前に行ってぺこりとお辞儀をする。
「それでは行ってきますね、クロさん、クロエさん!」
「道中お気をつけて、タルメシアナ様」
「タルメシアナ様、お気を付けてでいやがります」
二人はタルメシアナちゃんにお辞儀をしてからクロエさんはそっとタルメシアナちゃんを抱きしめる。
「タルメシアナ様、外の世界は迷宮と違うでいやがります。何か有ったら必ずセキを頼るでいやがります。タルメシアナ様は竜族であられる、私の教えきれなかった事はセキに聞くでいやがりますよ?」
「はい? 分かりました、クロエさん」
タルメシアナちゃんがそう答えると、クロエさんはタルメシアナちゃんから離れてセキさんに向かう。
「セキ、タルメシアナ様の事は同じ竜族であるお前に任せたでいやがります」
「ふう、あたしの子じゃないけど、分かった。ちゃんと面倒は見るよ、約束する」
セキさんはそう言ってニカっと笑う。
そしてタルメシアナちゃんは僕たちの馬車に乗り込み、馬車は動き出す。
「行ってきまぁ~す!!」
タルメシアナちゃんはクロさんとクロエさんの姿が見えなくなるまでずっと手を振るのだった。
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