第179話8-4迷宮の中で
女神エルハイミにさらわれた姉のフェンリルを取り戻す為にソウマは立ち上がる。
この世界の女神に背くその行為は果たして姉のフェンリルを取り戻せるのか?
苦難の道のりを今、少年は歩き出す。
そんな熱い姉弟(師弟)の物語です。
あわわわわぁ、こんなの止めるなんて私には無理ぃ!(タルメシアナ談)
「なる程でいやがります。確かにそうなるとつじつまが合うでいやがりますね……」
クロエさんはそう言って腕を組みため息をつく。
そして僕たちを見てから聞いてくる。
「主様の本体がティアナ姫の転生者を見つけて説得をするとなれば、確かにここにいる分体の主様がちょっかいを出すのを防ぐでいやがります。そしてその気配を察知した黒龍様の事でいやがります、きっと分体の主様が天界に行くのも阻止するでいやがりますね……」
そしてもう一度溜息をつく。
「まあ、そんな所でしょうね? で、クロエあたしたちをコクに合わせてもらえる?」
「それはまあ、いいでいやがります。むしろ一緒に来てもらって早いところこの夫婦喧嘩を止めてもらいたいでいやがります」
クロエさんはそう言いながらさっきの四角い箱に僕たちを呼び込む。
そしてアイミ含め全員が乗ったのを確かめ扉を閉める。
「それでは一気に黒龍様たちがいる最下層へ行くでいやがります。タルメシアナ様、着いたら全力で防御でいやがりますよ?」
「はい? そんなに激しいんですか!? ううぅ、お母様の機嫌悪い時は近づきたくないのにぃ~」
「そんなに怖いお母さんなの?」
「お母様は容赦ありませんから。それに輪をかけてお母さんは笑いながらとんでもない事するからもっと怖いです」
エルハイミねーちゃん、一体全体タルメシアナちゃんに何してんだよ?
僕はふるふると震えるタルメシアナちゃんを見ていると箱全体が軽く揺れる。
そしてチーンと言う音と共にその震えは止まり、目の前の扉が開く。
開くのだけど……
「【絶対防壁】ですわっ!!」
いきなり突風の中、瓦礫が飛んでくる。
それをエマ―ジェリアさんが慌てて【絶対防壁】を展開して防ぐのだけど……
「あなたっ! いい加減に諦めてください!」
「だからちょっとだけでいいからティアナに合わせてくださいですわ!! ちょっとだけ会えれば素直に帰ってきますわ!」
どがんっ!
ガシャン!!
目の前がまさしくハルマゲドン。
最終戦争の様になっていて雷やら炎やら突風らとまず人が立っていることは到底不可のだろう。
「主様、黒龍様、落ち着いてください! お、お茶が入りましたよ!!」
そんな中、頭に白いものがちりばめられたオールバックの髭の執事さんのような人が懸命に喧嘩をしている二人をなだめている。
「あなた、私だけを愛してくれるって言うのは噓ですか!? 今更過去の女などどうでも良いではありませんか!?」
「ですから、一目、一目だけでも見たいのですわよ!! それだけですわ! コクの事もちゃんと愛してますわよ!?」
「私の『事も』とはどういうことですか!! 私だけを愛するはずですよ!!」
ずぼぼぼぼぼぼぉっ!!
がらがらどんがっしゃーん!!
「あわわわわぁ、お母様が本気で怒っているし、お母さんも手加減していない!?」
「だから言ったでいやがります。我々ではもう手が付けられないでいやがります! クロ様! セキを連れて来やがりました!!」
クロエさんがそう言うと向こうで二人をなだめようとしている執事のおじさんは慌ててこちらに来る。
既に体のあちこちに焦げた跡や傷が有るけど大丈夫なのだろうか?
「ク、クロエか! セキを連れてきたというが本当か?」
「クロ、久しぶり。しっかし凄いねエルハイミ母さんとコクの喧嘩」
クロさんと呼ばれたおじさんは肩で息をしながらエマ―ジェリアさんが張った【絶対防壁】の中に来て大きく息を吐く。
「セキよ、あの二人の喧嘩を止められるか? と、こちらの方々は?」
「主様の関係者でいやがります。イオマの転生者やジルの転生者、そして関係者の子孫でいやがります」
クロさんはセキさんに早速この夫婦喧嘩を止められるかどうか聞いて来たけど僕らに気付く。
するとクロエさんが簡単に紹介をしてくれるので僕も挨拶をする。
「あ、ソウマです」
「クロさん久しぶりね? 元イオマで今はミーニャって名前よ」
「あー、ども。リュードです」
「えっと、以前お会いしておりますエマ―ジェリアですわ」
ぴこっ!
『ねぇねぇ、このおっさん美味しそうじゃない?』
『私はあの黒髪のメイドの女の子の方がいいですね』
僕たちの挨拶にクロさんはまじまじと見ているけど、瓦礫が飛んで来て【絶対防壁】にぶち当たってはっとする。
「主様の関係者か、歓迎したいが今は取り込み中でな。それよりセキよ、同じ古竜であるのだからこの喧嘩、なんとかならぬか?」
「なんとかと言われてもねぇ。コクがここまで怒っているのなんて『女神戦争』以来じゃないの?」
そう言って向こうを見る。
僕もつられて見るけど、エルハイミねーちゃんはいつものエルハイミねーちゃんだった。
しかし黒龍であるコクさんを見て驚く。
「黒い女神様? いや、角や尻尾が有るから違うんだろうけど……」
エルハイミねーちゃんがもっと大人になったような姿だった。
もしかしたら姉さんより背が高いかな?
黒い衣服に身を包んでいるその姿は正しく神殿なんかで見かける女神様の姿そっくり。
「コクちゃんも大きくなったわねぇ。まあセキちゃんがここまで大きくなっているから当たり前か」
ミーニャもその様子を見ながら僕の隣にやって来てそう言う。
昔のことを思い出したミーニャと違って僕は全部は思い出していない。
だから前に聞いた黒龍のコクさんもエルハイミねーちゃんの魔力のお陰でエルハイミねーちゃんに似てしまったと言うけどぴんと来ない。
「セ、セキさん何とかなりますか? こんな状況じゃ私が出て行ってもぶっ飛ばされるのが落ちです」
タルメシアナちゃんはそう言ってはしっと僕の服の端を掴み後ろに隠れる。
「まあ、やってみるか。まずは声でもかけてみましょう、すぅうううぅぅぅぅ~」
セキさんはそう言いながら大きく息を吸い込む。
って、これって竜の咆哮じゃないの!?
僕たちは慌てて耳を塞ぐ。
それと同時にセキさんが咆哮を上げる!
「がろぉろろおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
何時になく大きな声だったようだ、耳を塞いでも大きな声が聞こえる。
それと同時にセキさんは飛び出し喧嘩している二人の間に炎を吐き出す。
ぼぼぼぼぼぼっ!!
「なんですの!?」
「くっ! この炎はセキですか!?」
二人の間に着弾した炎はボンっという大きな音を上げて燃え盛る。
流石にエルハイミねーちゃんもコクさんもその炎を避けるように一旦下がる。
そして二人とも喧嘩の間に割り込んできた人物、セキさんを見るのだった。
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