第181話8-6エスハイミの打算
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
ふっふっふっふっ、邪魔してやる、してやるのですわっ!!(エスハイミ談)
女神様の分体であるエスハイミねーちゃんは今まで見た事がないような悪そうな顔をしてからにっこりと僕に振り向く。
「ティアナへの思いは捨てきれぬものがありますが、今のエスハイミである私は妻のコクと娘のタルメシアナを支えなければなりませんわ。ですので私自身が天界に行く事はあきらめますわ。その代わりにタルメシアナ、ソウマを引き連れて天界の私に会いに行くのですわ!」
「はいっ!? お母さん、なんで私が!?」
「あなた、タルメシアナに何をさせる気ですか?」
エスハイミねーちゃんはびっと人差し指を立てて僕に話始める。
「いいですのソウマ、人の身が天界に行くためにはドドス共和国に有るドワーフに作らせた『鋼の翼』に乗る必要がありますわ。そしてそれは十年に一度の祭事の為賢者や大司祭が天界へと行くための人間が唯一行く方法でもあるのですわ」
言いながら今度はその手を水平に平たくする。
そしてその手の甲の上を指さし続ける。
「本来なら天界は十年に一度決まった場所へ現れますわ。しかしその祭事はまだあと数年後なのですが私の血を濃く引く者がそれに乗って、力ある言葉を唱えれば道しるべが現れますわ。そうすればそれをたどって飛んで行けば天界へと到達できますわ。今は空間転移を封じられているのでこの方法以外に天界に行く事は出来ませんわ」
「えーと、つまりドドス共和国に行ってその『鋼の翼』ってのを借りればいいんだね?」
「そうですわ。そしてタルメシアナが一緒に居れば中央のオーブに天界の位置を示せますわ」
言いながらエスハイミねーちゃんは空いてる手で別の場所を指さし平たくした手をすぃ~っと動かす。
「あの、お母さん。私じゃなきゃダメなんですか?」
「エスハイミである私が一緒だとまたそこで本体であるエルハイミのせいで天界に入る事を拒絶される可能性がありますわ。しかし私の血につながる者であれば天界は無条件で受け入れてくれますわ。となれば今この下界で、そしてこの場で私の血を引くのはタルメシアナ、あなたになりますわ。そうそう、道しるべの力ある言葉は暖炉の裏に書いてあったと思いますわ」
エスハイミねーちゃんはそう言って、びっ! と人差し指を立てる。
タルメシアナちゃんは、ううぅ~とか唸りながらも渋々と首を縦に振る。
そしてクロエさんに言って一緒に暖炉の裏に書かれた言葉を見に行く。
なんで暖炉の裏なんだろうね?
「でも随分と協力的ね、エルハイミ母さん?」
「そう言えばそうね、お姉さまがお姉さまの邪魔になるような事をよく許すわね?」
セキさんとミーニャがそう言って首をかしげるとエスハイミねーちゃんはこぶしを握って笑う。
「うふふふふふ、本体であるエルハイミがティアナを独り占めしようなんて許せませんわ! 連結をつないでいるならまだ我慢も出来ますがそれを切ってティアナとあーんな事やこーんな事をするつもりだなんてずるいですわ! 連結が繋がらないなら邪魔してやりますわ!!」
笑っているけど目が本気だ。
しかも拳にはおこマークがついている。
エスハイミねーちゃん相当頭に来ているね?
しかしそんなエスハイミねーちゃんを見てコクさんは静かに言う。
「あなたが立場を分かっているならこれ以上何も言いません。天界にいるお母様には申し訳ありませんが、私はあなたと言う取り分さえあればあとはどうでもいいですからね」
にっこりと良い笑顔でそう言う。
「コク、あんた本当にエルハイミ母さんが好きなのはいいけど、そんなんで良いの?」
「セキ、お母様の分体を手に入れるまでに私がどれ程待ったか分かりますか? 大部分の能力は本体となるお母様に在りますが、分体でもお母様はお母様。私はお母様に愛されればそれで良いのです。それはもう一人の分体を手に入れたシェルも同様なのですよ?」
「そんなもんかねぇ~」
コクさんのその言葉にセキさんはあきれてそう言う。
しかし本当にこのコクさんってのもエルハイミねーちゃんが好きなんだな。
僕がそんな事を思っているとエマ―ジェリアさんがおずおずと聞いてくる。
「あ、あの、女神様。私たちが今しようとしている事は女神様の意に反する事なのですわ。それでもお許しになるというのですの?」
「エマ―ジェリアでしたね? もう思い切り邪魔しちゃいなさいですわ! 出来ればそのままティアナをエルハイミから奪い取ってしまいなさいですわ!! 連結もさせてくれないエルハイミなんて私同様につらい思いをするがいいですわ!!!!」
あー、本音が駄々洩れだ。
確かにエルハイミねーちゃんってティアナねーちゃんのこと大好きだったけど、今だにそれは変わらないんだなぁ。
「ああぁ、こんな事だったらイオマの時にあたしも頑張っていればお姉さまが手に入ったのかぁ。でも人間じゃ寿命が尽きちゃうもんね。それに今はソウマ君が手に入ればいいし!」
そう言いながらミーニャは僕に抱き着いてくる。
「なっ! 何をしているのですの!? ソウマ君から離れなさいですわ!!」
エマ―ジェリアさんもそう言って僕の腕を引っ張る。
そんな様子を見てセキさんはため息をつく。
「なんか昔のエルハイミ母さんたちを見ている気分ね」
「それでも愛は勝ちます。どんなに困難でも苦しくても、信じるのならば必ず最後に愛が勝ちます」
コクさんはそう言ってぐっとこぶしを握る。
そんな様子を見て後ろでクロさんがハンカチで涙を拭きながら「黒龍様、お辛かったですね」などと言っている。
「あー、なんかソウマの回りに女ばかり寄ってきやがって、俺もソウマといちゃいちゃしたいのによぉ」
「だからあんたはソウマに手を出しちゃだめよ?」
「ちぇっ」
リュードさんはお茶のカップを置きながら何か言ってるけど、セキさんに何か言われてそっぽを向いている。
でも、なんだかんだ言ってエスハイミねーちゃんとコクさんの夫婦喧嘩はこれで終わった様だ。
「な、何ですかこの状況は? お兄ちゃんにお母様がお母さんにしているみたいにべったりと女の人がくっついている?」
「タルメシアナ様、そう言う所は見習わなくてもいいでいやがりますからね?」
どうやらタルメシアナちゃんが戻って来たらしい。
するとエスハイミねーちゃんはくいくいと僕を呼ぶように指を動かしている。
一体何なのだろうと近寄るとにこやかな笑顔でこう言う。
「タルメシアナをつけますが、まだ小さいですしいくらソウマでも手を出したらただではおきませんから忘れないようにですわ」
「はいっ!? 何それ、エスハイミねーちゃん!?」
「どうもあなたは女の子に好かれる運命の様ですからですわ」
って、僕なんかが女の子に好かれるはず無いじゃないか?
姉さんを取り戻す為にみんなが協力してくれているだけで、エマ―ジェリアさんとだって最近やっと少し仲良くなれたくらいだってのに。
しかし‥‥‥
「うー、お兄ちゃんずるいです、私も!」
そう言ってタルメシアナちゃんも僕に抱き着いてくる。
「「ああぁーっ!!」」
途端にミーニャもエマ―ジェリアさんも声を上げる。
「タルメシアナも嫁ぎ先が決まりましたか? ではあなた、次の子を頑張りましょう! さぁ今すぐにでも!!」
「はぇっ!? ちょ、ちょっとですわぁ!!」
がしっ!
ずるずるずる……
言いながらエスハイミねーちゃんはコクさんに掴まってどこかへ引っ張られて行ってしまう。
それを見てエマ―ジェリアさんは真っ赤になってキャーキャー騒いでいるけど、クロエさんとクロさんは大きくため息をつくだけだった。
「とりあえず、そうなるとドドスに行かなきゃか? エスハイミ母さんとコクは子作りに入ったみたいだから当分会えそうにないし、クロエあたしたちも一休みしたらドドスに向かうわ。タルメシアナも準備をしてね」
「はい! 分かりました。お兄ちゃん、これからもよろしくね!!」
セキさんがそう言うとタルメシアナちゃんは僕に引っ付いたまま、ひょいっとそちらを向いて好い笑顔で返事をするのだった。
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