第180話8-5夫婦喧嘩は犬も食わぬと言うけれど
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
また何か企んでいやがりますね、主様‥‥‥(クロエ談)
「二人ともそこまでよ!」
セキさんはそう言いながら嵐の様な中に飛び込んで行って炎を吐き出す。
その炎はエルハイミねーちゃんとコクさんの間に着弾してはじけ、燃え上がる。
「なんですの!?」
「くっ! この炎はセキですか!?」
流石にセキさんの炎の為エルハイミねーちゃんもコクさんもその炎を避けるように一旦下がる。
そして飛び込んできたセキさんを見て二人同時に叫ぶ。
「邪魔をしないでくださいですわ!」
「セキ、今は忙しいのです! あなたにかまって等いられないのです!!」
「二人とも落ち着きなさいってのよ! エルハイミ母さんがフェンリル、いや、ティアナ母さんを連れ去った事について詳しく聞きたくないの?」
ぴくっ!
ぴぴくっ!!
セキさんを無視してまた二人でやり始めようとしたもののその言葉を聞き流石に二人とも動きを止める。
そしてお互いをちらっと見てからセキさんを見る。
「セキ、一体天界ではどうなっているか教えて欲しいですわ」
「いいでしょう、あなた、一旦休戦です。セキの話を聞きましょう」
エルハイミねーちゃんもコクさんもそう言って戦うのをやめる。
途端に僕の近くにいたクロエさんとクロさん、そして服の端っこを掴んでいたタルメシアナちゃんが大きく息を吐くのだった。
* * * * *
「ジルにイオマに、そしてゾナーの子孫ですの? ああ、こっちの私に似ている子は覚えていますわ、確かエマージェリアでしたわね?」
エルハイミねーちゃんはぼろぼろになった此処にイスとテーブルを作り出し、そしてクロさんが入れたお茶を飲みながら僕たちの挨拶を聞いてそう言う。
「えーと、こっちの女神様もエルハイミねーちゃんでいいんだよね?」
「ええ、ジル……では無くて、今はソウマでしたわね? どうも本体の私が『世界の壁』を修復終えた頃より連結が途絶えていて、いくら連絡しても通じないのですわ」
そう言いながらセキさんを見る。
「そうすると、お姉さまってあのお姉さまがあたしのいた魔王城で何やってたかも知らないの?」
「そうなりますわね。しかし、イオマが今はこんな可愛らしい女の子になってしまうとは、でも私に魔王の魂との連結は切られていますのよね?」
「繋げてくれるの、お姉さま?」
「残念ながらそれは出来ませんわ。魔王の力は破格ですわ。見た所今のあなたでも相当な力は残っているはずですわよ?」
「うっ、そ、それはまぁ……」
どうもミーニャのやつまだ魔王の力を欲している様だな?
駄目だって言ってるし、せっかくご近所迷惑の根源も収まったんだからいいかげんあきらめてもらいたいよ。
「それでセキ、エルハイミお母様が赤お母様を見つけ出し天界にいるとは本当ですか?」
「そうですわ! ティアナが三百年ぶりに復活したのですわ! 一体どうなっているのですの? 神殿のエドガーのお祈りで復活までは聞いていましたがまだ記憶が戻っていないと聞いていましたのに!?」
うーん、同じ女神様のはずなのにどうもここにいるエルハイミねーちゃんは色々と知らない様だ。
僕がそんな事を思っているとセキさんが要約して事の顛末を話しだす。
*
もともとはミーニャの魔王の覚醒については、シェルさんがコクさんがエルハイミねーちゃんの子供が出来たって事でショックを受けてジルの村の管理がおろそかになったのが悪かったらしい。
ジルの村はエルハイミねーちゃんに関わる人や、問題のある人の魂が集まって転生出来るようになっているらしく、生まれた人たちはみんな他の場所の人たちより数段優れている能力を生まれながらに持っているとの事だ。
そしてとくに問題が有るのがティアナ姫の魂と魔王の魂を持つ者が生まれた場合。
この二人の魂が生まれた場合はいち早くティナ姫は覚醒してもらいエルハイミねーちゃんの下に行き、魔王の魂は枷をはめ、それが覚醒しないようにして来たらしい。
他の僕たちは「先生」として何度も転生している人に教育を受けさせられ心穏やかに平和に暮らせるようにし向けられているそうな。
だからかな、先生ってとても強いし、いろいろと知っているし、そして女神様に救われたってよく言っていたっけ。
……元は一体どんな人かちょと気にはなるけど、それは置いといてそう言った理由からミーニャの魔王復活がされてしまった。
いろいろとあったけど、丁度ティアナ姫の魂を持つフェンリル姉さんも転生を終えて、本体であるエルハイミねーちゃんが三百年前の問題で「世界の壁」を修復するのに動けないからって事もあり、自分の分のエルハイミねーちゃんが心変わりするのを恐れ、シェルさんがフェンリル姉さん事を内緒にしていたらしい。
おかげで姉さんは最近までティアナ姫の記憶を取り戻すことなく覚醒をしなかった。
そして僕と一緒に長老の命を受け、ミーニャを連れ戻す旅に出たのだけど……
「最後の最後でお姉さまが現れてあっという間に魔王軍は消滅、あたしも魔王との魂連結を切られ事実上魔王はこの世から消えたわ。そして一つの体、一つの魂に二人の人格が出来てしまったフェンリルさんをお姉さまが『説得』と言う形で天界に連れ去ったって訳ね」
途中から要点を得ないセキさんに変わってミーニャが説明をしていた。
セキさん、クロさんからもらった骨付き肉にかぶりついているんだよなぁ……
「つまり、今の本体であるエルハイミがティアナを独り占めする為に私エスハイミやエムハイミとの連結を切っているという訳ですのね? くううぅっ! エルハイミのやつぅっ!!」
「あの、エルハイミねーちゃんって元は一つだよね? なんでそんなことするの?」
「それは私から説明しますね。あなた、もう一度言います。あなたは私のモノですよ? 三百年前の約束は果たしてもらいますからね?」
「で、でも一目くらい良いではありませんの……」
「お母さん、いいかげんにしなよ。こう言う風に言い始めたお母様は絶対に妥協しないのは知っているでしょう? それに二人ともずっと私の事忘れてたでしょう!?」
コクさんが説明を始めようとするとエルハイミねーちゃん…… いや、目の前にいるのはエスハイミねーちゃんか。
タルメシアナちゃんも加わって話がそれそうになる。
「黒龍様、お茶のおかわりが入りました。ソウマ殿たちがお話を聞きたがっているようですが?」
執事のクロさんがまたエスハイミねーちゃんと口論になりかけているコクさんの目の前におかわりのお茶を置く。
なんてタイミングがいいんだろう。
年季の入った執事さんはやっぱり違うね!
「んんっ、すみませんでしたね。ここにいる通称エスハイミである夫は既に自我が本体と別れています。勿論その気になれば一つに戻れることにはなっていますが、私とクロ、クロエの様に元は一つでも完全に切り離して別の自我を持ち活動できるのです。ですので三百年前の約束通り今は私の夫としてこの迷宮にふさわしい主をしていただいております」
コクさんはそう言ってお茶をすする。
つまり、ここにいるエスハイミねーちゃんは同じエルハイミねーちゃんでも別人になるって事か?
エスハイミねーちゃんを見ると人差し指と人差し指をツンツンしながらぶつぶつ言っている。
「コクを愛するのはちゃんと愛していますわよ? ただ、ティアナが三百年ぶりに復活したとなればせめてひと目それを見てエルハイミに言って連結を回復してもらえばエスハイミである私はここで大人しくするって言ってますのに……」
「いえ、あなたの事ですからきっと赤お母様の転生者を襲い、自分のモノにしたがります。ですからいいかげん赤お母様は本体のお母様に任せてあなたはここで私と二人目を作ればいいのです!」
かちゃん!
コクさんはそう言ってカップをテーブルに戻す。
えーと、最後の方がよく理解できないけど要はここにいるエスハイミねーちゃんは大人しくしろと言う事だね?
「お、お母様、もしかして私の姉妹が生まれるのですか?」
「まだ仕込み中ですが、そのうち二人目も生みます!」
タルメシアナちゃんがアワアワとしているとコクさんはきっぱりと迷いなくそう言う。
途端にエマ―ジェリアさんやミーニャがが真っ赤になって、黄色い声を上げるけど、一体どうやって女の人同士で子供が出来るんだろうね?
僕は不思議に思いながらエスハイミねーちゃんにそれでも一番重要な事を聞く。
「エスハイミねーちゃん、エルハイミねーちゃんたちにとってティアナ姫って大切な人かもしれないけど、僕にとっても今は大切な最後の家族なんだ。お願いです、天界に行く方法を教えてください!」
「ソウマ? しかしティアナは覚醒したのではないのですの?」
「そこが違うのよ、フェンリルは今の人生をフェンリルとして生きたいって言ってるのよ。まあ、エルハイミ母さんもそれを承知しているから『説得』と言う事で連れ去ったんだろうけど、あの目は本気ね。必ず自分のモノにする気だったわね」
僕のお願いにセキさんの説明を受け、エスハイミねーちゃんは口元に手を当て何か考え始めている。
「まったく、エルハイミときたら私たちに内緒で一人でティアナを独り占めしようだなんてですわ…… せめて連結が有れば私もあきらめがつきますのに……」
「あなた、いいかげんにしてください。タルメシアナの次の子供は欲しくないのですか?」
「いえ、それはそれで欲しいですわ。でも、ティアナも…… しかし、なんか腹立たしいですわね、同じ私でもこういう扱いは許せませんわね? そうだ、良い事思いつきましたわ! ソウマ、今のティアナはそのフェンリルと言う人物で生涯を過ごしたいと言っているのですわね?」
「え? ええぇ、まあ姉さんはそう言ってましたけど……」
僕の答えを聞いてエスハイミねーちゃんはニヤリと笑う。
なんかこんな悪だくみするエルハイミねーちゃんの顔は初めて見る。
そう思っているとエスハイミねーちゃんは僕の方を向いてにっこりと笑う。
「いいですわ、協力しますわ。空間転移は防がれていますけど、正規の方法で天界には訪問できるはずですわ。ソウマ、あなたたちに天界に行く方法を教えますわ。そしてエルハイミにぎゃふんと言わせてやりますわ!!」
そう言ってふっふっふっふっふっと笑う。
「あ~、お母さんまたなんかとんでもない事思いついたみたい」
「相変わらずでいやがります。主様は鬼畜でいやがりますからね」
「とは言え、とにかくこの喧嘩が収まって助かった。あのままでは迷宮全部がダメになるところであった」
タルメシアナちゃんもクロエさんもクロさんもエスハイミねーちゃんを見てため息をつくのだった。
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